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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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樹教襲撃編 20話 収束1

「では僕が瑠璃るりくんやすいさんを迎えに行きます。止水しすい先輩はここで鎌柄かまつかげいを見張っていて下さい」


 泉沢いずみさわ大将補はそのように提案する。すると止水さんは私の方を振り向いて質問する。


紅葉もみじさんはどうしますか? あと少しなら葉書はがきさんと話せると思いますけど」


 その問いかけに私は即答する。


「もう大丈夫です。葉書お姉ちゃんとは少しだけお話しできました。これ以上話すと別れが惜しくなってしまいますからね」


 私はいつも通り表情の変えられない顔でそれを答える。泉沢大将補は気を使いすぐに話題を変えここから立ち去る。


「じゃあすぐにお二人を連れて行きますね」


 彼を見送った後、私は止水さんと二人きりになった。私は何か喋る話題が無いかと頭を回転させるがうまく見つからない。


 そのまま数秒だけ無言な時間が続いた。そしてその沈黙は止水さんの言葉によって破られた。


「紅葉さんにも人間らしい一面があって良かったです」


 一瞬なんのことか分からなかったが、葉書お姉ちゃんとはもう決着を付けた云々の話に対しての返答だろう。別れが惜しいとか、寂しくなってしまうとか。


「それは勿論……私にだって感情はあるんですよ」


 すると、彼はなぜか謝って言葉を訂正する。


「失礼しました。別に皮肉で言った訳じゃ無いんですよ。ただ、貴女の居ないところで筒美つつみ先生が心配していたんですよ」

「謝らないで下さい! こんな顔見たら誰だってそう思ってしまうのは仕方がない事だと思います。それで……祖父ししょうが私の心配をしていたんですか?」

「そうですよ。もう知っているかもしれないですけどとても厳しいのは裏腹で、先生はとても心配症なんですよ。彼に貴女の正体を教えて貰った時それはそれは色々な相談をされました」


 彼は優しそうな声で私に語りかける。


「だからてっきり葉書さんに対してとても依存していたり、酷く病んでいたりしているかもしれないって思っていたんですよ。でも、思った以上に貴女自身がしっかりしていた」

「……そんな事ないですよ」


 私は今までしてきた償えない罪を思い返す。


「私のせいで死んだ人が沢山います。私のせいで不幸になった人が沢山います。私自身が殺してしまった人さえいます」


 全ては私があの時『タナトス』に乗っ取られなかったら起こらなかった事。


 最愛の父親を殺し母親を病院を自ずの『情動パトス』で精神疾患にさせた。


 瑠璃くんや青磁先生の両親を感情生命体エスターにした。それによって色絵しきえ家の人達がどれだけ悲しみに包まれたか。


 葉書お姉ちゃんや衿華えりかちゃんは私を守る為に死んでしまった。


「さっき、樹教の教祖に言われちゃったんですよ。『生まれてきてごめんなさいって言ったらどうだ?』って」


 なんのカラクリかは分からないがその言葉を母親の顔で言われてしまったのだ。状況が少し落ち着いてしまったから、あの時言われた言葉が今ではより深く刺さってしまう。


「その通りだって、認めてしまいそうになっちゃうんですよね。私は弱いから、人に迷惑かけてばっかりで。でも、かけてしまった迷惑が大きすぎて『償わなきゃ』ってそれでもがいて苦しんでる。全て手放せないからただもがくしか無いって」


 しっかりしているんじゃない、ただ誰かに責められるのが怖いからそういう努力をしているのに何もかもが裏目に出てまって人を不幸にしてしまう。私の人生はそんなだった。


「ならいっそ『生まれてきてごめんなさい』って言ったら許されるのかなって、一瞬思ってしまったんですよ。最低ですよね」

「……」


 止水さんはその言葉を聴き少しだけ俯いた後、ふぅと息を吐きまるで慣れているかの様に私の額にデコピンを入れた。


「なっ! 何するんですか⁉︎」

「紅葉さん……やっぱり我慢は良くないですよ。誰にだって弱いところがあるんです。それに敵が言ったこと真に受けてどうするんですか」

「でっでも……」

「でもなんですか? 自分を必要としてくれる人が居ないとかですか? それでも貴女には沢山大切な人が居るじゃないですか」

「……それは」


 言おうとしてしまった事を先に言われ言葉に戸惑ってしまう。


「大丈夫ですよ。貴女の気持ちはきっと理解されますから」


 違う……一番私にとって怖いのは……


「私の正体が知られたらみんな私を殺そうとするかもしれないじゃないですか⁉︎そんな事になったらきっと耐えられない。殺意なんて感情私には受け止める事はできない」


 表情は出せない筈なのに私は明らかに取り乱してしまった。何に対して恐れていたのか、それが分かったから。


 もし黄依きいちゃんや瑠璃くんそれに護衛軍のみんなに恨まれたら……私はどうすれば良いのか分からない。


 だが、彼はキッパリと優しく私の顔を見て言う。


「やっぱりちゃんと分かってるじゃないですか。きっといつかそんな日が来てしまってもおかしく無いと思いますよ。彼女達にとっても分からない事や分別のつかない事は沢山あります。だからその時は貴女がきちんと話さなくちゃいけない」

「でも世の中には言いたくても絶対に言えない事が沢山あるじゃないですか……⁉︎」


 彼に反発するよう私は問いかける。


「人を信じて下さい。今はまだダメかもしれない、けどそれでも変えるんですよ。だって貴女は僕とは違って今に生きる事が出来るじゃないですか!」


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