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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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樹教襲撃編 22話 収束3

「どっどうしたのっ⁉︎」


 私に対して抱擁をやめない彼に困惑と恥ずかしさを覚えつい焦ったような声を出してしまう。


「……紅葉もみじ辛いの?」

「え……?」


 彼は真剣な目でその青色の瞳を輝かせ、私の瞳をじっくりと見つめる。


「ごめんね。迷惑ならやめるけど、しばらく僕にこうさせて欲しいんだ」

「そんな事はないよ……」


 私よりも少し小柄な彼の体が優しく包み込んでくる。


「僕にとって紅葉が何を考えているか分からないし、僕が君に対してどう接すれば良いのか分からない……でも君が喜んでくれる事が有ればそれをしたいし、君が苦しむならそれを辞めたい」


 自然と私の腕も彼の身体を包み込むように背中へ向かっていく。


「良かった。僕を頼ってくれて少し嬉しい」


 優しく背中を撫でられると心臓のあたりが暖かくなって安心という感情が大きくなる。


 それが彼の特異能力エゴによるものなのか、それとも私の彼に対する印象がそうさせているのかは分からなかった。


「紅葉のお姉さん……葉書はがきさんに会って色々聞いたんだ」

「何を聞いたの?」


 私は一瞬自分が漆我しつがくれないである事を瑠璃くんに伝えられたと思い焦ったが彼の様子を見るにそうでもないようだ。


「『紅葉の事が大好きだから僕に守って欲しい』とかね」

「……確かにお姉ちゃんならいいそうな事だ」


 素直に私が好意を寄せている人物が家族にもそういう評価をしてもらえて嬉しかった。


「いいお姉ちゃんだね」

「うん、葉書お姉ちゃんは世界でたった一人の最高のお姉ちゃんだよ」


 少しだけ震えた声が口から出る。ようやくお姉ちゃんに対して思いを誰かに伝えて良かったのだろうか。


「そっか。でも大丈夫? 葉書さんはもういないよ?」


 彼はその長い睫毛のついた目で私を心配そうな表情で見つめてきた。


「大丈夫だよ。私には仲間がいる。勿論瑠璃くんもその一人」

「良かった。いつもの調子に戻ってくれて」


 彼は私の背中から手を外すが今度は私が優しく彼を抱きしめた。


「私も瑠璃くんを守る。瑠璃くんにとっても幸せな世界を作る」


 これが今の私の純粋な願い(エゴ)。生きていく意味。あなたの隣で今の私が精一杯尽くせば叶えられる事。


「幸せな世界……? また大きく出たね」

「『願い(エゴ)』は大きくなきゃ目指す意味がないでしょ?」

「そうだね、それに僕達は『エゴイスト』。自らの理想を現実に移す者」


 彼は私の顔みて、ニコニコと笑う。泣き黒子や口の下にある黒子がその笑顔をより一層引き立て美しいものにしていた。


「ねぇ……紅葉。目を瞑って」

「うん……」


 彼はもう一度私の背中に手を回し耳元で囁く。私は彼の言うことに素直に従い目を瞑って彼が何をしてくるか待つ。


「僕は『生存欲リビドー』の感情生命体エスター。だから多分、あらゆる性衝動を感受する為にこういう肉体でこういう特異能力エゴなんだと思う。だけど、今からするのは人間としての僕が人間の紅葉に贈るモノ」


 何度も経験はあるはずなのに生唾を呑み込み緊張と興奮の感情が私を包み込む。


「僕は紅葉の事が好きなんだ」


 言葉と同時に心臓が幸せなあまり跳ねる音がした。それを逃さないように顔に触れる瑠璃くんの手。


 唇に当たる温かく生っぽい感触がくる。


「んっ……」


 優しく押し込まれる舌。絡み合う舌にかき混ぜられる唾液。甘くてとろけそうで溶かされてしまいそうな熱。


 これがあなたの味。砂糖のようなに甘いもの。


 ドクドクと鳴る心臓は嬉しそうに私を見守ってくれている。そして彼の身体が私の胸に当たる度この音が聞こえてしまっているのでは無いかと恥ずかしい気持ちにもなってしまう。


 そんな刹那に満たない時間に永遠の感じるほどの幸せが流し込められた。


 気付けばキスは終わり、照れた顔で瑠璃くんが此方を見ていた。その隙を狙って今度は私から彼に顔を近づける。


「好きだよ」


 今度は彼の表情が見える中で唇と唇が触れ合う。舌を入れ彼と私の感情をかき混ぜるように交じり合う。


「はぁっ……はぁっ」


 驚いた彼の顔が口から鳴る音と共に段々ととろけた表情になっていく。少し聞こえる彼の少女のような声が心地よく何秒も何十秒も続けてしまう。


 唇が離れた時には互いの口から糸が引くほどであった。


「……実はファーストキスなんだよ、紅葉。君に捧げちゃった」

「はじめてなのに舌を入れるんだ……瑠璃くんって結構えっちな子なんだね」

「……否定はしないよ。だってそもそも僕はそういう生き物だから」

「さっきは人間としてって言ったのに?」

「もう……いじわる。いいじゃん少しくらいえっちでも!」


 恥ずかしそうに彼は言う。


「もちろんいいんだよ。君がしたいふうにすれば良いから」

「うん……。でも今の僕にはキスが精一杯。これ以上の事はもっと信頼を深めてから」

「うん、大丈夫だよ。ゆっくりでいいから。それにすいちゃんにバレたら大目玉喰らっちゃう」

「ははっ、そうだね。するなら翠ちゃんいない時にしないと」


 彼は私の手を握ってきたのでそれを返すように私も握り返した。


「私もそろそろ謹慎解けるし、護衛軍の本部に戻ろうか」

「うん、分かったよ。ゆっくり帰ろうか」


 そして私達はこの『焔』の基地を後にした。

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