蒲公英病編 5話 発生源追跡任務5
「そこで問題となるのが本体の感情生命体ーー通称『蒲公英』の索敵能力となる」
封藤氏は話しながら『筒美流奥義』を発動させる。彼の支配域が突如として広範囲に広がる。おそらくこれは対人術、終ノ項の『鳥語花香』なのだろう。紅葉のものも何度も見た事があるがそれ以上に広大な範囲をカバーしていた。
「今お前らにも見えるように術の質を変化させたが、基本俺は常時このように対人術なるものを最低でも半径3キロメートルを範囲で索敵している。だが、索敵能力の性質の都合上、視覚や聴覚が使えない所が存在する『自殺志願者の楽園』では触覚や嗅覚、はたまた空気の味を確かめる為に味覚を強化に回し使う事がある。その為索敵の正確性と範囲が下がり『蒲公英』が生息するあの樹海では俺より先に奴が俺の事を見つけるらしい」
封藤氏の膨大な索敵能力も恐ろしいが、その目を掻い潜る『蒲公英』も相当である。
「それに十年以上、奴を追っているが姿を一度も目に触れた事が無い。明らかに俺だけを避けようとしている事からも気配の薄い『婢僕』をつかって俺の居場所を特定し、地中に潜りながら等立体的な動きを使い逃げ回っているのだと予想はしている」
『蒲公英』が封藤氏を避ける理由は、過去に『自殺志願者の楽園』が感情生命体の温床となっていた時、相当数を彼がたった2日単独で殲滅したからであろう。その様子を見ればどんな感情生命体であっても彼から逃げたくなるものである。
「だから俺は『蒲公英』討伐には参加できない。その為、ここにいるメンバーさらに少数精鋭で奴の場所を特定させる為にこの発信機を奴につけて欲しい」
彼が取り出したのは細長い針であった。鉄でできた物ではなく、 ERGによってできた物。何かしらの存在感のような物がその針からは感じられた。
「これは『筒美流』を使う事の出来る人間がいればおおよそ100キロメートル離れていても分かるものだ。刺すだけで相手の体内に入り、取り出す事は不可能。ただし作るのが大変でな、あまり多くの本数を渡す事ができない」
そういうと彼は机の上に十数本の針を置く。
「行くのであれば、二、三人ほど。奴本体の『衝動』の射程範囲は3キロメートルほどとなる為、『筒美流』が使用可能で、素早く隠密行動が出来る人員が必要となる」
すると、踏陰先輩や所要、私、白夜君に視線が集まる。だが、踏陰先輩と所要、白夜君は首を横に振りながら言葉を吐く。
「私はパスだ。そもそも『筒美流』はあんまり得意じゃないし、行く場所が『自殺志願者の楽園』なら特異能力が使えない。あそこは日の光が当たらない訳じゃ無くて、 ERGの影響で視界が歪んでいるだけだからな」
「僕も似た理由でダメかな。先日の『恐怖』戦から日が浅すぎるから、長時間戦闘に使えるだけの『嫌悪感』が溜まっていないんだ。並の感情生命体なら問題無いけど、今回のは長期戦になりそうだ。追跡任務に『嫌悪感』を使うよりかは討伐任務で使った方がまだ役に立つと思うよ」
「俺の特異能力は両親の死体を操って、その特異能力や『筒美流』を使うものです。『自殺志願者の楽園』で死体を使えないので、作戦の参加自体不可能ですね」
「ふむ、やはり皆『自殺志願者の楽園』での作戦行動は難しいな。やはり、紅葉が帰ってきて数日後、色絵家の翠と共に動くのが良いのかもしれないが、それでは死者が増えまた感染が拡大するだろう」
なら必然的に私の単独行動という事になるが……
「私に行かせてもらえませんですの?」
突如、水仙薔薇が立ち上がり封藤氏に問いかける。
「君は……」
「二尉の水仙薔薇ですわ」
「あぁ、水仙家の一人娘か」
周りの反応は各々で、天照さんと白夜くんは私と水仙の不仲を知っている為頭を抱えたが、踏陰先輩は良いかもしれないという顔をした。
「私は一部なら急ノ項まで『筒美流』を使えますわ。それに『蒲公英病』の『衝動』は可視化し、実体化していると聴いています。それなら電気分解の応用『雷轟電撃』によって『衝動』を弾く事ができますわ」
「急ノ項か……だが、『衝動』を弾く事ができるのは良いな」
不承不承ではあるが、私が単独行動を行ったり、翠や紅葉に連戦を強いるより幾分かマシではあるだろう。




