蒲公英病編 2話 発生源追跡任務2
転移した私達はすぐ彼等が囲んでいる机に備え付けてある椅子に座る。この机には私達や大将、元大将の他に大将補佐である天照先輩や泉沢先生、一佐官である踏陰先輩、所要、そして最後に私達の同期で朝柊の実の兄である操白夜くんがいた。
このメンツの共通点は元大将の筒美氏以外、全員特異能力者であると言う点であった。一同にこれだけの特異能力者が集まることは合同任務や贄についての緊急時以外はほぼ無かった。
護衛軍を辞めた筈の筒美氏が参加していること自体、今回の招集が異例の事態である事を物語っていた。
「さて、三尉以上の特異能力者、旅団長と紅葉以外全員に集まって貰った訳だが……」
踏陰先輩が話始める。おそらく、私達がここに呼ばれた理由は例の病ーー『蒲公英病』についてであろう。
「その話をする前に新しい顔ぶれもある、今一度紹介してくれるか? スイ、それにルリ」
二人はそれに反応し、それぞれ名乗る。勿論既に護衛軍の幹部中には知れ渡っている事ではある。筒美氏に至ってはあの夜、顔を合わせ会話をした程である。だが、公式の場では二人は会っていない事になっている。
「紫苑の妹達か。よろしく頼む。あと、俺の事初めて見る奴らも多いだろう。氏は筒美、名は封藤という、この組織の元大将だ。しがない老兵だと思ってくれて構わんよ」
笑い声を含んだ自虐。たったそれだけの筈なのに、その覇気に皆が圧倒され苦笑いをする。前回会った時とはまるで別人のように、その強さが周りの空気に滲み出し威圧感を出していた。
紅葉はその強さを別次元と表現していた。おそらく、彼ならあの『恐怖』ですら単独で撃破可能なのだろう。
すると現大将ーー成願氏が口を開いた。
「兄貴……とりあえずなんでアンタがここに来たか、なんでみんなを集めたか、それを教えてもらえないか?」
「言われなくてもそのつもりだ」
筒美氏に言葉を一蹴された大将はまたもや表情を苦そうに変える。
「お前達に集まって貰った理由は二つある。一つは例の流行病、『蒲公英病』についてだが、これは後回しだ。二つ目の方が緊急性を帯びているからな」
二つ目……? 『蒲公英病』が優先されない程の話とは一体どういうものなのだろうか。
「そして、二つ目だ。お前ら護衛軍の最上位の保護対象である贄が『焔』に誘拐され、現在樹教の教祖『漆我紅』と対峙中だ」
「……は?」
「何ッ⁉︎」
「……」
あまりにも現実性が薄いことで一瞬何が話されたのか理解できなかったが、すぐ筒美氏の言葉が何を意味しているのかわかった。
それは人類滅亡の危機が間近に迫っているという事であった。
「おいッ! どういう事だよッ! 兄貴ッ!」
「そうですよ、先生……ッ! 貴方が幾ら引退した身とは言え、そんな事態止められるのは死んでしまった止水先輩や外国に居る浅葱先輩、そして貴方くらいだ。つまり、現在この場には貴方しか事態に対処できる人間がいないということですよっ!」
事態の深刻さに焦る幹部達。泉沢先生は動揺し、筒美氏に意見する。
「……話は最後まで聞け。貴様は音に頼りすぎだ、泉沢。そんな事態誰もカバー出来ない状態であれば俺がここにいる筈無いだろ。状況と違う心の音が出ていたとしても、すぐそのように判断するのは軽率だ。昔、教えただろう」
「ごもっともです……先生。ですが、貴方の音を聴いても……その……静かすぎて……」
「だから頼りすぎるなと言ったんだ……話を戻すぞ」
あの泉沢先生が冷や汗を流すのが見えた。特異兵仗を持っていたとはいえ、私と衿華相手にあそこまで一方的に戦った先生が恐れに近い感情を抱いている。それほどまでに筒美氏は恐ろしく強いのだろう。
「近頃の『焔』の動向と自身の誘拐を事前に危惧していた沙羅様が俺に相談し、敢えて彼女を誘拐させる事にした。最初は危険すぎると否定したが、『焔』の頭領に彼女の兄である漆我紅蓮がいる事が発覚してな。奴も特異能力者だから何が起こるか分からない。無理矢理にでも沙羅様を贄から引き剥がす可能性もあった。だから、俺が推薦した二名の死者を贄の権能により一時的な黄泉返りをさせ、護衛をつける事を条件する事に敢えて彼に誘拐させた」
護衛につけた二名の死者……?
「その護衛につけた死者達は一体誰なのですか?」
「一人は先程名前の出た止水題だ。奴がいれば大抵の問題は大丈夫だ。それは此処にいるほとんど全員が理解している筈だ」
最強の特異能力者と名高い止水題。私が特異能力者になった際してしまった暴走を止めた元旅団長だ。
「そしてもう一人、俺の孫ーー筒美葉書だ」




