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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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樹教襲撃編 16話 鎌柄鶏4

「ほぅ……お前が筒美つつみ葉書はがきか。怒るのも良いが自分の事も大切にしろよ」


 仮面の男が呟いた笑いながら呟いた瞬間、葉書お姉ちゃんは攻撃を仕掛けた。彼女の攻撃は軽く音速を超えたものであったのにも関わらず、彼はスローモーション映像を見ているかの如く眠そうに仮面の上から欠伸をするジェスチャーをする。


 いや、これは私の感覚自体が麻痺しているんだ……


 彼の一連の行動は全て刹那にも満たない時間の中で行われているのだろう。おそらくこれが彼の特異能力エゴによって起こる効果の一つ。何が起きているのかはさっぱり分からない。身体を動かそうとしてもゆっくりとしか動かない。


 似た様な特異能力エゴに護衛軍の現旅団長浅葱(あさぎ)氷華ひょうかの物が挙げられるがそれとはまた別な能力なのだろう。


「遅いな。その程度じゃお前らの師匠どころか俺にも届かない」


 本気を出したお姉ちゃんなら既に届いている筈の攻撃が未だに届いていないという事はやはり時間の流れに干渉する能力なのだろう。


 遅い……時間……それなら……ッ!『速度累加アクセラレーション』ッ!


「筒美紅葉(もみじ)、お前に時を操る特異能力エゴが扱えると思うか?」

「……な……に?」

「その能力はお前の物じゃない。霧咲きりさき黄依きいの物だ」

「ッ⁉︎」

「もう良いぞ筒美葉書」


 その瞬間さっきまでのスローモーションの感覚が一瞬で消えたと思ったら、いつの間にかお姉ちゃんは攻撃を受け遠くに飛ばされて、その代わりに彼女が元いた場所には仮面の男に差し押さえられ満身創痍の上半身裸の顔に厚化粧をした男がいた。


「こいつが鎌柄かまつかげいだ」


 仮面の男はそいつの首を締めながら淡々と言う。鎌柄鶏は切断された手足バタバタとさせ、呻き声を上げながら抵抗する。そして、時間が経てば経つほどその切れた切断面から腕や足が再生を始めていっていた。


「何が起きた……?」


 先程の出来事を振り返る。


速度累加アクセラレーション』を使おうが私の身体は全く動いてくれなかった。それに仮面の男から黄依きいちゃんの名前まで出た。


 どうしてそれを……特異能力者エゴイスト特異能力エゴは関係者以外、青磁せいじ先生のような研究者であろうと例外以外は知らないはずなのに。


「誰なんだ……お前……!」

「その質問には答えられない。その答えを知りたければ止水しすいだいにでもヒントをもらうんだな……」

「……そういえば止水さん……彼はどこいらっしゃいますか?」


 沙羅しゃら様は紅蓮の介抱をしながら仮面の男に質問を投げかける。


「そこだよ」


 彼が片方の手で指を刺した瞬間、背後に攻撃をくらい気を失って葉書お姉ちゃんを背中で抱えている止水さんが現れた。


「すいません、紅葉さん。合流に遅れました。葉書さんは気を失っているだけです」


 彼は屈むと片手を使って地面に突っ伏した私を引っ張り立たせる。そして私にお姉ちゃんを預けたのだった。


「すいません……ありがとうございます。それに良かった……二人とも無事で。協力してあの仮面の男を倒しましょう」

「それはやめておいた方が良いかもしれません」


 私の前を腕で塞ぎ動こうとしたのを静止させる。


「奴が押さえている男……『鎌柄鶏』でしたっけ。実は奴と協力してあの姿になるまで追い詰め捕らえました」

「……一体それはどういう事ですか? 私やお姉ちゃんは急に攻撃されたのですが」


 その意外な言葉に疑問と不信感を抱きながら言葉を放つ。


「奴の立場上、樹教に協力した。だから話しても無駄だと思ったのでしょう。紅葉さん達に『鎌柄鶏』の拘束を邪魔される前にみねうちで行動不能にしたのでしょうね。奴なら命を奪うことくらい簡単でしょうから」

「あぁ。正解だ」


 仮面の男はこくりと頷く。確かに溢れ出ている雰囲気は祖父ししょうと同格……またはそれ以上のものだった。


「それに僕の予想が正しければ奴は護衛軍関係者……そして特に僕の本当の特異能力エゴを知っていたという事は幹部クラスで顔見知りでしょうね」

「それもだいたい正解。俺は表立って行動ができないんだ。だからこの仮面をつけている。樹教を助けたのは今ここで漆我しつがくれないに死なれるのは困るからだ」


 仮面の男は私の方に顔を向けながら言う。


 おそらく何も知らない紅蓮にとっては今言った『漆我紅』というのは樹教の教祖……私がタナトスと呼んでいる存在を思い浮かべるだろう。


 しかし、彼は『漆我紅』という言葉を私に向けて言った。


 コイツは私の正体を知っている……?


 もう一度私は身体を戦闘態勢に構えいつでも攻撃をできるようにする。


「ふん……血の気の多い事だ。普段は戦うことなんて嫌いなくせに自分や周りの人間の事となるとすぐに血が頭に昇る。何回見てもお前は変わらないんだな。それが俺にとって一番都合の良い姿勢ではあるんだが」


 知ったような口を叩かれて思わず攻撃しそうになるが、止水さんに止められる。


「止水さん!」

「……紅葉さん。とりあえず落ち着いて下さい」


 止水さんは仮面の男にアイコンタクトを送り事情を説明する様に要求した。


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