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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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プロローグ 入軍試験3

 直射日光が降り注ぐ昼下がり、コンクリートが照らされる様子はもうすぐ春の終わりを予感させる。


 こんな天気のいい日なら何処かに出かけに行く人で一杯になるのがきっと普段の街並みだったのであったし、護衛軍本部の前にある、つるま公園は家族連れなどで賑わっていただろう。


 しかし、今外で出歩く人はほとんどいない。閑静というと聞こえはいいかもしれないが、少し寂しい雰囲気だった。


 原因は最近流行っている『蒲公英病』という感染症だ。


 それはウイルスや細菌など極小サイズの病体が病原菌として流行している訳ではなく、感情生命体エスターから排出されるERG(エルグ)という物質が人伝いに感染していっているのが事の問題点であった。


 初期症状は普通の風邪と同じもので咳や熱、呼吸困難。無自覚に感染しているというケースも存在する。


 この段階では感染者に接触してもほとんど移らないのではあるが、性交渉等粘膜接触を感染者としてしまい運が悪ければ感染してしまう事もあった。


 その為一般人の感染経路としてはそれが一番多く主に大学生や2,30代に多く見られた。


 そして初期症状を一,二週間過ごすと激しい痛みが身体を襲うようになる。これは内臓痛や神経障害性疼痛に分類されるものではあるが、身体には自我を忘れてしまうほどの痛みを感じる。それは末期癌で使用されるモルヒネやヘロインが属するオピオイド系の鎮痛剤を使えばなんとか耐えられるほど強い痛みであるのだ。


 通常の人間ではそれは耐えられないので、大体の人間は鎮痛剤の使用の前に痛みに耐えられず自ら死を選ぶか、痛み自体のショックで死んでしまうのである。


 それでも、鎮痛剤等を使い生きていられる感染者は稀にいるのであるが、彼らが一番厄介な存在であるのだ。


 生き残った彼らはやがて鎮痛剤でも効かない痛みに襲われるようになっていく。そして、期が熟せば病原が全身を蝕み、飽和すると周りへ飛び散ろうとするのだ。その際細胞の異常な増殖のせいで感染者の身体が破裂し、一帯に感染した人間の細胞や病原体である赤黒いERG(エルグ)が巻き散らかってしまう。


 この時散布する ERG(エルグ)の形状が蒲公英の種子、つまりは綿毛の形に似ている事からこの病は『蒲公英病』と呼ばれている。


 このERG(エルグ)に皮膚が触れれば確実に『蒲公英病』に感染する。そして、感染すれば殆どの確率で生存は見込めない。


 そんな病が大流行とは言わないが、流行している為流石に外に出歩こうとする人はほとんどいなかった。


 そしてそんな中お構いなしに出歩いている僕ーー色絵しきえ瑠璃るりは隣にいる双子の姉、すいちゃんと一緒に護衛軍の本部へ向かっていた。


「ねぇねぇ翠ちゃん、流石に瞬間転移しながら行った方がいいんじゃない?」

「だーめ! 絶対疲れちゃう! それに『蒲公英病』が流行ってるのは向こう側でしょ?」


 向こう側というのは死喰い(タナトス)の樹の根っこや麓にある巨大樹海で遮られた北陸地方辺りの事だ。


「これから試験だしね……無理はさせられないか」

「帰りは送っててあげてもいいから、今だけは許してね瑠璃くん」


 普段僕の言うことなら殆ど聞いてくれる翠ちゃんが珍しく僕のお願いを断った。その理由はおそらく今日の試験で機関生時代、一二位争いをしていた霧咲きりさき黄依きいさんや水仙すいせん薔薇ばらさんと本気の勝負ができるからだろう。


「それはそうと瑠璃くん、最近青磁(せいじ)兄さんが『蒲公英病』の特効薬に携わってるって話は聞いた?」

「うん、というか僕も多少関わってるんだ」


 そう、『蒲公英病』には既に特効薬が出来つつあり、それは実の兄である色絵青磁によって主導されているのであった。


特異能力エゴで質量分析でもしてるの?」

「そうそうそんな感じ。今ある分析計じゃあ正確に測れない物質の測定をしたり、本来一週間とかかかる物質合成を短時間で再現したり」

「瑠璃くんそういうの詳しいもんね」

「まぁそういう事が出来る特異能力エゴでもあるからね」


 僕の特異能力エゴーー『物質操作サブスタンスコントロール』ーー『絶対領域パーフェクトテリトリー』は射程内に入ったあらゆる物理的、精神的概念を認知し、操作する能力。紅葉もみじが手伝ってくれれば人間の細胞位小さなものまで自由に操作は出来る。それ以上小さくなって仕舞えば認知か自分から遠ざける位しかできないが、それでも薬の実験の開発の省略には役に立つ。


「だから、とりあえずこの一連のパンデミックはそのうち止まるとは思うよ」

「青磁兄さんが作った薬ってそんなに効くの?」

「うん。特効薬だからね。あれを作れるなんて正直天才とかそういうレベル超えてるよ。青磁にぃが特異能力者エゴイストの研究じゃなくて、病気とか薬の研究に関われば多分歴史が変わるレベル」


 条件さえ揃えば万物に干渉できる能力を持っている僕ですら、兄さんが創った薬には驚かされるものが多い。


「でも、青磁にぃが特異能力者エゴイストの研究してくれなきゃ、きっとこれからも大変な事が沢山起こるし、この一連のパンデミックに関しては原因になってる感情生命体エスターをどうにかしなきゃってのはあると思うよ」


 まぁ、護衛軍ならとっくに動いてそうではあるけど。


「護衛軍に入ったらそれが一番初めの任務になるとかあるかもね」


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