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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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プロローグ お茶会1

 日の入るお洒落な仕事場に設けられた一室に二人きり。そこは普段護衛軍の人間がデスクワーク等に疲れた時お茶やコーヒーを飲む為にある休憩室であるらしい。閑静で居心地の良い空間であった。


 目の前で優雅に座る薔薇ばらさんは片手でアンティークのティーカップを持ち上品に音を立てず舌を転がしながら紅茶を味わい、そのような事を僕に語ってくれた。


「ふふっこんな世の中でも紅茶やコーヒーを嗜めるなんて護衛軍の特権ですわね」

「日本の気候じゃあまり育たない植物が原材料の嗜好品は貴重ですからね。僕も普段家でコーヒーを飲む時は沖縄辺りが原産地の豆で淹れています」


 僕も彼女の対面越しに座り砂糖とミルクを入れたコーヒー入りのマグカップを持ちながらそれを顔に近づける。顔に当たる水蒸気とコーヒーの芳しい香りが鼻の奥を通り向け、身体にリラックスを促す。コーヒーを飲み込み液体が舌に触れると反射的に舌が引っ込み、後から熱さがこみ上げてくる。


 この一連の動作を彼女に観察されていたのか、彼女が笑いを零した。彼女の片方一方に結った髪が微かに揺れる。


「こうして改めて見ると瑠璃さんはやっぱり女性なんじゃないかなって思えてしまいますわね」

「あはは、実際心も身体も女の子なんですけどね。ただ家の諸事情と最初に産まれた時男になってしまった事が原因で戸籍上や人前で出る時の立ち振る舞い、一人称は男として生活しなさいって紫苑しおん姉さんからいつも注意されちゃって……」


 元々色絵の家督は青磁にぃになる予定だったが、一時期行方不明になっていた事やあの性格上が原因となって紫苑姉さんに家督が譲られた。だから、姉さんは仮の立場として今だけは色絵家を回し、いずれ僕に継がせるつもりでいたのだろう。


 理由は僕をこの家から逃げないように縛りつける為だろう。


「紫苑さん……昔はあんなにも凛々しい方でしたのに、今は……」

「姉さんと面識があるんですか?」

「ええ、特異能力者エゴイストの家系同士交流会が昔何度かありましたの。そこで彼女とは何度もお話しましたわ」

「そうですか……」

「ごめんなさい、嫌な話を掘り返してしまって。色絵しきえの家も大変ですのね……水仙すいせん家でもお父様やお母様に言葉遣いだけはちゃんと出来る様に躾けて頂きましたわ」

「だから、誰にでも同じ言葉使いなんですね」


 薔薇さんは僕と同じく格式と歴史の有る家の育ちである。200年前からずっと特異能力者エゴイストの血筋が流れている水仙家。僕達、色絵家の遠い親戚に当たる家系らしい。それを言ってしまえば、色絵家は贄の家系である漆我しつが家とも遠い血縁関係に当たるらしいのではあるが、真実は時間が経つとともに忘れ去られてしまったらしい。


「それで、僕に話ってなんですか?」


 再び彼女の顔に視線を戻し、僕がこの茶会に呼ばれた理由を尋ねる。すると、さっきまで穏やかで上品で余裕のあった顔立ちが少し崩れたように見えた。


「……そうですわね。一つ、瑠璃さんに頼み事というか……相談しなくてはならないものがありますの」


 彼女は目を伏せ、悲しげな顔をする。当然僕には思い当たる節は無い。何せ、今日初めて彼女と出会ったのだ。


 胸に手を置き深呼吸をした後、彼女は僕に問う。


「貴女は紅葉もみじさんや霧咲きりさきさんと元々知り合いでしたの?」

「……」

「ずっと、外に出ずに家の中で過ごしてていたとお聞きしていたのに、衿華えりかさんのお葬式で紅葉さんと親しげに会話していらしたので……」


 なるほど、そこから僕と紅葉が知り合いだったって言う事に気づかれたのか。隠している訳では無いけれど、隠さないといけない部分もある。例えば、僕が感情生命体エスターである事とか。


「はい、たまたますいちゃん経由で知り合ったんですよ。そのまま、仲良くさせてもらっていて……」


 でも彼女の質問の意図が理解出来ない。そんな事、表情を崩してまで言う理由が無い。まさか、僕の特異能力エゴの本質や僕が感情生命体エスターだという事に気がついているのだろうか……?


「それがどうかしましたか?」


 仲間外れにされていると思ったのだろうか? いや、それはない筈だ。


 何故なら薔薇さんと黄依きいが険悪な仲にあるのは初めて会った僕でさえ理解出来た。今更そんな事で気にするような事でもないし、そもそも彼女自身そんな人柄では無い。


「あのっ……ですね。違っていたら申し訳無いのですけど」


 やはり、僕の正体が彼女バレたのだろうか……


「瑠璃さんは紅葉さんの事、好意に思ってらっしゃるのでしょうか?」

「……? ……ん?」


 どういう質問だコレ。


 まさか、この人そういう恋愛相談とか好きで乗ってくれる人なのか?


 微妙な空気が流れた後、僕は思い切って口を開く


「いや、まぁ……普通に恋愛対象として好き……ですけど……」

「いえ、その……他意とかは無いんですわよ? ただ、紅葉さんの事が心配だし心の隙間を埋めてあげたいなって考えていただけですし、それに私も霧咲さんの事お慕いしてるから、女の子同士だからってそんな事心配しなくてもって……へっ?」


 んーーー?


「……どゆこと?」


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