樹教襲撃編 12話 暴食3
「蝿の遺伝子……塩基対はヒトのそれとほぼ同じ数だけある。それに二週間っていうスパンで蝿は卵から成虫に変わる。だからヒトの代用として蝿が色々な実験に使われることがよくあるのだけど……」
地面に突っ伏した私の肌に蝿が止まる。必死に振り払うが次々と私の体に蝿がたかり始める。
「蝿を選んだ理由はそれ。私の特異能力は身体の細胞を虫に変化させる事なんだけどそれだけじゃここまで大量の数は作れない。沢山配合して優秀な品種を育てる、蝿じゃなきゃこんな事多分できないし、そうじゃなきゃここまで強い蝿達は作れない」
振り払いきれない蝿が口を開き各々私の皮膚を噛み始めた。
「ッ……!」
防御術が間に合わなく身体の至る所に痛みが走る。そして蝿は口から何か液体のような物を出すと皮膚が柔らかくなる。
「やっぱりお姉さん美味しい。この前食べた新入りを思い出すよ。優秀な遺伝子で作られたタンパク質って凄い珍味なんだよ」
「防御術急ノ項ーー『鉄樹開花』ッ!」
全身に結界を張り、これ以上蝿が私の身体に入り込まないようする。同時に身体に張り付いた蝿も引き剥がした。
「残念……もう少しでお姉さんに私の子供を産み付けられそうだったのに」
もう一度彼女は舌舐めずりをすると私に取り付いていた蝿を自分の身体に張り付かせた。
どうやら捕食した細胞主の性質を少しだけ蝿に反映させる事ができるようだ。先程の炎も紅蓮の身体から作られた蝿なのだろう。
「まったく冗談キツいわよ……この身体は紅葉ちゃんに捧げるって決めてるの、穢さないでもらえるかしら?」
「うん。もういいよ後は私の身体を媒介にするだけだから」
すると彼女の身体にとまった蝿達は一斉に卵を植え付け始める。
「すぐにこの子達は成虫に変わる。そうなったら楽しみ。お姉さんと私の遺伝子が混ざれば凄い子供ができそう」
「その前に貴女を倒すわ」
「そんなことしていいの? そしたらここの『蒲公英病』の人達の症状が治らないよ?」
「……どういう事⁉︎」
「だから私が三週間くらい前からここの病気の人達に卵を産み付けたの」
まさか体育館で看護師の仕事をしている時に見かけた蝿は彼女の特異能力によって作られたもの……? あの時の患者の免疫反応は蝿によって植え付けられた蛆は『蒲公英病』の症状を抑える為の性質を持ったものなら説明できる。
「そういうことね」
樹教は『蒲公英病』とは関係ない。それは紅葉ちゃんも言っていた事。むしろ『蒲公英病』について快く思っていない可能性だってある。
だけど私達には症状を遅らせる事が出来る紅葉ちゃんがいる。その脅しは通用しない。
「序ノ項ーー『花間』」
一瞬にして間合いに入る。
「……⁉︎」
「『桜花』ッ!」
足へとエネルギーを集中し彼女の脇腹目掛けて回し蹴りをする。
「くっ……!」
彼女が咄嗟に手で構えたことにより脇腹へは余り振動を伝えられなかったが充分なダメージは与えただろう」
「はぁ……はぁ……やっぱり一筋縄ではいかない。片腕はもう使えないか」
特異能力の連続使用の疲れか不意を突かれたことによる精神的動揺か彼女は息を切らしながら体勢を立て直す。
追撃を加えるなら今しか無いッ!
「筒美流奥義攻戦術終の項ーー『百花繚乱』」
音速を超えた数百の拳を彼女に向けて乱打する。
殆どを間に割り込んできた蝿によって遮られるが当たるのは2、3発で充分。彼女はモロに私の攻撃を位後ろへ飛ばされていく。
「はぁ……はぁ……流石に連戦はキツい」
ここに来て私にも終ノ項連続使用による疲労が溜まってくる。
「まだ……私は倒れていない……!」
金剛纂は全身傷だらけではあるがその身体を引きずって此方へ来ようとする。そして特異能力を全力で開放しているのか凄まじい量の熱が感じられた。
「『暴食の王』ッ! 産まれろ私の可愛い子供達ッ!」
彼女の全身から数十匹の蝿が飛び出してくる。おそらく私の身体能力を持つ個体なのだろう。
「これでお姉さんは私に敵わない……! 勝った……」
しかしその蝿が近づくよりも速く私は彼女との間合いをもう一度だけ詰め彼女を蹴り上げる。
「筒美流奥義攻戦術ーー"葉書ノ項“」
彼女はその言葉を聴き驚く。何せこれはお師様すら知らない技。
「ーー『桜花一閃』」
亜光速の拳が空中で彼女身体を破壊する。
「なーー」
「どうやら貴女の蝿は捕食した相手の特性を100%引き出すことはできないみたいね」
未だに地上付近で飛び回っている蝿を見ると速度ですら私の十分の一もないだろう。
「引き出せてもおおよそ10%ね。私の勝ちよ金剛纂」
地上に着くと既に彼女は気を失い蝿は全て消え去っていた。




