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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 8話 機関

 朝の鍛練を終え、私達は『機関』に行く準備をする。


『機関』は護衛軍総合本部から電車で二駅分くらいと近い位置に建てられている。比較対象に私が全速力で走れば一分圏内くらいの近さだ。機関が本部の近くにある理由は簡単で、特異能力者(エゴイスト)はこの死にゆく世界にとって輝く宝石のようであり、護衛軍にとって人間世界を維持する為の重要な戦力だから、護衛の対象になっているらしい。その結果、有事の際誰でも直ぐに行く事の出来るような位置にあるという事だ。


 さらに、機関は護衛軍の直轄組織であるので、教師陣は全て護衛軍の人間で構成されている。しかし、慢性的な人員不足のせいで私達のような上級軍人 (尉官以上) は非常勤で召集される事がある。今回はそれで私達の班が呼ばれたみたい。黄依ちゃんがそうだと行く途中で教えてくれた。


 基本的には、特異能力(エゴ)は個人によって裁量が異なっている為、わざわざ人が口を出すような真似はしない。だから私のように特異能力(エゴ)を持っていない『非特異能力者(アルトゥールイスト)』が使うような技、つまり『筒美流奥義』を教えたり、実際に模擬戦をしてみて場慣れをさせるという事をしに行くのである。


「ここが黄依(きい)ちゃんと衿華(えりか)ちゃんの母校かぁ!」


 研究所のような建物に門の警備室の受付には護衛軍の制服を着た不思議な雰囲気の男性が一人居ることが分かった。黄依ちゃんがその人に話しかける。


「お久しぶりです、泉沢(いずみさわ)先生」


 その泉沢と呼ばれた男性は目を閉じたまま、ゴムで留めたその長い髪を揺らし、此方に顔を向けニコっと笑う。


「その声と足音は……霧咲(きりさき)黄依さんと(ふき)衿華さん、お久しぶりです、元気にしていましたか? それに知らない女の子が一人いますね、では貴女が筒美(つつみ)紅葉さんですね。はじめまして、機関の副校長ならびに警備、大将補佐をやらせていただいています泉沢拓翔(たくと)と申します。どうぞ本日はお願いします」


 見た目からすると二十代くらいだろうか? それなのに、気品を感じさせられる雰囲気を持つ男性だった。


「はじめまして」

「お久しぶりです先生! 大将補に昇進しなさったんですか? おめでとうございます!」


 衿華ちゃんが嬉しそうに言うと泉沢さんが困ったように言う。


止水(しすい)(だい)先輩の穴埋めで僕が偶々なったんですよ。正直、僕には荷が重いので、(かなめ)君にやってもらいたかったんですがね……」

「えっ!? 衿華は絶対、(ところ)(かなめ)一佐より先生の方がいいですよぉ! あの人紅葉ちゃんより変態ですし! 女の敵ですよぉ!」


 変態が護衛軍にいるのか……!? っていうかさらっと衿華ちゃんに変態扱いされてるッ!?


「要君が変態なのは否定しないけど、彼も彼なりの事情があるからね……意外と話してみると良い人だからさ、どんな事言われたか知らないけど許してあげてください」

「まぁ実害は無いし、先生が言うなら……」

「ありがとうございます。彼も悪気は一切ないので」


 目を閉じたまま衿華ちゃんの方を向いて話している。

 ところでさっきから気になっていたのだが、この泉沢さんという人、目が……


「あぁ失礼、筒美紅葉さん、気になっているかもしれないのですが、僕視力が無いのですよ。でも、耳がいいのでそんなに気にしなくて大丈夫ですよ」

「えっ!? あっハイ」


 心を読まれた……? まさか、そういう特異能力(エゴ)


「先生も益々その技術磨きがかかってきてますよね」

「えぇ、まぁこれが僕の生命線ですので」

「一体何をしたんですか……?」


 技術という言葉で私にも出来る事かも知れないと興味が沸いた。


「あはは、僕はただ『筒美流奥義』の技で聴覚を強化して身体の色々な音を聴いてどういう状態かを考えたんですよ。あとは経験則で、僕に初めて会う殆どの人はそういう音を奏でるので今みたいなのは大体分かるんですよ」

「対人術序ノ項『花心(はなごころ)』を使うんですね! なっなるほど! それなら私もできるかも! ありがとうございます!」


 思わぬ収穫だぁ、この技術を応用すればもっと!


「もーみーじ! 今日は仕事で来てるんでしょ! そういうのは後に自分でやりなさいよ!」

「紅葉ちゃん人の心読んで何しようとしてたの……はっ!? まさか!」


 衿華ちゃんは顔を赤くし頰を膨らます。感が良いなぁ、衿華ちゃんは! こりゃあ今夜が楽しみですなぁ!


「えっーと、僕の教えた事を悪用しないでくださいね」


 何かを察したのか、泉沢さんは棒読みで私に注意する。


「ではそろそろ、あの子達に会いに行きますね」

「分かりました。そうだ、筒美紅葉さん。一度あの子と手合わせして頂けませんか?」


 何かを期待しているのか、面白がっているのかそんな声色で彼は頼んで来た。


「あの子……?」

「はい、学生時代の霧咲黄依さんですら超えられなかった、機関生不動の一位、色絵(しきえ)(すい)さんです」

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