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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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プロローグ 入軍試験2

「非定期でこの護衛軍に入ってくる特異能力者エゴイストが二人いる。そいつらに試験をやってくれ」


 踏陰ふみかげ一佐が放った言葉には思い当たる節があった。


「キイにとっては迷惑な話かも知んないけど、ありがたい話だ。一人は機関にずっと居座ってたスイで、後一人はその双子の弟ルリだ」

「そうですか。彼女ようやく護衛軍に入る気になったんですね」


 私は筒美つつみ封藤ふうとうさんや色絵しきえ青磁せいじが現状どういう立場であるかを思い出しさもその事を知らなかったかのように振る舞う。


「元大将でモミジの爺ちゃんのツツミフウトウが推薦したんだってさ。つかモミジ結構なお嬢様だったんだな。私が知らんだけでアイツって顔が結構広いのか?」

「さぁ……? でもこの前機関に行った時、紅葉がすいととても仲良くしていたのでそれが関係してるんじゃないですか?」

「ふぅーん、キイも知らないのか。まぁいいや、戦ってくれる特異能力者エゴイストが増えるのは助かるし、最近は物騒な話が多いから」


 彼女は頭に生えている癖毛を弄りながら此方を見る。


「樹教とかですか?」

「それもあるが、今世間を騒がせている話題と言えば『蒲公英病』とか『焔』とかそっちの話だろ」


 前者は紅葉が臓器移植をする理由となった病、最近『自殺志願者の楽園(ユートピア)』の向こうにある北陸地方辺りで流行しているとかなんとか。


 そして後者は『護衛軍の方針』つまりは『たった一人の年端もいかない少女に全人類の命を預ける』という事を是としない人権派の権力者達が作り上げた組織の名前である。その為、『焔』の本部は護衛軍が比較的影響を与えられない北陸地方に本部があるのだ。支持している人々は大体護衛軍に賛成する事はできなく樹教のように人殺しをするような宗教に入りたくないような人間が多い。


「『蒲公英病』はどうやら感情生命体エスターが原因らしい。そのうちまた合同任務として頼まれるかもしれんな」


 また、合同任務か。それまでには紅葉が戻ってからば良いけど。


最近特異エゴ感情生命体エスターの発生ペースが異常に早いですね。中には弱いのもいましたけど『蒲公英病』に関わる感情生命体エスターはおそらく『恐怖スキャーリィ』クラスを想定しておいた方が良さそうですね」

「そうだな。対策をしておくのにも越した事はないな」


 そして、踏陰一佐は思い出したように元の話へ切り替える。


「そうそう、試験官やって欲しいって話だ。勿論バラと一緒にだが。護衛軍の入軍試験の内容覚えているか?」

「……確か人間の身体の仕組みや医療関係を問う学力テストと捕獲した弱めの感情生命体エスターを倒す実技試験、さらに試験者同士の模擬戦闘でしたよね」

「そうそう、アイツら学力テストの方はもう済んだ。だけどな、前回の試験者が散々感情生命体エスターを殺しまくったせいで今は捕獲した感情生命体エスターはいないんだ。全く迷惑な話だよ」

「うっ……」

「んどうした?」


 前回の試験で感情生命体(エスター)を壊滅させた犯人の一人は私である。


「……その節はほんとすいません」

「あぁ、なんだあの話の犯人はキイだったのか、なるほどなぁ〜。ごめんごめん、別に気にすんなよ。その代わりに働いて貰うんだしさ。それに言われてみれば数十匹の感情生命体エスターを素早く壊滅させられるのはキイくらいか」


 彼女は歳に似合わず少し演技くさい感じで私に気を使ったのか謝る。何か裏があるのだろうか。


「あの時は少し頭に血が昇ってて」

「バラ関係の話か?」

「えぇ……まぁ」


 そう、感情生命体エスターを壊滅させたのは私とあの爆弾女。そのせいで他の試験者に迷惑がかかったと試験官の軍人に言われた。散々迷惑かけた為、一尉官の位でで入れたはずのものを二尉官となってしまったのだ。爆弾女もそんな感じで三尉官になったのであった。


 だけど、先の『恐怖スキャーリィ』戦で同期全員は昇進した。ちなみに今では私は一尉官となっている。他の面々は紅葉以外一つずつ上がったのだろう。


「んで、話戻すけどその実技試験の代わりにキイがアイツらと戦ってくれないか?」


 なるほど、前回の試験の話を出したのは私に罪悪感を持たせて断りにくくするためか。どこまでも計算高い子供だ。


「先ほどの話を引き合いに出されたら断れないですよ」

「あはは、バレてたか。ごめんな変な気を使わせて」

「気を使ってたのは一佐の方でしょ。別にわざわざそんなことしなくてももう腹はくくったので大丈夫です」

「余計な世話だったか。んじゃあセッティングとかは色々は頼んだぞ。それとバラと仲良くやれよ。他の任務はまた追って連絡するわ」

「了解です」


 彼女は立ち上がり歩いて部屋から出ていった。


「はぁ……」


 気の抜けた溜息の音が部屋に響く。


 あの女と仲良くか……


 人のことを妬むこの気持ちが湧く度に私から感情という生体機能を取り上げて欲しいと願う心は私の中にあった。


「はぁ……」


 しかし紅葉のことを考えると私から出るのは溜息だけであった。


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