樹教襲撃編 18話 鎌柄鶏6
辺り一面には大量に増殖した『鎌柄鶏』がこの場を埋め尽くす。気付けば樹教の幹部達は既に意識を取り戻して退散したのか、もしくは教祖である暫定『タナトス』に回収されたのか……
「止水さん……この状況一体どういうことですか……?」
状況を整理しようと私は彼に質問をしながら今まで起きた事を順に整理する。
まず最初に樹教がこの『焔』の基地に襲撃してきた。その中には本当の私の名前『漆我紅』の名前を騙る教祖や奇怪な特異能力を持つ幹部の真理亜と金剛纂がいた。
幹部の二人は葉書お姉ちゃんのお陰で撃退をできたが、教祖と対峙した私は彼女を逃してしまった。加えて途中参戦した『仮面の男』により此方の最大戦力である止水さんが足止めを食らってしまった。
そんな中で現れたのが現在増殖している『鎌柄鶏』という男。『肉体再生』の特異能力を持つ彼の登場によって教祖はこの場から身を引き恐らくは敗北した幹部達を引き上げさせた。おそらく現状のように部下の特異能力を奪われる事を防ぐための行動だったのだろう。
そして彼自身は裏で協力していた止水さんや『仮面の男』によって四肢を切られるほどの満身創痍になっていた。二人の目的は『鎌柄鶏』の無力化という事で協力しあっていたのである。
しかし、その前に止水さんが『身体分解』の特異能力を持つ真理亜の肉片を『仮面の男』の思惑により獲得しており、あろうことか『鎌柄鶏』にそれを食わせたのであった。
結果『鎌柄鶏』は『身体再生』と『身体分解』の特異能力を掛け合わせることで、微生物のように身体を分離し再生し増殖する特異能力を獲得したのであった。
つまり、私から見れば『仮面の男』は最初から敵で何故『鎌柄鶏』をより強力な特異能力者にしておいて尚無力化するという作戦が成功したのか理解不能なのであった。
止水さんは次々と素手で鎌柄鶏達を殴りながら気絶させていき私の質問に答えた。
「それは『仮面の男』の正体が鍵になってくるでしょう。彼は確実と言っていいほど『未来を知る』力を持っています」
「未来を知る力……? それは『鳥語花香のように未来を予測する筒美流奥義のようなものですか?」
そう、筒美流奥義終ノ項『鳥語花香』は極めれば数秒先の未来さえ予測が可能なのである。
「……それは分かりません。しかし、このように身体を分離させる特異能力を使わなければ近い未来鎌柄鶏は自身で己の欠点を克服する為の進化をしていた筈です。それはもはや完全無欠な肉体再生の特異能力と言っても過言ではないでしょう」
つまりそれを防ぐために『仮面の男』は違う特異能力を擦りつける事でそれを防いだ……
「……にわかには信じられない事ですね。でも止水さんが言うならそれが正しいという事に……」
「僕は『仮面の男』に殺されているんです。だから殺された人間としてあいつの事ならこの世の誰よりも理解しています。それに奴は確実に僕の知り合いです」
その言葉を聴くとやはり現状を見ても状況が悪化したようにしか思えない。
「……とりあえず今は『鎌柄鶏』をなんとかしなきゃ」
「現状戦えるのは僕と紅葉さん……沙羅様には危険ですので紅蓮くんと葉書さんが無茶しないように見てもらいましょうか」
止水さんはそのまま後ろにいる沙羅様と私へ合図を送ると、鎌柄鶏達によって塞がれていた道が彼の衝打によって開けられる。
「何者よッ! このいい男はッ⁉︎」
「私達をさっきから一方的に蹂躙されてるわよッ!」
「キィィィッ! この男絶対に食ってやるわよッ!」
段々と正気を取り戻してきたのか鎌柄鶏はざわざわと喋りだし、止水さん目掛けて距離を詰めようとしてくる。
「沙羅様、紅葉さん、今のうちに二人を安全圏へ。可能なら紅葉さんは援護をよろしくお願いします!」
ひと殴りで数十単位の鎌柄鶏を吹き飛ばしながら彼は時間稼ぎをする。私達はその間に会館の方へと撤退する。
「四人逃げるわッ!」
「私が追いかけるわッ!」
「私もよッ!」
私達を流さないとばかりに追いかけてくる鎌柄鶏達もいたが『僻遠斬撃』と『速度累加』を使いつつ牽制しついには振り切る事に成功した。
「お姉ちゃん、沙羅様。ここで待機を」
「分かりました、お気をつけ下さい」
すぐさま私は止水さんの元へ戻ろうとするが背中から下ろそうとした葉書お姉ちゃんに呼び止められる。
「待って……紅葉ちゃん」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「多分これが会うの最後になるから……」
徐々に苦しそうに彼女は『自死欲』の感情に取り込まれていく。
「分かった。ありがとう、お姉ちゃん。お別れがまたこんな形になっちゃったけど私に命をくれて」
「うん、私は紅葉ちゃんの事信じているから。きっとこの世界を少しでもいい風に変えてくれるって」
「……」
「大丈夫。困ったらそこにいる私を呼んで。絶対助けになるから」
葉書お姉ちゃんは私の胸を指してにっこりと笑う。
「いつか取り戻せるといいね」
彼女は私の何に対してそれを言ったのか分からない。
「うん、じゃあねお姉ちゃん」
そんな事分からなくても良い、お姉ちゃんはきっと純粋に私に幸せになって欲しいのだろう。
だから、私はそれだけを言って止水さんの元へ向かった。




