樹教襲撃編 6話 襲撃1
私が『焔』の本拠地に来てから数日がたった。私はその間葉書お姉ちゃんと共にここで看護師の真似事のようなことをしていた。私達の寝泊りしている部屋は会館の中にあり体育館へはそこから通っていた。
今日はいつも通り彼女と体育館へと続く道を歩く。外を見ると晴れで特にいつもと変わらないそんな風景が広がっていた。
「いつまでこの生活が続くんだろうね」
「私はそろそろ護衛軍の謹慎処分が解除されるから、もう戻らなきゃだけど」
「そっかーまぁ今までよく頑張ってくれたよ。ちなみに私や止水さんもそろそろタイムリミットっぽいよ」
彼女は樹の方を指差しながら残念そうに口を開く。
「そうかぁ……樹教が仕掛けてこないなら、沙羅様にもそろそろ樹の方へ戻って貰わないと」
「それには紅蓮を説得しないといけないだろうね」
「それが一番苦労しそうだね」
たとえ一時期は沙羅様を樹に帰しても紅蓮ならまた樹から誘拐するだろう。しかも沙羅様との約束であった祖父の元で修行させる事も当の本人である紅蓮が断ってしまったからその可能性は大いに増す。
「まいったねぇ……」
「でも平和が一番……」
お姉ちゃんがそう口を開こうとした瞬間大きく轟音が響き渡った。
「ッ⁉︎」
「襲撃⁉︎」
音は門の方から聞こえた。煙が立ち込めるそこに目を向けると紅蓮が下からそちらへ向かって行っているのが分かった。
「あの馬鹿……! 自分の実力分かってないでしょ」
「お姉ちゃんは紅蓮のカバー! 私は沙羅様の所に行く! そっちの事はお願い!」
私はすぐ駆け出し階段を登り沙羅様のいる所へ誰よりも早く走る。
「分かったわ! 」
お姉ちゃんも窓から外へ飛び降りてすぐ門の方へ向かった。
階段を駆け上がり最上階につきそこにある大きな扉を開く。その部屋を見渡すとそこには既に三人の人がいた。
一人目は止水さん。私より早く事態を察知して誰よりも早くここに来たのだろう。
二人目は沙羅様。何が起きたかを既に予想していた為彼女は落ち着いて奥の大きな椅子に座っていた。
そして、彼女と向かい合って立っている仮面の少女。彼女が三人目。私と止水さんと沙羅様で挟みうちにしている立ち位置になっているが彼女は動じずに言葉を放つ。
「あはっはっ……我半身! 10年ぶりじゃない!」
コイツはッ……!
溢れ出る『衝動』によって彼女の正体が分かった。
「タナトスッ!」
まさか、教祖本人がいち早くここに乗り込んで来るとは思わなかったが……
「まさかここで其方と会い見えるなんてね。これも運命かしら?」
「何をしに来た……!」
すぐさま臨戦態勢に入りながら彼女を威嚇する。
「まぁ落ちつきなさいよ、我半身。今日はただの挨拶……ことを構えてもいいけど、それはどちらにも利がないことじゃないかしら?」
「何を都合の良いことを言っている⁉︎ それで私がお前を見逃すとでも思っているのか⁉︎」
「仕方ないわね」
彼女は溢れ出している『衝動』を強くし、こちらへ歩いてくる。
「もう一度、貴女の身体を乗っ取ってあげる」
「させませんよ」
瞬間、気付かないうちに止水さんが彼女の背後から筒美流奥義で攻撃を加えた。
「ッ⁉︎」
そのまま彼女は壁の方へ吹っ飛ぶ。
「どうやってあの場を生き延びたんですか?」
「ハハハッ! お前か、止水題! 10年前私の邪魔をした特異能力者」
「どうやら貴女がタナトス本人で間違いないみたいですね」
彼からも物凄い量の熱量を感じられる。
「紅葉さん! そろそろ奴がここへ来ます。僕は奴の足止めをするのでタナトスをお願いします」
瞬間、彼の目の前に今度は関所で見た仮面の男が現れる。
「来たか」
「……誰だ? 感情生命体?」
タナトスの口ぶりから見ても彼はどうやら樹教とは関係の無い人間らしい。
「今は貴女の味方ですよ、彼の相手は俺に任せてください。『楓様』」
「ほぅ……貴方私の名を知っているの。……面白い……では頼みましょうか。私は子孫達に少々お灸を据えないと」
もう一度彼女が私の方に歩いてくる。そして、その背中には禍々しい片翼の羽が徐々に大きく広がって生えていく。
「其方から奪った翼……もう一度ここで使わせて貰おうじゃないか」
「そう……」
それに呼応するかのように、私の背中からも禍々しい羽が生える。此方も片翼の羽。
「『自死欲の翼』」
それは漆我家の女性にのみ使える体内DAYNを体外に膨張させより効率的な ERGの代謝をあげる為の身体機能。鳥の翼ように見えることから元々は『贄の翼』と呼ばれていたものだが、その正体はより自死欲の感情生命体に近づいただけである。
「其方も使えるか……だがそれはすなわち己から溢れ出る衝動に身を任せるということ。感情生命体と何も変わらないという事だ」




