プロローグ 操朝柊2
「さて、気を取り直して彼女の事を紹介しますわね。さあ、朝柊さん自己紹介をお願いしますわ」
薔薇さんはコホン、と咳を立てたあと眼鏡をかけた少女の方へと手を翳す。朝柊と呼ばれたその眼鏡少女は先程試験の時にいた、操白夜さんと顔や雰囲気が似ていた。
彼女は僕の顔と薔薇さんに首根っこを掴まれてジタバタしている翠ちゃんの顔を見比べ、嫌々そうな顔をしながら口を開く。
「操朝柊。14歳で二佐。気軽に朝柊とでも呼んでくれ。これからよろしく」
彼女はそれだけ言うと逃げるように二階へ駆け込もうとするが薔薇さんに捕まる。
「逃げないでくださいまし。まだ言う事がありますわよね?」
「無いですって! 私、暇じゃ無いんでそろそろ……」
彼女は人見知りのようだからこのような対応なのだろうが、彼女の言葉通り暇という言葉が似合わない程度には長い髪の毛は最低限にしか手入れがされていなく、かなり厄介そうなクマもできていた。
「まったくもう……! 翠さんも朝柊さんも素晴らしい才能を持っているのに勿体無いですわ……少しは瑠璃さんや踏陰さんを見習っては如何ですの?」
「行儀が良くてこんな仕事が務まってる方がおかしいっすよ」
「そーだ! そーだ!」
薔薇さんの指摘に二人はふてくされるが、翠ちゃんはそもそも働いてすらいないからそんな事同意する立場でもないと思う。
「こほん、今は素行の注意をしている時間では有りませんでしたわ」
彼女は咳払いをし、そのまましゃべり続ける。
「朝柊さん、この子は色絵瑠璃さんですわ。家の事情等あって、戸籍上は男性として登録されていますがれっきとした女性で翠さんの妹さんですわ」
すると朝柊は何かを感じ取ったのか僕の顔を凝視する。
「やっぱり姉妹か……双子かなんかか?」
「うん、仲良しな双子姉妹だよ」
翠ちゃんは薔薇さんの拘束から逃れると、僕の手を繋ぐ。正体がバレないように薔薇さんについた嘘に合わせてくれたのだろう。
「……やけに作り物みたいな顔してるな、お前」
「あはは、よく言われるよ。人形みたいとか、座敷童子みたいとか」
勘が良い子だな。実際、僕は僕自身の本当の顔を知らない。だから、翠ちゃんを基本として、紫苑姉さんに似せた顔をずっと作っているが、二人とも綺麗で整った顔をしているからより整った顔になってしまったのか作り物みたいな顔になってしまっている。二人の顔を参考にした理由は純粋に両方の顔が好きだったからという理由もあるが、『僕は色絵家の人間である』という証明をしたかったからというものもあるのだろう。
勿論、僕が感情生命体である事を含め、特異能力によって顔を自由に変えられることは皆には秘密にしておかなければいけない。
朝柊は僕の顔を覗き込み、もう一度翠ちゃんの顔と見比べる。
彼女が醸し出す雰囲気は青磁にぃのそれに似ている。特に頭が良さそうな所が僕にそう思わせる。つまりちょっとのミスで自分の正体もバレかねない訳だ。
「どっちかというと、色絵紫苑似なんだな」
「そーだよね、瑠璃くんって私にも似てるけど、どっちかというと中学生位の時の紫苑ねーさんぽいよね」
「言われてみればそうですわね。性格も翠さんとは違って紫苑さんみたいに奥ゆかしいですし」
「私とは違うってどういう意味⁉︎ 薔薇ねーさん!」
「そのままの意味ですわよ」
やれやれと首を振りながら薔薇さんは翠ちゃんをいなす。朝柊はというと未だ僕の顔を見続けていた。そして、何か決めたのか私の肩を叩く。
「……面白そうだし、潜在能力もありそうだな……よし、決めた。薔薇さんの次はお前に作ってやるよ」
「……?」
少し嬉しそうに彼女は笑う。
「へぇ……良かったね瑠璃くん! 朝柊ちゃんが自分の意思で特異兵仗を作ってくれることなんて普通ないよ」
「特異兵仗を作る……」
じゃあ、朝柊が他人の特異兵仗を唯一作る事のできる特異能力者……。
「あぁ、まだ言ってなかったっけ」
「そうですわよ! それを伝えずに帰ろうとしたから私は止めただけですわよ」
薔薇さんは朝柊に少し注意するが、朝柊もそれに言い訳を重ねる。
「いや、部屋に黄依さんを待たせてて、私もすぐ作業に戻りたかったし……」
すると階段から足音がする。
「おーい、朝柊? 翠と話があるって言ってたけどもう終わった? というか、さっきの叫び声と物音なに?」
階段の上に立っていたのは黄依だった。
「あっ黄依さん、待たせてごめん。ちょっと翠を懲らしめるのに時間がかかっちゃって」
「懲らしめる……? ……よく分かんないけどまぁ良いか」




