樹教襲撃編 17話 鎌柄鶏5
「仕方ない」
仮面の男は掴んでいた『鎌柄鶏』の首を持ち上げ私たちに見えるようにする。
「俺の目的は決して死なないコイツを不能にする事だ」
すると沙羅様が紅蓮から離れ仮面の男へ質問する。
「なぜその男が危険だと思ったのですか?」
仮面の男はそっくりそのまま沙羅様の質問を返す。
「薄々貴女も気付いているんじゃないか? この男の特異能力の能力がかの有名な邪智暴虐の王『雁来紅』の言い伝えにある不死に似ていると」
「……やはりですか」
『雁来紅』……200年以上前日本を世界一の大国に導いた不死の王と言われた存在。原初の特異能力者と言われている存在。
すると喉を掴まれて声も出せない筈の『鎌柄鶏』がその言葉に反応し声を上げた。
「ふふふ……ハッハッハッハ! だから私を危険視したのねッ! 何回も何回も監視して、時々殺してきて……厄介だったわアナタぁ……」
まるで自分を女性だと思っているかのような喋り方。
「でも残念私はまだまだ再生できるぅ! 私に死は訪れないのッ! 喩えあの死喰いの樹が私に猛烈に取り込んでこようとしてもッ!」
仮面の男や止水さんに切断されたであろう手足が急激に再生して元の人間の形に戻る。
「『肉体再生』ぅ!」
やはり彼自身は感情生命体ではなく、タンパク質の再生をしている事から特異能力者である事がわかる。
しかし、彼の先程の言葉の裏腹にあの特異能力には必ず終わりが訪れる。ヘイフリック限界……もしくは異常な細胞増殖による体内細胞の癌化……
「止水題……例の物は準備したか?」
「ええ……でも本気でやりますか?」
止水さんは肉塊をパッと差し出す。あれは……?
「真理亜の身体……?」
背負ったお姉ちゃんが目を覚ましそう呟いたのだった。真理亜というのはお姉ちゃんが戦っていた身体をバラバラにして戦う、樹教の半感情生命体の特異能力者の事だろう。
そしていつの間にかその肉塊は仮面の男の手に渡り、『鎌柄鶏』へと無理矢理口へ押し込んで食わせようとする。
「ッ⁉︎」
「アナタッ! 私に何食わせようとしてるのよッ! 私はできるなら男の肉を喰いたいのッ!」
「黙って喰え」
『鎌柄鶏』は抵抗するか無理やり肉塊を胃に押し込められたのだった。
「うぅぅぅぅッ!」
そして『鎌柄鶏』は急に呻き声を上げ苦しみ始めた。
「この肉片に『蒲公英病』の ERGを仕込みました」
「は?」
止水さんの言葉に一瞬耳を疑ったが、よくよく考えてみるとそうか……『蒲公英病』も体内の細胞を悪性腫瘍に作り替える病。そうすれば癌化の確率も高くなる。
「なるほど……それなら確実に『鎌柄鶏』を殺害できますね」
「だけどなぜ真理亜の身体を使って……?」
「そうか……! 特異DAYNの入った細胞を使う事で身体に取り込んでも私みたいにエラーを起こさせより身体を傷つけるように……!」
私がDRAGを使った時の事を思い出す。身体の許容量を超えた特異DAYNは身体を暴走させ普通なら死に至らせる事ができる。もし、特異能力を身体に馴染ませモノにしたとしても癌化した細胞を分裂して取り除くしかない。その結果、奴は癌の原因となった特異能力を失う他無いのだろう。
「そういう事らしいのですが……」
仮面の男は鎌柄鶏の首から手を離す。
「さて。お前に残された選択肢は二つ。その特異能力を使いこなし遺伝子のバグを体から綺麗さっぱりに無くすか、そのまま死ぬかだ」
「ふざけるなヨォォォッ!」
鎌柄鶏は激昂し仮面の男へ襲いかかる。しかし先程のお姉ちゃんとの攻防を見ていたので分かったのだが、一瞬の動作で鎌柄鶏の全てがカケラ程度の肉片に粉微塵にされたのだった。
「……さてここからだ」
肉のカケラそれぞれが動き出し再生を始める。それぞれがすぐに大きくなり既に一つ一つが元の人間大のサイズに戻っていた。
そして、それは予想とは大きく外れた結果になってしまった。つまりは、鎌柄鶏は肉体再生の能力のほかに分裂する能力を得た事によって、増殖する特異能力へと進化させたのであった。
何十人何百人という鎌柄鶏の姿が焔の本拠地を埋め尽くそうとしていた。
「やはりそうなるか、成功だ……」
仮面の男の笑い声と鎌柄鶏の多重になった呻き声声がこの話響く。
「……お前まさか最初からこれを狙っていたのか?」
「ああ勿論。これで最悪な未来は防げた」
ご機嫌になったように仮面の男は笑い続ける。
「どういう事だ⁉︎」
「後処理は任せるよ。この状況は今の君達には到底理解のできない事だからまたいつか会った時話すよ」
仮面の男の気配が一瞬でこの場から消えた。慌てふためく私や葉書お姉ちゃん。
しかし止水さんはだけはいつも通り落ち着いていた。
「彼の言う通り作戦は成功です。あとは増殖した鎌柄鶏を処分するだけです」




