樹教襲撃編 8話 絶望1
同時刻ーー私、筒美葉書が紅葉ちゃんと行動を離れた頃襲撃に応対した漆我紅蓮を追い会館の上階から飛び降り門へ向かっていた。
そしてそこから煙が立ち込めているのが見えた。
……何かが爆発した? それとも紅蓮が特異能力を使い煙を立てた……?
真偽はわからないが煙のせいで視界が使い物にならない。
なら……筒美流奥義終ノ項『鳥語花香』!
周囲一帯に私の体から排出されたERGが広がり人間本来の体の感覚器官だけでは感知できない細かな動きや空気の揺れ、そして大まかだが周りの人間の感情までも認識する。
そして煙が立ち込める場所に入り、急ノ項『狂花』を発動させ、敵を待ち構える。
これは相手の気配や攻撃を感知した瞬間事前にその方向へ自動追撃する様に身体中のERGをプログラムする応用技。
「……」
後ろに気配を感知する。おそらく特異能力者か感情生命体の物ではあるがそれにしてはサイズが小さく体温や鼓動のようなものまで聞こえた。
もちろん私の足は即座に蹴りを入れる。すると当たった感触と少女の声が聞こえた。
「イタっ!」
一瞬一般人を巻き込んでしまったかと思い焦ったが、思った以上に固かった感触や予想以上の反動が私の方にも来ていることから、彼女が普通の人間の体とは構造が違うと確信した。
一旦煙から離れ態勢を立て直す。
破ノ項『花影』……!
気配がした方向の背後へ回り込むように足が早く動く。この間呼吸はせずにERGは皮膚からの吸収のみで身体能力を向上させる。呼吸をしないことによって相手が筒美流のよっぽどの使い手じゃない気配や呼吸音は絶対に感知できないはずである。
無事煙から出れたので『鳥語花香』の出力を一段階ほど上げる。これをすると触覚まで強化され不意打ちをされた際痛手を見るためあまりやりたくないのではあるが、敵の正体がわからない以上やるしかない。
体から代謝されるERGの量が倍以上に増え一帯全てを把握と、起こりうるであろう動きが感じられる。
奥に紅葉ちゃんと同じくらいの歳の女の子……彼女は特異能力者。そして直ぐ近くに紅蓮の気配。一番近くには私が先ほど接触したであろう少女……いやこれは……!
「正解ッ! 私ハ半分エスターナノ!」
後ろから人の口や手と思われるパーツだけが飛んでくる。
「甘いわね、すでにこっちは『全て』を補足しているのよ……!」
私の体は自然と向かってきた体のパーツを避け、最も隙のある腹部を探し出しそこに打撃を与える。
「イタイ! コイツ! ツヨイ!」
知覚したパーツ全ての動きが鈍くなり徐々に集まっていく。同時に煙が晴れその姿が見えた。
「へえ意外と可愛い見た目してるじゃない」
バラバラに動いていたためかその少女の体には一切衣類が纏われていなく、先程の動きを忘れてしまうが如く傷や取れかけているような体の部品は無かった。
髪は黒く短めのショートボブ。一見すると小学校の高学年と思えるほどの風貌。そしてなによりも特徴的なのは初めて紅葉ちゃんとあった時見せたような、この世に『絶望』した子供がする光を吸い込むような黒く濁った目。
「お前……何者ダ!」
「あらお母さんに教えてもらわなかったの? 相手に名前を聞く時はまず自分から名乗りなさいって」
「お母サン……? 普通ノ人間ニハそれガ居るノカ?」
片言のような舌足らずな言葉。そしてこの発言。おそらく親がいない、もしくはそれ以上に最悪な環境でこれまで過ごしてきた可能性が高いというわけか。
「イイヤ、教えてアゲル。私ハ真理亜……マリーゴールドノ真理亜。紅サマが名付けてくださったノ。皆んなカラは『まりぃ』って呼ばれてる。これからヨロシクネ。お姉サン?」
「そう……私は葉書、筒美葉書。郵便ポストに入れる葉書と同じ漢字。名前の意味は特に無いわ。よろしくね、まりぃちゃん」
「ゆうびん……ハガキ……? それは食えるのか?」
急につぶらな瞳で彼女は私に話しかけてきた。
「食べられるわけないでしょ?」
思わず戦闘中なのに笑って返してしまう。
「ナンダつまんない、帰ったらヤツデに食わしてやろうト思ったノニ」
真理亜と名乗る少女はえらく落胆したかと思うとすぐに攻撃をこちらに仕掛けてきた。
「モウイイヤ、ヤツデのハエならヒトも食えるデショ」
この子私を違うやつに食べさせる気かよ。というか今『ハエ』って言った?
内心彼女の発言に突っ込みながら四方八方からくる体のパーツをさらりと避ける。
「だから言ってるでしょ? 貴女の攻撃じゃ当たらないわよ?」
「ハヤイ、ヨケルナ!」
「んじゃ、終ノ項『火樹銀花」
瞬間、私の周りにERGが集まり服のような形を形成する。
そして、攻撃は受けるが今度はむしろ私に攻撃した彼女のパーツは反動を受け痺れたように空中を漂った。




