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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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樹教襲撃編 14話 鎌柄鶏2

 すぐさま沙羅しゃら様と共に会館を出て外へ出る。同時刻葉書はがきお姉ちゃんが二人目の樹教の襲撃者らしき人を気絶させていたのが分かった。紅蓮ぐれんはその近くで倒れているが意識は失っていない様子だった。


「葉書さんの闘いが終わったみたいですね」

「流石お姉ちゃん! 特異能力者エゴイストを二人も相手にして勝つなんて!」


 しかし、お姉ちゃんは感知しただけでもかなりの疲労と怪我をしているように思える。とりあえずは其方に向かわなくては。


「お姉ちゃん! 大丈夫?」

紅葉もみじちゃん⁉︎ 教祖はどうしたの⁉︎」

「何処かに逃げたみたい……それよりお姉ちゃん怪我してる」

「ええ……でも少しだけよ。まだ戦えるわ」


 彼女の身体を直接触り衿華えりかちゃんの特異能力エゴで痛みだけでも取り除く。


「『痛覚支配ペインハッカー

「凄い……痛いのが消えた」

「うん。怪我は治せないけど痛いと筒美流の技の精度にも支障が出ちゃうからね。

「ありがとう」


 お姉ちゃんに頭を撫でてもらえて少し嬉しくなる。


 もしあの時お姉ちゃんが死ななかったら、一緒に護衛軍でこうやって支え合いながら戦えたのだろうか? つい、私はそんな想像をしてしまった。


「沙羅様……改めて死んだ筈の姉と再開させて頂けたことありがとうございます」

「お礼なんて要らないですよ。私の都合で紅葉もみじさんに協力してもらう為にした事です。ですが筒美流奥義の連続使用のせいでそろそろタイムリミットが……」


 気付けばお姉ちゃんの身体から排出される ERG(エルグ)が徐々に濃い自死欲タナトスに染まった ものになっていっているのがよくわかった。


 筒美流奥義の連続使用のせいで沙羅様によってかけられた自死欲タナトスの呪縛が解けているのだろう。


「そうね。もう全力では戦えない、どんどん私の身体が死喰い樹(タナトス)の腕を引き寄せている。次の戦闘で最後になりそうね」

「……そっか。もう帰っちゃうんだ」

「うん。この数日間久しぶりに紅葉ちゃんの顔が見られて本当に良かった。もう会えるはずがないって思ってた。だから紅葉ちゃんが死にかけた時、私の命を貴女に預けた事どう思ったか知ることが出来なかった」

「……」


 お姉ちゃんにしてみたら私をこの三年間苦しめてしまったのは自分自身だと思っていてもおかしくはない。それでも私は貴女に誇れるようにずっと死なずに生きてきた。


「ありがとうお姉ちゃん。これからもずっと一緒だよ」

「うん。いつでも私を使ってあげて」


痛覚支配ペインハッカー』での施術が終わり、お姉ちゃんから手を離す。


「紅葉さん、紅蓮お兄様にもその特異能力エゴを使ってもらえませんか?」

「分かりました」


 私は渋々了承し彼の体に触れた。触れてから分かったのだがそれは普段から鍛えているような肉体ではなくかなりの大怪我をしていた。


「紅蓮お兄様? 大丈夫ですか?」


 彼女は後ろで壁に寄りかかっている紅蓮に声をかける。


「すまん……またお前を守れなかった」


 彼は俯きながらサングラスを外し肩で息をしていた。


「……生きていればいいのです。それに身の程は多少知れたでしょう?」

「この力が有ればどんな相手でも倒せると思った。だが現実は違った」

「そうです。物事の根幹は理解する事と使い慣れる為の経験を積むことです。例えその力がいかに強力でも使い方を知らなければ殆ど意味がないのです。それに葉書さんは強かったでしょう?」

「ああ、あれはああいう力なのか?」


 すると葉書お姉ちゃんは胸を張って自慢するように言う。


「全部普通の人間でも理論上出来る技術よ」

「そうか……なら俺でも出来るのか」

「もちろん。習得するのにはかなりの鍛錬が必要になるわ。それでももし沙羅様を守りたいって言うなら」

「当たり前だ。俺は強くなるこんな負け方二度とごめんだ」


 惨敗して少々垢抜けたのだろうか。眉間にずっと皺がやっていたのが柔らかくなった気がする。


「そうこなくちゃ。紅葉ちゃん、お師様とはもう連絡ついたんだよね?」

「うん、もう実家の方に帰ってきたらしいよ」

「お師様……なるほどな。最初からその腹だったのか、沙羅」

「ええ。ですからお兄様は色々なことを知り強くなって下さい」


 すると紅蓮はお姉ちゃんにつかぬ質問をした。


「そのお師様ってのはどれくらい強い?」

「私よりは確実に、おおよそ今会館の方で戦っている止水さんともう一人と同じかそれ以上に強いでしょうね」


 先程からあの建物の中で轟音のような物が鳴り響いているのご此方に反響してきている。おそらく達人の域に達した者同士の拳のぶつかり合いが何度も何度も振動となって空気を震わせているのだろう。


「俺も世間知らずだった訳だな」

「そうですよ。私を誘拐するなんてもってのほかです。いい機会なのでお兄様の勉強の為護衛軍の方には連絡していなかったのですが、その目的が達成されたのでもう呼びました。一時間もしないうちに誰かが此方に来るでしょう」


 一旦話が落ち着いたので止水さん以外の皆がここに集まった理由を沙羅様に聞く。


「そういえば、先程話してた『鎌柄かまつかげい』の話は?」

「そうです。樹教の教祖によれば彼がここに来ているらしいのです。だからまずお兄様の安全を確認したかったのです」


 まるでそいつが居たら確実に死んでしまうかのように沙羅様は話した。


「ここ最近、死喰い(タナトス)の樹に回収されない死者の数……暫定死者認定された行方不明者がかなりの数増えています」


 そういえばそんな話テレビのニュースで見たことある気がする。昨日までいた人間が丸ごと居なくなっている……それも男性中心に狙った犯罪らしい。


「その原因を調べた所『鎌柄鶏』を名乗る人物が各地で犯罪を起こし一般人を殺めているそうです」


 しかし普通に殺しただけじゃ死喰い(タナトス)の樹に感知されてしまうから特異能力者エゴイストでもない限りそれは不可能だ。


「彼は人喰いです。骨まで全てその腹に入れてしまい自分の身体にする最悪な特異能力者エゴイストです」

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