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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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プロローグ 入軍試験6

 僕らは準備運動をしているすいちゃんと黄依きいさんを横目で見ながら話を続ける。


瑠璃るりさんは霧咲きりさきさんの特異能力エゴをご覧になった事はありませんわよね?」


 一応、公式上では衿華えりかさんの葬式以外護衛軍の人達と会った事はない為、僕はそう頷く。


「はい。それで、機関に入っていたという事は彼女も特異能力者エゴイストなんですよね」

「ええ、霧咲さんは後天的に特異能力エゴを二つ取得した複合特異能力者マルチエゴイストですわ」


 特異能力者エゴイストの大半は生まれながらにしてその能力を持っている場合が多く、先天性に特異能力エゴを持っている事に気付いていない人間を除けば、遺伝も血筋も全く関係なく後天的に特異能力者エゴイストに目覚める人というのは殆どと言っていいほど少ない。


 青磁せいじにぃが言っていたが、そのような後天性の特異能力者エゴイストは護衛軍にいるだけでも現大将である成願じょうがん家保いえやすさんや一佐官の踏陰ふみかげ蘇芳すおうさん、今話題に上げている黄依さん、そして唯一DRAG(ドラッグ)を使用して生還した紅葉もみじの四人のみである。


 遺伝や血筋に特異能力者エゴイストがいて、なおかつ先天的に能力を持たず何かのきっかけや事件に巻き込まれた結果特異能力者エゴイストに目覚めた、又はそれに気付いた人達もいる。例えば、現在隣にいるみさお白夜はくやさんやその妹であるこの世で唯一他人の特異兵仗アイデンを製作する事のできる朝柊あさひさん、そして『蒲公英たんぽぽ病』の治療の為に祖母の細胞を移植し特異能力者エゴイストに覚醒した衿華えりかさんが挙げられる。


 この7人の中でも複合特異能力者マルチエゴイストと定義付けられているのは蘇芳さん、黄依さん、紅葉の三人のみである。白夜さんは本人が特異能力エゴを持っている訳では無いのでまた別の括りになるのだろう。


「そして霧咲さんの所有している二つの特異能力エゴは『速度累加アクセラレーション』と『僻遠斬撃リモートインパクト』ですわ」

「簡単に言えば『速度累加アクセラレーション』は物体の加速度を上昇させるもの、『僻遠斬撃リモートインパクト』は衝撃や斬撃を遠く離れた所まで威力減衰無しで透明のまま放つものと考えたら分かりやすいと思う」

「なるほど」


 確かに『速度累加アクセラレーション』が有れば黄依さんなら、機関生時代特異兵仗アイデン抜きの翠ちゃんと良い勝負が出来たのだろう。


「機関生時代、霧咲は『僻遠斬撃リモートインパクト』の使用を制限していた。あの能力は人に向けて使えば危険が生じるからな」


 白夜さんは昔のことを思い出しながらそう言う。


「危険……?」

「もし霧咲さんが現在の様に素手では無く、刀やナイフなど物を切るための道具を武器に戦えばどうなるか分かります?」


 筒美つつみ流奥義で強化した斬撃を威力減衰無しでかまいたちのように遠く離れた所まで攻撃が届くようになる……つまり射程距離に上限が無く見えない即死攻撃が容易に使えるという事を意味する。


「もし相手がこの特異能力エゴの事を知らなかったら絶対に避ける事は出来ませんね」

「さらに霧咲ならそれを加速する事すら可能だ。だからより殺傷能力とスピードの増した無数の衝撃を翠は捌かなければ行けなくなってしまう」


 なるほど……『速度累加アクセラレーション』による機動性だけではなくや『僻遠斬撃リモートインパクト』の加速、加えてそれが視界では感知できない上に体力が尽きない限り多数放てるとなるといくらあの翠ちゃんが本気でやったとしても勝てるかどうか。


 そんな事を考えていると中から二人の声が聞こえてきた。


「準備体操も出来たし、そろそろ模擬戦始める?」

「そうですね、よろしくお願いします。黄依ねーさん」


 すると黄依さんが白夜さんの方を向き戦闘開始の合図をして欲しいと言う。そして、彼が手に持っているリモコンのボタンが押されると先程の機械音声のような声が響きわたった。


「対戦者の二人は定位置について、模擬戦開始の10秒のカウントが終わるまで待機をお願いします」


 翠ちゃんからは少しの緊張と大きな高揚感が感じ取れた。


「ではカウントを始めます。10、9、8……」


 二人が臨戦態勢になり、いますぐにでも特異能力エゴを使えるように集中を高める。


「4、3、2、1……」


 物凄い量のエネルギーが翠ちゃんから溢れ出て、それに呼応するかのように黄依さんからも巨大なエネルギーの塊が放出される。


「……0。両者戦闘を始めて下さい」


 瞬間、その莫大なエネルギーがぶつかりあった。

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