プロローグ お茶会7
「ああ、そういえば瑠璃さんに護衛軍の事教えている最中でしたわ」
「なるほど、この紙はその説明の紙なんですね」
泉沢さんは紙を指で指し顔だけは此方へ向けている。
目が見えないのによく物や人の場所の位置が分かるものだと感心させられる。恐らくこれも筒美流奥義の対人術なのだろう。
「すいませんね、お話の邪魔してしまって」
「いえいえ、此方こそ題兄さんの特異能力についてよく分かったので……」
だが、あれだけの特異能力を持っているのにも関わらず、題兄さんは漆我紅に殺害されてしまった。それは何故だろうか……
「ふむ……瑠璃くん。もしかして、先輩が先代の贄である漆我紅に殺害された理由が分からないと思っていませんか?」
「……」
……やはりこの人は人の心を読むことができるのか? 確かに、理論上筒美流奥義でもそれは可能だが紅葉ですら出来るか出来ないか分からないものをこの人は出来るのか……?
そういう特異能力という線もあり得るかもしれない……
「よく分かりますね」
「そういう音が聴こえてくるんですよ」
「そういう特異能力なんですか?」
「いいえ、筒美流奥義であなたの心音を聴いているんですよ」
……いや違う。今、この人は嘘を吐き僕に干渉してきている。僕の特異能力の索敵範囲に異常な物理現象が起こっている。これはどう考えても彼の特異能力によるものだろう。
「ほう……面白いですね、あなたの特異能力……隠し事は互いに無駄なようですね」
恐らく、この人の特異能力は音に干渉し増幅させたりする物だ。
「何が目的ですか?」
「テストですよ。君が本当に"人類の味方"なのかをね」
やはり、彼には僕の生物のしてのあり方が人間のそれではない事が気づかれているのだろう。隠し事はやめて彼らに堂々と打ち明け、敵意がない事を示した方がいいだろうか。
すると、薔薇さんが手の平を泉沢さんの方に向ける。
「泉沢先生、そういう事は瑠璃さんに失礼ですわよ。彼に悪意は無い。先生の特異能力で分りますわよね? お戯れも程々にして下さいまし」
すると彼はそのまま両手を無表情のままあげる。
「……薔薇さんは瑠璃くんのことよほど気に入っているようだ。これは失礼な事をしてしまったね。僕も生徒が亡くなってしまって気が立っていたようだ。もしこの護衛軍に樹教のスパイが居たらって思うとね立場上、念には念を入れないといけないもので」
「……」
……泉沢さんは衿華が機関生の頃の担当教師だったのか。元生徒を樹教の感情生命体殺されたところに感情生命体であり理性を保つ僕が現れたんだ。疑いたくなる気持ちもわからなくは無い。
そして薔薇さんは手を下ろすとため息をついた。
「気持ちは分かりますわよ。でも今は何も知らない彼が居るんです。無闇に人を疑うと嫌われてしまいますわよ? それに隠し事なんて誰にだって有りますわ。特異能力者なら尚更隠し事なんていっぱい有りますわよ。こういう事は先生には似合いませんわよ?」
泉沢さんも手を下ろしまず薔薇さんに頭をさげる。
「……ご忠告ありがとうございます。今ので身に染みましたよ。こういうのは蘇芳さんや要くんの仕事だ」
すると、泉沢さんが此方に顔を向けて謝る。
「本当に失礼しました。君の事情は元々止水先輩から聴いていたのでなんとなく察しはついていましたよ。ですが、漆我紅の分かっている能力の一つの事も考えると少々不安になってしまってね」
漆我紅の能力……? そういえば題兄さんを殺したのもその特異能力なのだろうか。
すると、彼は先程のように僕だけに声を届ける。
『彼女は感情生命体を操る特異能力を持っています。なので、気を付けてください。恐らく先輩もこの特異能力によってやられました』
「……ッ!」
感情生命体を操ることができるという事はつまり人間の体内にある特異能力を発生させる特異DAYNにも干渉できるということ。
つまり題兄さんは己の特異能力を封じられた上で彼女に不意打ちをされたのだろう。
『ちなみに僕の特異能力はこのように音を操るものです。先程はあなたの心音を細分化し傾向的にどのような感情を持って接しているか調べさせて貰いました。プライバシーを考えず申し訳ない事をしてしまいましたが、あなたは操られている様子は恐らくですがありません。なのであなたも自分が感情生命体である事は隠して護衛軍に在籍してください』
そういう事か……しかし、この人自身を信頼できたというわけでも無い。もし、誰が樹教の人間であっても良いように僕も警戒をしなければいけないという事か。
「お二人とも本当に失礼しました。僕はまた機関で任務の方があるので離席させて頂きますね」
彼はそれだけ言うとこの部屋を去っていった。




