第一幕 11話 観戦室
観戦室にいる私、霧咲黄依は現在行われようとしている模擬戦の様子を見ていた。
「悪りぃ悪りぃ遅れちまったな」
「校長先生、遅いですよ。待ちくたびれました」
部屋に入って来た髭を生やした初老の男性に泉沢先生は注意をする。
「まぁまぁ、良いじゃねえか泉沢。それにあれが封藤兄貴の孫か」
「えぇ」
彼の名前は成願家保。この機関の校長にして、護衛軍の最高位大将の地位に就いている人。
「衿華、一応挨拶しに行くよ」
「あっうん!」
衿華の手を引っ張って成願大将の方に行く。
「お勤めご苦労様です、成願大将」
「おぅ。お前らは……」
「二尉の霧咲黄依です」
「三尉の蕗衿華です……」
大将は顔を交互に見ながら、目をパチクリさせて頷いた後、顔の皺をくしゃっとさせ笑う。
「すまんなぁ……忙しくてお前らの顔と名前が一致してなくて。そんなかしこまらなくて良いぞ、霧咲、蕗。それにほらもうあいつらの模擬戦が始まるぜ」
「あの二人は能力だけなら恐らく護衛軍佐官級の力を持っています。お二人にも多分良い刺激になるのでは?」
「そうですね」
私達二人は、設置されているの椅子に座り窓越しに模擬戦を見る。二人は何か話しているようであるが、こちらからは何も聞こえない。
そして、開始のブザーが鳴ったと同時に衿華の声が自然に漏れた。
「あっ……」
翠は不意打ちの如く転移の能力で銃を出し、筒美流奥義で肉体や弾速の強化して弾を放つ。紅葉は勿論それに反応し、最低限の動きで避けるが、
「不味い、紅葉その弾はまだ生きてる!」
翠は二発目を放つふりをし、攻撃動作に入った紅葉の真横に銃弾を転移させる。そして、その弾は紅葉の頭を直撃する。
軽く紅葉は身体を飛ばされるが直前にERGで壁を貼ったみたいだ。
「筒美紅葉さん、封藤さんと違って防御が強みみたいですね。あの反応速度と基礎技でこれだけの熟練度、流石直接教えて貰っただけあります」
「あぁ、そうだな、紅葉のやつ様子見しながら察知してたみたいだぜ、対人術序ノ項『花心』で空気の微量な振動を感知してから防御術序ノ項『開花』で壁を貼った。そんな所だろうよ。この質の高さじゃぁ、翠も隙を作るのには一苦労じゃないか?」
今度は紅葉が一瞬で翠との間の距離を詰め、拳から花びらのような形の空気を溢れ出しそのまま翠に殴りかかる。
が、しかし翠が転移をし、紅葉の拳は交換され先程弾かれた銃弾に当たる。
「どうした? 紅葉のやつ攻撃までに入る動作が遅いな……」
「彼女は攻撃する事を一瞬躊躇っているように見えたのですが?」
攻撃前の一瞬の隙。それは紅葉の決定的な弱点の一つ。もしその隙が無くても翠なら避ける事は出来たけど、それでもあの隙は致命的だ。彼女は感情生命体にさえあの隙を見せる。頭では分かっているけれど、身体が人に暴力を与える事に怯え、どうしても無意識の内に動作が遅くなるのだろう。
「罪悪感か……まるで感情で戦う俺達みたいな事をするんだな、アイツ」
「何言ってんですか。そもそも校長先生戦力外じゃないですか」
「えっ何この部下。急に目の前で悪口とか怖いんですけど」
「まぁ、それは置いておいて、私だけ目が見えないので中の音を聴いているのですが、どうやら筒美紅葉さんは怯えている音を出しています。過去に何かあったのでしょうか? 何か知っていますか二人とも」
紅葉の過去か。私はあの日、私の過去打ち明けた日、彼女の事に踏み込めなかった。あんな冷たい機械のような人形のような顔をされたらきっと誰だって踏み込めないだろう。
「紅葉ちゃん……やっぱりお姉さんの……」
それは衿華も同様だと思ったが、どうやら彼女の様子を見ると違うらしい。
「蕗衿華さん何か知っているのですか? かなり動揺しているようですが」
「……はい。でもこれは」
「人がズカズカと入って良い領域では無いと。では深追いはやめておきます」
「きっと……紅葉ちゃんは変わりたいと強く望んでいます」
一体衿華は紅葉の何を知ったの? でも、この気持ちは今どうでもいい。私が出来るのは紅葉を信用する事だけ。
「じゃあ今紅葉は自分自身を変える為に翠を乗り越えないと」
「貴女がそれを言うとは。結構気に入っているのですね彼女こと」
「そっそんなこと無いです! ただ彼女は誰よりも強い意志を持っているから、そこは尊敬してるんです! それ以外はただの変態です!」
「はっはっはっ! 青いなぁお前ら! 若い頃を思い出すぜ!」
「茶化さないで下さい、成願大将! ほら、模擬戦見ますよ!」
再び、翠が銃を乱射式の物に変え攻撃を仕掛ける。
「さぁ、見せてみなさい紅葉。貴女の力!」