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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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プロローグ 入軍試験9

 髪がふわりと浮き上がり、黒く染めた筈の髪色がどことなく元の金色が分かるかのようにほんのりと輝く。


 全ての動きがスローに見える中、銃弾に囲まれた私はそれを高速で避け弾きすいの方へと高速で近づく。


 翠は私が本気を出した事に気付いたのか、もしくは起きている現象へ違和感を感じたのか瞬間移動をしようと予備動作を行う。


 今まではこの状態で翠を見たことがなかった為、確信を持てなかったが、瞬間移動前彼女は必ずポケットに手を突っ込んでその中にある銃弾をまず転移させる。これは予め干渉した ERG(エルグ)を空気中に点在させ、それと銃弾を入れ替えるという特異能力エゴの作用だろう。


 一見すると特異兵仗アイデンを使っている場合には銃で放った弾にしか転移の作用を施せないようにしか見えないが、実際に見て知った事によって彼女の転移できる物がもっと広いという事が分かった。


 だからさっきは気付かない間に私の衣服やポケットなどに干渉した ERG(エルグ)を付着させ、その ERG(エルグ)と銃弾を交換した後に、銃弾をマーカーとして翠が転移してきたのだろう。


 不可解だった転移の仕組みを理解し、すかさず間合いを詰める。既に彼女本体が転移する為のマーカーとなる銃弾はどこがに転移されたのだろう。


 こうなればおおよそ、翠が転移までにかかる秒数は現実世界では0.1秒弱。現在の私の体感時間では5秒ほどとなる。もし、転移に成功してしまえば転移のラグで1秒、私の体感時間では1分、彼女の存在を認識できなくなってしまう。


 その為確実に間に合う間合いではあるが、問題となるのが『過負加速オーバーフロー』がいつまで続くかである。


 もし彼女の瞬間移動が終わるのと同時に『過負加速オーバーフロー』が切れてしまったらその時点で負けが確定する。それに『過負加速オーバーフロー』は途中で解除する事が出来ない。決め手が欠けるこの状況でそれは致命的な欠陥である。


 翠の身体が崩壊し始め、転移が始まる。あのように自身の身体を元に戻せる具合に極小サイズの素粒子にし、一つ一つそれらを高速でマーカーの場所へ飛ばしながら空気の流れを対流させ場所を入れ替える。これがこの特異能力エゴの正体。


 であるなら、私が狙うべきは転移の待機時間であるこの崩壊の瞬間である。この0.1秒の隙に一撃を叩く。


「筒美流奥義『花紋かもん』ーー」


 至近距離まで近づいて彼女に直接物理ダメージを与えようとする。


 が、翠はそれを読んでいたかのように笑う。


 身体に転移された銃弾が触れる。


 既に体感が音速を超えた闘いとなっている為、声は聞こえないが彼女のしたり顔が目に見えた。


 詰めてくる事を完璧に感知して、タイミングを図り銃弾を転移させた。翠じゃなきゃ出来ない恐るべき判断能力と反射神経だ。


 そして同時に転移され再び、機関銃マシンガンに囲まれた一帯へと転移される。


「言ったでしょ。既に音速を超えるって」


 ーー全部私の"予想通り"だ。全て翠の技量を加味した技の発動。翠ならこう動くと読んだ上でのこの一手。


 転移のラグ時間の短縮……つまり身体が素粒子に崩壊して再構成される時間に起こる全ての化学的な現象を"加速"した。それによって私は翠の転移よりも早く姿を表す。


「ーー『僻遠斬撃リモートインパクト』」


 上へ向けてこの拳を構える。既に転移する為のマーカーである銃弾の位置は捉えてある。それに転移のタイミングを合わせて衝撃波を放つ。


 思考が加速されたこの体感の中でゆっくりと動いて行く見えない衝撃波は転移中の彼女にとって感知できる筈のない一撃であった。


 広範囲かつ高威力の技を放った為、避ける事も、転移する事も不可能だろう。


 転移が終わると翠が空中に現れるが衝撃波に気付かずにそのまま貫かれ、気絶しながら天井へぶつかり壁を抉ったあとそのまま落ちてきた。


 それと同時に『過負加速オーバーフロー』が制限時間となり身体全身に怠さと疲れと痺れが一気に襲いかかり地面にペタンと座る。


「はぁ……はぁ……危なかったぁ……」


 そして、仮想空間の映像が溶けて観客席が見えるようになった。


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