樹教襲撃編 10話 絶望3/暴食1
一瞬のうちに真理亜は自身の体を数え切れないほどのパーツへと分解する四方八方に散る。そしてそれらは空中浮遊をしながら高速で私に襲いかかる。
「筒美流奥義急ノ項『狂花』」
襲いかかる彼女の体を全て避け、空中にあった頭部を見つけるとすぐさま距離を詰める。
「ソレすらも避けるノカッ⁉︎」
「捕まえた」
両手でしっかりと彼女の頭部を掴む。
「オイッ! 何スル気ダッ! ……マサカッ!」
「とりあえず厄介だから数分は帰って来ないでね!」
着地した後足を開き力を入れて頭を投げる動作に入る。
「ふざけるな!ヤメロ!」
「飛んでけぇ〜!」
「イヤ! コワイコワイコワイ!」
彼女の必死の叫びも虚しく私によって投げられた頭部は空を飛び数キロ先まで勢いよく飛んで行った。それに反応する様に今まで浮いていた彼女の体のパーツは力を失ったように地面に落ち、ゆっくりと頭部が投げられた方に引き寄せられるように動く。どうやら視界から外れるか一定以上頭部から離れると自動的にこうなる仕組みのようであった。
「さて後はこの体を回収してとっ」
彼女のもとへ行こうとした体一つ一つに触れ、防御術の応用で固形化させたERGで覆いそれが動けないようにする。
「これでしばらくはこっちに戻って来れないはず」
もう一度戦況を確認するために『鳥語花香』による感知を行う。
……紅蓮はかなりのピンチ。沙羅様は紅葉ちゃんと一緒に戦っている? しばらくなら持つかもしれない……それに相手は自らを『漆我紅』と名乗る人物。彼女達が自分の力でなんとかした方がいい結果が起きるかもしれない。止水さんは拮抗状態……私が手を出しても邪魔になるだけかな。
……沙羅様との約束もあるし彼女には死んでなお紅葉ちゃんに会わせてくれたという恩がある。仕方ない紅蓮を助けに行くか。
再び門の方へ駆け足で戻る。そして後一歩で何かしらの攻撃をされかけていた彼を抱え離脱させた。
数十メートル離れた会館の物陰に彼を下ろすとようやく気づいた彼は私から離れた。
「……ッ! なんだ? 筒美か?」
「正解。やられそうだったから助けにきたわよ」
「うるせえ! こっちは当たれば勝てるんだよ邪魔するんじゃねえ! 非特異能力者!」
「そんなこと言ってボロボロじゃない。ここは戦闘経験豊富なお姉さんに任せときなさいな」
彼の至る所に小さな噛み傷がある。酷いところは抉れてかなりの血が溢れていた。
「ちょいと見せて」
私は屈み彼の傷を注視する。するとその傷から7から8ミリほどの白くウネウネとしたものがたくさん出入りしているのが見えた。その白いものが紅蓮の皮膚を噛み進めどんどん奥へと入っていっているようにも見えた。
「……うわきもっ!」
おそらく私は苦虫を噛み潰したような顔をしながら言ったのだろう。紅蓮が心外そうに怒ったのであった。
「テメェぶん殴るぞ⁉︎」
「殴れるものなら殴ってみなよ」
彼の言葉を無視しその白いものがいる傷をよく観察した。するとその正体に気付く。
「……まってこれ蛆じゃない? 敵どんな特異能力だった?」
これがもし蛆だったらこの前『蒲公英病』の患者が収容されていた体育館で見かけた蝿は……
「蝿が集って襲いかかってきた」
「なるほど」
『鳥語花香』を使いその蛆の物体の組成構造を覗こうとすると明らかに自然の生物とは違うものだということが分かった。そして厄介なことがもう一つ。
「そろそろ羽化するわ」
「ウカ……?」
「こいつがハエになるのよ! 早く体から取りなさいよ!」
「できたらやってるわ! そんなことしたら俺が燃えるわ!」
紅蓮は特異能力精密操作すらも訓練していないのか。良いものは持っているのにもったいない。
「仕方ないわね……」
私は即座に体の表側に出てきている蛆を潰しながら彼の体から取り除いた。
「……おい筒美、一体何をしたんだ? 急に身体中の痛みが引いたぞ」
「だいたいの蛆を払っただけよ。というかあなたは努力不足。そんなんじゃ沙羅様を守ることなんてできないわよ」
「……」
流石に自分がどれだけ沙羅様に迷惑をかけていたのか身にしみただろう。彼の得意げだった顔が少し曇った。
「全部は取り除けていないけどそれは我慢して。私はあいつを倒してくるから」
「……分かったよ」
どうやら理解してくれたらしい。本来なら沙羅様が言って欲しかったことだけど結果オーライだ。
「これで紅葉ちゃんと合わせてくれた分の借りは返しましたよ。沙羅様」
私は再度門へ向かった。




