プロローグ お茶会5
「ええっと、はい。僕に答えられる事なら」
『漆我紅事件』について知っている事はほとんどないが一体何を聞く気なのだろうか。
「あの事件で活躍した元旅団長の止水さんについてお聞きしておきたい事が有りますの」
「題兄さんについて……?」
僕の義理の兄にして、最強の特異能力者と呼ばれた止水題。彼は紫苑姉さんの婚約者であった。
「面識は有りましたわよね?」
「ええ、はい」
といっても彼について知っている事はほとんど無い。強いて言えば、彼は『最強の特異能力者』と呼ばれているのにも関わらず、その強さは特異能力ではなく筒美流奥義に依存していた。というか、特異能力を使っている所を見た事が無かった。
「あの方は一体どんな特異能力を持っていたかご存知ですか?」
やはり、薔薇さんも彼の特異能力について聞いてきたのだった。
「実際に題兄さんと手を合わせた事はありますが、彼がどんな特異能力を持っているのかまでは知らないです……」
「そうですか……最強とまで言われたあの方が何故に最強の称号を得たのか知る事が出来たら、今よりももっと強くなれると思ったのですが……」
実際に模擬戦をした時は気付いた瞬間負けていたという事もよくあった。僕のあの特異能力を使っても敗因が分からない位、格の違う能力なのかもしれない。
そんな事を思っていると、休憩室に後ろ髪を束ねた高身長の男の人が入ってきた。
「面白そうな話をしていますね。お二人とも」
目を瞑りながら的確に此方の方向に顔を向ける。様子を見るにどうやら盲目の男性のようだった。
「あら泉沢先生、奇遇ですわね。ご機嫌ようですわ」
「お久しぶりです。薔薇さん。えっとそちらは翠さんの弟さんの瑠璃くんでよろしかったですか?」
「はい……。えっと……すみません、どちら様ですか?」
薔薇さんの会話で彼が誰であるか検討はついているが間違っていたら失礼に当たるかもしれないのでこちらから名前を伺う。
「これは失礼しました。僕の名前は泉沢拓翔と言います。いつも機関の方でお姉さんの先生をやらせて頂いています。以後お見知り置きをお願いします」
やはり、機関の先生をしている泉沢先生であっていた。
「こちらこそいつもお姉ちゃんがお世話になっております。これからよろしくお願いします」
僕は一礼すると、彼は目を閉じたまま軽く微笑んだ後、口を開いた。
「会話を遮ってごめんなさい。もしかして、さっきまで止水先輩の事お話ししていましたか?」
「ええ、はい。もしかしてお知り合いか何かですか?」
「ええ、実は止水先輩、機関の一期生なんですよ。他にも一期生には浅葱先輩、天照大将補や紫苑さんがいますね。ちなみに僕は四期生なのでその頃から知り合いです。僕が副校長に就任する迄も先輩がやってたりして色々関わりはありますよ」
彼は指を指揮者のように振りながら僕達に説明をする。
「なるほど……じゃあ題兄さんの特異能力ってご存知ですか?」
すると、彼は少し難しい顔をした後口を開く。
「少し前までは護衛軍の最高機密の一つでしたが、今は先輩も亡くなってしまった事ですし、言ってもいいような……」
すると、薔薇さんが思い出したように僕に言う。
「あっそうですわ。瑠璃さん、あなたも特異能力者なので少しは心掛けて頂かないといけない事が有るのですが、特異能力を効果をあまり他人には教えないようにして下さいまし」
元々からその気ではあったし、翠ちゃんや紅葉以外に僕の正体を教えて良い事もほとんどないからその点に付いては触れないでいようと思ったけど、こんな風に触れられるとは思っていなかった。だから、僕はなるべく悟られないように疑問を呈しながら言葉を放つ。
「というと……?」
すると一瞬泉沢さんが此方に顔を向けた。その瞬間、『嘘は良くないよ』という声が彼から聞こえてきた気がする。だが、目は勿論のこと口すらも一切動いていなかった。
「……」
なんだ、この人は。僕の事知っているのか……?
が、彼は僕に干渉紛いな事をしてきて、他は何もしてこなかった。
「特異能力というものは持っているだけで世界の法則を根底から覆し、一個人で旅団規模……能力によっては世界さえ滅ぼしかけない能力なのです。だから、安全の為や対策されない為に自分が特異能力者であるということはもちろん、特異能力によって起こす事のできる現象をあまり人に教えない方がいいですわよ」
「……あっはい、そうですよね」
「それで先輩の話をするかしないかと迷っていたんです」
「なるほど……」
僕は彼に言及されるリスクがあった為、そのまま話を合わせた。




