蒲公英病編 3話 発生源追跡任務3
筒美葉書の名に聞き覚えの有る私や瑠璃、翠は顔を見合わせる。しかし、その名を知らない幹部達は声をどよめかせる。そして、所要が封藤氏に対して質問する。
「……先生、貴方のお孫さん確か"二人"だけしかいないと記憶していましたが」
幹部達は何を動揺しているのだろうか。何の意図があってこの質問をしたのだろうか。確か、封藤氏には数人かは養子として育てていたと聴いていたが、血の繋がった孫は『紅葉』と『葉書』という二人で間違っていない筈だが。
が次の瞬間、背筋が凍ったような感覚と死ぬかもしれないという感覚が一気に身体中を襲う。
「俺の家族の話に首を突っ込むつもりか」
静かに、でも確実に怒っているという声が部屋に鳴る。殺気を浴び、奥歯が自然とガタガタと鳴り身体が動かない。『恐怖』の衝動とはまた違う恐怖で、人が気迫だけでここまで他者を恐れさせる事が可能なのかと思ってしまう程恐ろしいものであった。
そんな空気の中、様々な事を察した踏陰先輩はこれ以上は辞めろと警告をするが、所要は口を動かし続ける。
「……えぇ、失礼承知でお聴きします。貴方のお孫さんは『紅葉さん』と『漆我紅』だけの筈ですよね? 二人の両親は既に亡くなっているか、精神崩壊により入院中の筈です。その筈なのにもう一人孫が沸いて出てくるなんて一体どういうことか教えてもらってもよろしいですか? まさか、孫娘可愛さに貴方が『漆我紅』を保護しているなんて有り得ませんよね?」
「……ッ⁉︎」
樹教の教祖と紅葉は従姉妹同士……? そんな事、紅葉からは一切聴いていない……! 一体どういう事だ……? その話が本当なら紅葉は『漆我紅』と会った事があるの……?
より一層剣幕な表情を浮かべる封藤氏に、周りの空気が固まるような感覚がする。脳が、身体が、生存本能がここから逃げろと言わんばかりの命令を身体に下そうとする。だが、彼が声を発した瞬間それが全て解かれたように身体が軽くなった。
「……勘違いしているようだがそれだけは訂正しておく。紅葉は『自殺志願者の楽園』で保護した子供だ。他にも同じように養子にした子供達が二人いる。そして、葉書は血の繋がった孫だ。だから、決して『紅』と関係ある訳じゃない。それに紅葉以外は全員『蒲公英病』で死んだ。だから、今はあいつを……葉書が託した紅葉を本当の孫だと思って接している。これ以上、この話はやめてくれないか?」
その話を聴くと所要は泉沢先生に対してサインを送る。すると泉沢先生は首を横に振った。
「嘘は付いていないですね。……失礼しました。世界を何度も救った英雄に向かって疑いの眼差しを向けるなんて」
所要は封藤氏に対して謝る。
……確かに、紅葉に関して『そういう話』なら今までの行動に納得がいく。おそらく紅葉は自殺した親に捨てられた子であったから、葉書さんに対して執着しているという事。紅葉が私のDRAGを使った時、語ってくれなかった過去の正体は恐らくこれ。他人に話せるような内容で無いのは確かだ。
紅葉がDRAGを使ってまで特異能力者になったのは親を自殺に追い込んだ『自死欲の化身』でもある『漆我紅』を葬り去るため。または葉書さんを縛り付ける『死喰いの樹』をこの世から消すため。これらの為にどうしても力が必要だったのだろう。
だけど、何だろうか……何か引っかかるような。間違っていない筈なのに、何か違う気がする。でも、これを疑う事は紅葉を疑うって事に……
封藤氏は嘘をついていないなら、きっと大丈夫な筈だ。だけどやっぱり、心が少しざわつくような……
紅葉を心配する感情が表情に出ていたのか、水仙薔薇は私の顔を覗き見ていた事に気付いたが、彼女もそれに気付きすぐ視線を逸らした。
「さて、丁度話題に出たから言っておくが現場には紅葉も向かわせている。例の謹慎処分はそれだ。あいつは自分の意志で特異能力者になったと聞いた、それにあいつにはあいつなりに『漆我紅』に対してケリを付けなければいけない事もある。沙羅様によるともう既に事態は収束に向かいつつあるらしい」
「そこに行けば紅葉に会えるんですね?」
瑠璃は封藤氏に対し、迫るように質問する。
「ああ。瑠璃くん……君には紅葉の件で仮がある。もし、紅葉の事を大切にしてくれるのであれば、すぐにそこにいる姉の翠さんと共に紅葉を助けに行ってやって欲しい。そして、泉沢。お前はこいつらの補助で現場へと向かって欲しい。こいつらの家の事情、色々と知っているお前なら都合がいい筈だ」
「……了解致しました。すぐにでも出発したほうがよろしいですか」
「ああ、『蒲公英病』については残ったメンツで対策を練る。任せたぞ、泉沢」




