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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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蒲公英病編 1話 発生源追跡任務1

 私ーー霧咲きりさき黄依きいは朝の走り込みを行っていた。私自身が軍人である事そして類稀なる才能を持つ特異能力者エゴイストとしての自覚を持つ為に毎朝仲間達と行なっている行為ではあったのだが、その仲間も今は居なかった。


すいはサボり、瑠璃るりは爆睡してると思ったらどっかに消えたし、そもそも朝柊あさひは戦わないから無理に誘うのは悪いし……」


 後輩達のだらしなさに少々残念に思ってしまい、溜息が出るが、理由は決してそれだけでは無かった。水仙すいせん薔薇ばらの事だ。最近、特に絡むことが多くなってきたせいであの鼻につく喋り方と甲高い声を聴かないといけないとなると毎日が憂鬱になってしまいそうである。


「爆弾女は誘いたく無いし……先輩達も今更基礎練なんて嫌だろう」


 少し寂しいと感じながら朝の空気を吸う。随分と走るのには慣れた気がする。走る体力がついた所で特異能力エゴの持久力が上がる訳でも無いが、やはり体力の有無で戦闘の局面が変わってくる事もある。着実に成長しているという実感も、意識する上では大事な事だ。


 そんな事を言い聞かせながら、軍の敷地外に有る公園を走る。すると、横側から声をかけられる。


「あれ……黄依きいだ」


 そちらに視線を移すと、ジャージ姿の瑠璃と水仙薔薇が一緒になって走っていた。瑠璃はとても疲れた様子で膝に手を付いていた。


「はぁ……はぁ……黄依も走るんだ。走る前まで寝てたから起こすの悪いと思って誘わなかったんだよ」


 私が起きる前という事は……今が5時半くらいだし大体4時位に起きたのだろうか。随分と早起きな事だ。


「めちゃくちゃ疲れてるみたいけど、何時から走ってるの?」

「はぁっ……3時15分位からちょっとづつ休憩しながら走ってる」

「さっ……3時⁉︎ 2時間以上ずっとランニングしてたの⁉︎」


 思わぬ馬鹿ぶりに驚いてしまうが、水仙薔薇がそれでも息を切らしていない様子を見るとなんだか苛つきを越して驚いてしまう。


 普段からこの時間に走っていたのだろうか? 一体何の為に?


「あんたら全然寝てないんじゃないの……?」

「僕は特異能力エゴのお陰で寝なくても大丈夫だし、基本毎日寝てないよ」

「……わたくしは3時間かしら、今日は張り切りすぎて走りすぎてしまいましたからこんな時間になってしまったのですけど……」


 たった3時間しか寝てないのにどこからそんなダイナマイトボディが生まれるんだと考えつつ、流石に水仙薔薇もいつもより長時間走っている様子ではあったので少し安心はする。


わたくしはもう寮の方へ帰りますわね。疲れてしまいましたから」


 水仙薔薇はそれだけを言うと、気まずそうに帰った。


 その様子を見て気づいたのだが、もしかすると今までこんなに朝早くアイツが走っていたのは私と鉢合わせ無いようにする為だろうか……


「んじゃ、黄依は僕ともう少しだけ走ろっか」

「えっまだ走んの?」


 私が拒否しようとすると、突然私がポケット入れていた携帯電話に着信が入った。そして、私の物だけでは無く、この場から立ち去ろうとしていた水仙薔薇や瑠璃の携帯にまで同時に着信が入っていたのであった。


「あっ! 初めてこれに電話が来た! ってアレみんなも?」

「うん……」

「一体何でしょうかね」


 瑠璃は携帯を取り出すと不慣れそうに操作して、電話に出る。私ももちろんすぐにその電話に出た。どうやら私には踏陰ふみかげ先輩から電話が来ているようだった。


「もしもし?」

「もしもし? こんな朝早くにすまんな」


 同じく、瑠璃や水仙薔薇の携帯からも別の先輩から連絡が来ていた。


「ん……? もしかして、今電話にでたルリとキイとバラは同じ場所にいるのか?」

「えぇ、まぁ」

「丁度良い、召集だ。最上階の会議室まで来て欲しい。大将はともかく元大将まで来てる一大事だ。なるべく早めに頼む」


 元大将ーー紅葉もみじのお爺さんが来ているの……⁉︎ まさか、樹教に関する事で何か……


「アサヒは放って置いて良い。あとスイに能力で拾って貰うように指示したからよろしく頼む。じゃあ切るぞ」


 踏陰先輩の電話が切れた瞬間、瑠璃のそばに翠が転移して現れ、彼にそのまま抱きつく。


「瑠璃くっーん! おはよー!」

「うん、おはよう。翠ちゃん」

「黄依ねーさん、薔薇ねーさん準備して!」


 彼女は転移を繰り返し、そのまま私達の身体に触れると、一瞬で最上階へと転移した。


「来たな」


 まだ、此方の視界すらはっきりとしていない転移の刹那に厳格そうな老いた男性の声が聴こえる。


「うおッ! 急に現れたな!」


 少し遅れて、あまり覇気の無いーーこれもまた老いた男性の声が聞こえた。黒いスーツを来たこの二人の男性の正体は勿論、この護衛軍の頂点に存在する人間。


 元大将の筒美つつみ封藤ふうとう氏と現大将である成願じょうがん家保いえやす氏だ。


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