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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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プロローグ 操朝柊4

 特異兵仗アイデンについての概要は大体理解した。しかし、理論的にどのような作用機序でその効力が発揮できているのかをまだ仮説段階である。


 おそらく、特異兵仗アイデンの中に特異能力者エゴイストの身体の一部分が封入されているという話からも、特異兵仗アイデンを『身体の一部分』として身体に誤認させるものであるのだろう。


 そしてこの誤認させるために、特異能力者エゴイストから採取した細胞に含まれる特異エゴDAYN(ダイン)を『調律ハーモニクス』で調整や増幅しているのだろう。


 体外の物質でこれを行っているため、DRAG(ドラッグ)のように体内のDAYN(ダイン)の含有率が増える事により起こる感情生命体エスター化も起こらない。


 大体は当たっているだろうが、僕は流石に特異兵仗アイデンの専門家という訳では無いため、この仮説の所々の細かい部分は正確では無いだろう。


 朝柊あさひの言葉を100パーセント信じるのであれば、危険性については特段気にするような事では無い。


 だが、僕が危惧しているのは特異兵仗アイデンを作る際、特異能力エゴを朝柊に教えなければいけないといけないのかということだ。


 DRAG(ドラッグ)は使用者当人の特異能力エゴの性質を強化……つまりは特異エゴDAYN(ダイン)を増やすだけなので開発者が知っている必要は無い。


 しかし、特異兵仗アイデンは朝柊の能力の性質上、使用者の特異能力エゴがどのような理論と理屈で働いているのか知った上で『調律』を行うものなのだろうと予想することができる。


 この『物質操作サブスタンスコントロール』の能力について……特に、自分の心臓を中心に半径約1メートル分の球状の空間を"あらゆる物質を操作できる"空間にする能力ーー『完全領域パーフェクトテリトリー』について教えてしまうのは駄目だ。それを教える事で自分が感情生命体エスターである事の証明になってしまう。


「僕の特異兵仗アイデンはいつ作るのかな?」

「んー、まだ黄依(きい)さんの作り始めてもいなくて、それが終わっても次は薔薇ばらさんの作る予定が入ってるから半年後位にはなりそう」


 ならしばらくは大丈夫か。


 それに、僕の特異能力エゴ教えるとしても『肉体治療ボディセラピー』だけになる。そして万人に使える特異能力エゴという訳ではないと嘘をつき、紅葉もみじの協力ありでようやく他の人にもできるようになると伝えればまだ感情生命体エスターである事は誤魔化せるだろう。その為には、翠ちゃんや紅葉には勿論のこと、黄依にも協力してもらいこの嘘を共有しなければいけない。


「だから、私が空いた時声かけるから、お前も色々協力してくれ瑠璃。頼んだぞ」


 よいしょと声を上げながら朝柊はあくびをしながらソファから立ち上がる。


「また、作り方とかについてはおいおい伝えるからそん時よろしく。私は寝るから騒ぐなよ」


 それだけを言い残し、彼女はリビングから出て行った。


「朝柊、結構お疲れだったねー」

「それは翠さんが怒らせたからではないですの?」

「あはは、そりゃそうか」

「たくっ……本当に気を付けなさいよ翠。朝柊、結構神経質だし、本当に忙しいんだから。これからはちゃんとその特異兵仗アイデンも使ってあげなさいよ?」

「はーい」


 翠ちゃんが薔薇さんと黄依の間を取り持つかのように話す。こんな感じで彼女達がよそよそしい会話をしていると僕の方に話題が変わってきた。


「そういえば瑠璃くん、部屋は決まったの?」

「まだだよ」

「なんか希望とかある? 二階と三階の部屋は全部合わせて12部屋、空き部屋が6部屋あるから、二階でも三階でもいいけど」


 顎に手を置き考える。出来るなら紅葉の隣の部屋が良いのだけど……


「紅葉の部屋の隣って空いていますか?」


 すると薔薇さんは気まずそうに口を開く。


「紅葉さんの部屋は二階の廊下端にある角部屋ですのよ。だから正面には部屋はなくて、隣あっている部屋は……」

「私と衿華えりかの部屋よ」


 黄依は薔薇さんの話を割って喋る。


「残念だけど、衿華の部屋は使わないでほしい。私の為だし、勿論あの子や紅葉の為にも。私は衿華が死んで無いって信じているから」

「……」

「それ以外の部屋ならどこでも良いから、よろしく」


 やっぱり、紅葉や黄依にとって衿華の存在は大きいものだったのだろう。衿華の遺体は見つかっておらず、死喰い(タナトス)の樹にも縛られていない。まだ生きているかもしれないと思うのも仕方のない事かもしれない。


「それじゃあ、空き部屋を見て回りませんこと?」

「はい、分かりました」


 その後、結局僕は二階の紅葉とは対照の場所にある部屋にした。ある意味、正面の部屋ではあるのだが、そう表現するのには遠すぎる距離感だった。翠ちゃんも僕に合わせて隣りの部屋にした。


 そして、3日後僕達の初めての任務が始まるのだった。

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