蒲公英病編 4話 発生源追跡任務4
泉沢先生は封藤氏の指令に頷き、詳しい場所と状況を聴く。それが終わると瑠璃や翠の方へ向かう。先生がそれとなく特異能力で翠に場所を伝えると、瑠璃と先生の二人は彼女に触れられ転移の特異能力によってこの場から消えた。
「泉沢くんなら、まず大丈夫でしょう。こんな状態の私よりは絶対強いもの」
天照大将補がお腹をさすりながら、安心しているかのように呟くと封藤氏が彼女に対してものを言う。
「貴様は妊娠中くらい、休めバカ」
「バカとは一体何ですか⁉︎ 相変わらず元生徒に対しては毒舌というか辛辣というか、とにかく酷い人ですよね」
「……それはてめえらが出さなくていい犠牲者を出そうとしてるからだろ。今回だって俺がでしゃばらなきゃ、沙羅様の誘拐事件や『蒲公英病』についてどうしてたんだよ」
それを言われると天照大将補は苦い表情になる。
「うっ……それは……まぁ、これだけの大事件を起こしている事件が二つあることですし、出張に行ってる浅葱くんを呼び戻してなんとかするしかなかったのではないかなって思ってましたけど」
「それじゃあ遅いし、奴も今別の仕事をしている」
すると彼女は驚きながらふてくされ封藤氏に質問をする。
「私も知らないようなことなんで知ってるんですか?」
「あぁ……それはどうにかこっちに帰って来れないか直接俺が出向いてあいつに交渉に行ったからな。まぁでもその仕事が片付くまではこっちに戻って来れないらしい。奴がお前に言わなかったのは心配かけたく無かっただけじゃねぇの?」
封藤氏はめんどくさそうに言い、身体を伸ばした。天照大将補は溜息を吐くと安心したのか、はたまた怒っているのかそんなよく分からない感情が篭った声色で話した。
「……はぁ……変な所で私に気遣ってくれるんだから……」
「んで、話戻すぞ」
封藤氏が話を『蒲公英病』の話題に変えた。
「『蒲公英病』ーー改めて説明するがアレはとある感情生命体由来の『衝動』が原因となる病だ。その感情生命体の本体は確実に『自殺志願者の楽園』に生息しているが、その婢僕に当たる未確認植物が北陸地方へ生息地域を延ばしてきている」
実際に十年以上も前に衿華が発症している事からも、じわりじわりとどこかから感染経路を伸ばしていった感じなのだろう。それが今回の件で原因がようやく確定した。
衿華の他にも、少なくとも20,30年以上前から『異常な細胞増殖による破裂死』という病名が確定していない原因不明な病、およびそのカルテが存在している事からも多く見積もって『死喰いの樹発生』時程から100年前ほどの昔に自然発生した感情生命体が原因となっているだろう。
「これまでの調査と研究により奴の『婢僕』は『自殺志願者の楽園』以外では『死喰いの樹』の恩恵を受ける事が出来なく栄養不足で死んでしまい、変異種以外は即座に霧散していた。だから、2,30年前から生息地外で『蒲公英病』の症状が現れていたのは、『婢僕』の変異種によるものである可能性が高い」
『蒲公英病』を引き起こす『婢僕』は歩くタンポポの姿をしているらしい。色は赤黒くその小さな姿は不吉を思わせるような雰囲気があるとされている。
さっき封藤氏が言ったような理由や今回の『婢僕』が死んでしまっても『死喰い樹の腕』に回収される前に霧散してしまうという特殊性のせいで私は本物を見た事はない。
「しかし、昨今問題となっている大流行は変異種によるものが"原因ではない"。研究者によると普通種が『死喰いの樹』及び『婢僕』の親となる『感情生命体』の恩恵を受けなくとも、繁殖できるだけのエネルギーを持ち始めた事が今回の大流行の原因となる」
この病の恐ろしいところは、ただの普通種であっても『筒美流奥義』のかなりの使い手や特異能力者が油断をした瞬間、『蒲公英病』に感染してしまう事だ。
「大流行になるだけの数をどうして護衛軍に気付かれずに繁殖出来たのか、原因は定かでは無いがこれ以上感染が拡大する前に感染源を潰さなければいけない。当たり前だが、無数存在する『婢僕』を一体一体処理していくという仕事では全てを潰す前にまた繁殖されてしまうため、この大流行は止める事は出来ない。だから、感情生命体本体をまずは捜索するところから始まる」
つまり、無数に存在するであろう『婢僕』を無視しし、親である本体の感情生命体を見つけ囲み叩く事が今回の作戦となる。




