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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 10話 筒美紅葉と色絵翠1

 その後、私達は泉沢(いずみさわ)さんの下を離れて機関の生徒達に自己紹介をし、例の(すい)ちゃんとの顔合わせもした。


 そして今、私は翠ちゃんと二人で模擬戦の準備が終わるのを待っている。


 彼女は長くサラサラな黒い髪とパッチリとした大きな目、引き締まった身体に、特に目立ったのはそれを包んでいる可愛らしくヒラヒラとした白黒の洋風な服。本人曰く、昔外国では侍女のような立場の人が着用していた物を自分流に手を加えた服でメイド服と言うらしい。そして、この服が先程の話でも出てきた特異兵仗(アイデン)だ。


 私達が模擬戦をするのは、その研究施設のような見た目をした機関の地下の屋内施設。おおよそ50メートルずつ縦横に広がっている空間で、模擬戦を行う者への配慮で中からは何も見えないが外から見ると中の様子が分かるようになっている。


 そして、特異能力者(エゴイスト)との戦いは異種試合になる事が多い。なので、今回の模擬戦では特異兵仗(アイデン)を含めた、刀などの通常武器から銃などの火薬を使う兵器まで使用を認められている。これは私みたいな何年もの間訓練してきた人間を想定しているものなので、銃弾なんて黄依ちゃんに比べたらゆっくり動く物だからそう対して怖くないという判断だろう。実際、戦闘様式が素手での私でも別に不利と感じることが少ないし、私なら引き金に手をかける動作をする前に相手との距離を詰める事ができる。


 模擬戦での勝ちの決め方は審判制と点数制を掛け合わせたもの。審判である、泉沢拓翔(たくと)さん、機関の校長兼現護衛軍大将成願(じょうがん) 家保(いえやす)さん、黄依(きい)ちゃん、衿華(えりか)ちゃんの話し合いで、戦闘中に起きた致命的な被害を受けそうになったと判断された回数と致命度の少なさで競い合う。試合時間は10分で行う。


 さて、この模擬戦において問題なのは翠ちゃんの特異能力(エゴ)。彼女の能力は『物質転移サブスタンスシャッフル』。理論、理屈を置き去りにすればその名の通り、一個体と認識できる物の位相を入れ替える能力。勿論、人でも可能であるが、直接触れる、相手が転移する事を許可するなど様々な制約がある為、そこは驚異的ではない。しかし、この能力の性能次第で武器、特に飛び道具の使用の利点が大きくなる。極端な例を出せば、包丁を投げた時にはもう転移され私のお腹に刺さるだろう。多少のラグがあるにしろ、絶対に当たる攻撃を仕掛けてくるのであればこれほど驚異的な物は無いだろう。そうなれば、私の出来る事は……


 どうやら、審判側の準備が整ったみたいだ。


「今日はお願いします! 紅葉(もみじ)さん。遠慮せずに死なない程度に全力で戦いましょうね!」

「うん! お願いね、翠ちゃん」


 その綺麗な黒髪を揺らしながら笑顔をこちらに向けてきたので、こちらも笑顔をする。しかし、私の顔を見て一瞬彼女は顔をしかめた。


「紅葉さん、今表情を作りましたね?」


「えっ……」


 肝が氷つくかのような感覚がした。一瞬頭が真っ白になり言葉を失った。

 そして、今の言葉の意味を考える。

 この子まさか……私の……


「いっいや〜すいません失礼な事を。私の取り越し苦労です〜」

「ふーん、そっか気にしないで」


 彼女がすぐに表情を和らげ、謝罪したので、こちらも深追いは避ける事にした。


「でも、紅葉さんって独特な人ですね。なんか、うちの双子の弟の瑠璃(るり)君みたい」

「へぇー翠ちゃん、双子ちゃんなんだね」

「そうなんですよ! あの子めっちゃくちゃ可愛くて! 女の子の服を着ても似合うから本当大好きで大好きで! でもやっぱり着物が一番似合うかなぁ」

「その……弟くん? 可愛いの?」

「可愛いよぉ! 瑠璃君の為なら私はなんだって尽くせるし、でも……」

「でも?」

「あの子、家の事情で監禁されているのっ……」


 翠ちゃんは悲しそうな顔をし、ただ事では無いことが分かる。


「なるほどね、じゃあさ私が勝負に勝ったらその弟くんと会わせてよ!」

「えっ……?」

「こんなに可愛い翠ちゃんの弟くんなんでしょ? 一回見ていたいなぁ」

「そっそれは……」

「よーし、やる気出てきたぁ! 私は男の娘でも食えるぞォ!」

「食べる気なんですかぁ!? やめて下さい!」


 翠ちゃんが口を膨らませて怒ってる。でもやっぱ女の子って可愛いなぁ。その着てる服のせいで余計に可愛く見える。


「じゃっ、本気でかかってきなよ」

「言われなくてもその気ですぅ!」


 さて、多少の目的は出来たし、少し本気で行くか。


 この部屋に音が鳴り響く。この音が戦闘開始の合図。


 瞬間、空気が破裂したかのような音と同時に焦げくさい匂いが鼻に付いた。翠ちゃんの方を見ると当たり前のように無かった筈の銃を構えていた。そりゃあ、そういう能力の使い方もできるか。


「あっぶな……! まじか、翠ちゃんが『筒美流奥義』を結構齧っているとは。全然隙がなかったね……こりゃ弟くんに会うのは無理かな?」

「何言ってるんですか……こっちは当てる気満々だったんですよ。まぁ、本命はその弾なんですけどね」


 その言葉が届く前に、横から大きな力が頭にかかり、強く飛ばされる。


 一体何が……? そうか、避けた弾を真横に転移させた。


「受け流しましたか、中々隙を突かせて貰えませんね」

「これでも元大将の孫ですから」

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