樹教襲撃編 11話 暴食2
正面に人一人の気配と複数の羽音が聞こえる。そして紅蓮がいる方向からも羽音が聞こえた。
標的を紅蓮から私に変えた。それに紅蓮から取り除けなかった蛆が私を追ってきたのだろう。
静かにかつ素早く彼女の方へ足を運ぶと先に私が彼女の姿を目視した。
『鳥語花香』で感知したとおりおおよそ彼女は紅葉ちゃんと同じ年齢の背格好だった。髪型は左右の後ろ髪をともに団子状に結った所謂ツインお団子ヘアであった。先ほどの真理亜とは違い服はちゃんと着ており全体的にふんわりとした可愛らしく甘い香りのしそうな服を着ていた。
「美味しそうな人取り逃した……お腹空いた……」
お腹の音が鳴ると共に彼女はボソボソとした声で呟く。多分取り逃したのは私の事なんだろう。
「既に蛆を植え付けたここの人達の細胞は食べちゃいけないし……多分あの女の人こっちにくるよね……」
『ここの人達の細胞』……? 一体何の事……?
それに私の接近に気付いているの? じゃああの蛆や蝿の一匹一匹と視覚か何かで感覚共有しているっていう事……とても厄介な特異能力ね。
分かることから考えれば彼女は自身の細胞を蝿もしくその他生物に変換させ操り、他人を媒介として育て数を増やす特異能力を持っているのだろう。他人を媒介にするのは己自身は数匹程度しか出せないから。でも他人を媒介にし準備期間を設ければ幾らでも量産できる。
この点を考えるとさっき戦った真理亜とはまた違った意味で厄介な能力かもしれない。真理亜の脅威はどのように攻撃すれば相手を無力化できるかどうか分からない。だから先程のようにその手の感情生命体や特異能力者は動きを封じる必要があった訳である。これは推測だが真理亜の場合はまだ幼く戦闘経験が少ないから私でも対処できたが経験を積めば恐ろしい敵になり得るだろう。
話を元に戻して、今目の前にいる彼女の場合は無数の蝿の他に本体である身体がある。あれが弱点になるだろう。一瞬で私の間合いに彼女を入らせて気絶させられれば万々歳。殺しは情報を引き出すためにもしない方が得なのだろう。
最悪なのは私が初撃で戦闘不能に持っていけなかった場合。その場合の注意点は蝿の攻撃力になるだろう。幾ら鍛錬不足といっても特異能力者の身体を傷付ける程の獰猛さとこの一瞬にして成虫へと変わる素早さ……
「ふぅ……」
どのように動くか大体決めたので一息呼吸を置いた後、彼女目掛けて筒美流奥義破ノ項『花影』で間合いを詰める。
だがしかし高速で動く中確かに私はその声を聴いた。
「そこね」
「ッ⁉︎」
拳を捕まれそのまま勢いに乗せて投げられる。私は上手く受け身を取りすぐ体勢を立て直す。
攻撃を防がれた……? 気配遮断とタイミングは完璧だった。なら彼女は私の攻撃を筒美流か何かで感知していた……⁉︎
「ふーん、お姉さん凄い。身体強化や気配遮断……それに闘い方どれをとっても達人級。特異能力者じゃ無いから見逃してた。まりぃちゃんがやられたのも頷ける」
「……感知したの? 私の攻撃」
「これ……筒美流だよね? 便利そうだから私も少し齧らせてもらったの」
齧る程度で私の気配を感知するか……少なくとも序ノ項や破ノ項は使われると思ってたおいた方がよさそうだね。放っておくと絶対危険だ……
「私は筒美葉書。筒美流創始者筒美封藤の弟子として孫娘として貴女と手合わせ願いましょうか」
「名前……私は金剛纂。苗字は無いの。お姉ちゃんと暮らしていくって決めた時捨てた」
紅葉ちゃんや真理亜と同じく此方を濁った目で見つめる彼女。
「……貴女は私の姉に少し雰囲気が似ている」
「それは奇遇ね。丁度貴女が私の妹に似ていると思ったの」
徐々に周りにいる蝿が一つの場所に集まっていき羽音が煩くなっていく。
「残念だけど貴女は殺すしかない」
「……もう死んでるから殺す必要なんて無いわよ」
「へぇそうなんだ。じゃあせめて私が美味しく食べる」
彼女は舌舐めずりをし今度は獲物を見つめるような目で私を見る。
「『暴食の王』ーーッ!」
「終ノ項ーー『鳥語花香』」
数百体の蝿が私に襲いかかると共にその全ての動きを理解し把握する。これだけの数を考えながら動かすのは絶対に不可能であるから彼女の特異能力の本質は蝿の操作ではなく自意識を持った蝿の創造。
「舞空術序ノ項ーー『風花』」
空中を縦横無尽に駆け回り蝿の猛攻を全て避ける。そして、地上にいる金剛纂に攻撃を仕掛けようとする。
がしかし突然目の前が炎で遮られた。
「ッ⁉︎」
「隙あり」
炎は避けたが急な方向転換で倒れ込む形で地面に突っ伏す。
「炎……?」
まさかこれは紅蓮の特異能力……⁉︎




