樹教襲撃編 7話 襲撃2
「人を捨てなきゃ貴女には勝てないから」
「そんな事言ってる癖に理性を捨てきれてないじゃない!」
汚染濃度の濃い『衝動』が周囲一帯を包もうとする。
「『痛覚支配』ーー精神浄化」
翼の能力によって強化された『痛覚支配』が『衝動』によって汚染された ERGを浄化する。
「やっぱり! それくらい対策するわよね!」
後ろに下がろうとする彼女を追わず私は遠距離から『僻遠斬撃』や『速度累加』を使いつつ攻撃する。
「筒美流奥義急ノ項『百花』!」
拳や翼により起こる風圧を駆使した見えない遠距離攻撃。それが彼女に突き刺さるかに思えた。
「効かないわねッ!」
がしかし彼女に触れる頃には衝撃波は何も攻撃力を持たない風になっていた。
「ERGの操作……? まさか……!」
「そう私に対する ERGによる攻撃は全て無意味。特異能力による攻撃も貴女の祖父の編み出した遠距離攻撃も私に触れた時点で無に帰すのよ」
特異能力が効かない……⁉︎ じゃあ私が今までやってきた事は……
何年もかけて血の滲むような努力をして得た技術。
最愛の姉を犠牲にしてまで生き残って得た応用力。
最大の友達に隠し事をし見殺しにしてまで得た特異能力。
様々な後悔の果てに得た今の私は……
「ふざけるなよ……そんなの……そんなの」
何度も何度も彼女に向かって暴力を振るう。その全てが尽く打ち消されてしまう。
「それ全部私を殺す為に手に入れたんだ。強くなったね。たくましくなったね。頑張ったんだねーー」
そして、彼女は仮面を外し私に『あの人』の顔で醜く笑いかける。その瞬間、今まで認識していた彼女の見た目、声、匂い全ての認識が書き換えられる。
「ーーでも全て無駄な人生! アッハッハ! 『生まれてきてごめんなさい』くらい言ったらどうかしら?」
『その人』は……駄目だ、絶対に有り得ない。その人の顔でそんな事言われてしまったら私は壊れてしまう。
有り得てはいけないだってその人は私と離れ離れになってからずっとどこかの病院に……
「お母様……?」
紛れもなくその顔は私の実の母ーー筒美宛名であった。
「あーあ、貴女なんて産んでしまったからこんな事になってしまったのに。さっさと自分で死になさいよ」
その声でそんな事言わないで……一番『死にたい』って思っていたのは私なんだよ?
思わず全ての徒労と起きている事の不可解さで全身から力が抜け身体が崩れ落ちてしまう。
「駄目です! 紅葉さん、自死欲の衝動に飲み込まれちゃいけない! それに、あれは貴女の母親じゃない!」
必死の形相で沙羅様が此方へ駆けつけてきた。
「違う……あれはどう見てもお母様だよ」
「騙されてはいけません、宛名さんはちゃんと護衛軍直営の病院に居ます!」
「タナトスが乗っ取ったんだ……あいつは私を乗っ取ったんだ! お母様を乗っ取れない筈が無い! ずっと私に会わせなかったのがいい証拠じゃない⁉︎ なんで黙ってたの⁉︎」
そうだ……もし監視下に居たなら一度くらい会わせてくれたって良かったじゃないか。きっと失踪を隠蔽する為にこうして私をお母様に会わせなかったんだ。
「違います! そんな意図全くないです!」
「そんな無駄口叩いてていいのかしら? 私は貴女をいつでも殺せるのよ?」
タナトスは此方へゆっくりと歩きながら近づいてくる。そして射程位置ついたのか翼を広げそこから光熱波を出そうと ERGを集中させている。
「二人とも一気に片付けられるからそれも楽かもしれないわね」
タナトスがそう呟き光熱波が発射された。
もうこれで私は終わりなのだろうか。
そう思った瞬間、私の目の前に白く神々しい羽が現れる。
「『贄の翼』ーー! 紅葉さんお願いです立ち上がって下さい。私も闘います……! ですからご一緒にコイツを撃退しましょう」
「沙羅……様?」
彼女の背中からは天使のような綺麗なその羽が大きく生えていたようだった。
「へぇ……其方も羽の能力を使えるのね」
「ええ。私だってずっとあの樹の中で引きこもってた訳じゃないのですよ」
沙羅様は此方を見て手を出した。私は反射的にその手を取り立ち上がる。
「ごめんなさい。心配かけました」
「大丈夫ですよ。紅葉さん、私気付いた事があります。先程タナトスは止水さんの攻撃を打ち消さず受けていました」
先程止水さんは特異能力による攻撃ではなく直接タナトスに触れて攻撃していた。
「そうか……」
奴には ERGによる遠距離攻撃が効かないだけで直接物理的な攻撃を与えるだけでダメージは通る。
「ありがとうございます」
「さぁ行きますよ紅葉さん」




