プロローグ 入軍試験5
白夜さんとの受け答えをしていると薔薇さんが青磁にぃのことを僕に質問をする。
「今はあの方、特異能力の暴走を抑える研究もしていらっしゃるんでしたっけ?」
「はい、青磁にぃは青磁にぃなりにDRAGを作った事を罪悪感に感じているから、きっとそれを償おうとして……」
「……そう、ですわね。紅葉さんもあんな事になってしまいましたし……」
彼女はそのサイドテールの先っぽを指で弄りながら、少し俯いた。
「……あっ、ごめんなさい。これから行う試験のルール説明をしないといけませんでしたわね」
しかし、すぐ彼女は僕達の前では明るく振る舞おうと気を取り直し、これから模擬戦が行われる方を指差しながら僕に説明をする。
「それで、これから翠さんと瑠璃さんには私達、護衛軍の特異能力者と闘って貰うのですが、今回の試験ではお二人の実力が元々認められている為普段より実戦に近いに設定されていますわ」
「なるほど……」
という事はこの前紅葉と闘った模擬戦みたいにポイント先取性みたいな感じになるのだろうか。
「今から行われる例だと、霧咲と翠の一対一で制限時間内でどれだけ有効打を与えられたかを点数化し、先に10ポイントを取った方が勝ちとなる。だがこういう場合、通常なら試験官の方が圧倒的に強い立場になるからある程度ハンデが必要となる」
「ふむふむ、それが翠ちゃんの場合は特異兵仗だと」
「そうだな」
特異兵仗ーーそれは特異能力者の特異能力をリスク無しに強化したり、使用回数を増やす武器。その代わりに、予め決めたルーティンを守らなければ使用者の負担にもなる武器でもある。
生産性が本当に少ない為、護衛軍の幹部の特異能力者でもごく少数にしか持ち得ない。しかし、翠ちゃんは機関の成績が年間を通して一位であった事があった為、モチベーションや護衛軍で活躍してくれることへの期待を込め贈与されたのであった。
翠ちゃんの場合は僕と離れ離れになるのが嫌だからずっと機関に残って、護衛軍には入らなかったのだけど。
「お二人は昔、実力的に拮抗していましたが、翠さんが特異兵仗の使用を始めてからはどちらの実力が上かはっきりしていないのですわ。なので今日は二人の本気の勝負が見られると期待してますの」
「なるほど、そりゃ翠ちゃんもテンションが上がるわけだ」
「……あっそうですわ、お二人の準備が整う前に彼女達の特異能力の性質もおさらいしましょう」
薔薇さんは笑顔になりながら人差し指を立て、解説を始た。
「ではまずは翠さんの特異能力からおさらいしていきますわね。翠さんの特異能力は『物質転移』で"物と物の位置を交換する能力"ですわ。そして特異兵仗の制限によって転移させられる物に制限が付きますわ。その転移させられる物はサイズや意思のある生物かどうかということに関係していて、予め干渉したERGを物質につけておく事で銃弾ほど位の小さい物なら人や感情生命体の干渉領域以外ほぼ無制限にどこにでも転移が可能ですわ」
「うん、翠ちゃんは銃弾位なら触れなくても、見ていなくても転移させる事ができるね」
翠ちゃんはこれがあるから武器として銃を使っている事がよく有る。やはりあのサイズ位がちょうど良いらしい。
「そして、次にそうして転移させた銃弾程の小さい物を大きな物に接着させれば、その大きな物も予め用意した別の小さな物と交換するように場所を入れ替えることができますわ」
つまりは転移させたい大きな物や生物に銃弾を打ち込んだ上で、それとはまた別に転移させたい場所に銃弾を打ったり転移させれば、大きな物も銃弾を介して瞬間移動させる事が可能になるのだ。
「ちなみに翠さん自身の身体は小さい物と転移可能で、他の人の身体も転移する事を許可さえすれば銃弾を打ち込んだりしなくても直接触れる事で転移させる事が可能になりますわよ」
このように翠ちゃんは特異兵仗を使用した場合様々な制約をかける事でなるべく疲れないようにしながら物質の場所を入れ替える事ができるのだ。
僕の特異能力も似たような物なのだが、翠ちゃんは物質としてある程度形を成している物のみが能力の対象となる為、僕のように怪我した身体の細胞を変質させ怪我を治す事などは不可能である。
しかし、特異兵仗の制約を解除する事で疲れは飛躍的に大きくなるが大きな物や生物を自由に転移させる事が可能になる。しかし、それをすれば翠ちゃんは一瞬で疲れ動けなくなるだろう。
「翠さんについては大体こんなものかしら」
「そうですね。じゃあ、次は黄依さんの方をお願いします」




