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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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樹教襲撃編 5話 お手伝い3

 私はそのまま医者達のいる部屋に行く。そこでは、椅子に座って業務をこなしている止水しすいさんがいた。


止水しすいさーん」


 私は彼に手を振り、駆け寄る。すると、その椅子から忽然と消えて私の目の前に現れた。


「っ⁉︎ びっくりした! 驚かさないで下さいよ! 止水さん!」

「これは失礼しました。何かあったと思い思わず特異能力エゴを使って周囲を見てきたのです」

「そりゃまた、ご苦労様です。そういえば貴方の特異能力エゴは……」


 確か、自分以外の進む時間を全部止めるだったっけか。じゃあ、この人は一瞬の間に何をしてきたのだろうか……?


「あーえっと特異能力エゴについては僕と紅葉もみびさん以外、秘密でお願いします。何せタネが割れると距離を取られて戦われるのでやり辛いのです」

「ご謙遜を……そんな事言って、それくらいなら対策できますよね?」

「いえいえ、僕の事買いかぶりすぎですって。それに度重なる敗北で僕のメンタルはボキボキです。止めてるのに動いてくる奴とかいるんですよ……本当びっくりしますよ」


 彼は重く溜息を吐く。


 うーん……一体彼は何と戦っているのだろうか……? というか最強と呼ばれた男がそれで良いのか……


「あと何時敵が襲ってきてもおかしくは無いです。念には念を……用心には越した事はないでしょう」


 ようやく最もらしい事を彼は言う。ただ、彼の顔からはどれだけ用心しても勝てない相手には勝てませんよという情け無い心情を表すような表情が容易に読み取れた。


「はは……そうですね」


 私が半笑いな声を出すと、彼は私がここに来た目的を察し質問してきた。


「さて、僕に何か相談事でもあるのですか?」

「あっそうです。先程奇妙な事がありまして……」

「ふむ」


 私は先程起きた経緯を彼に説明した。


「つまり、特異能力者エゴイストじゃないのに特異能力エゴを使って、蒲公英たんぽぽ病に対して免疫力を発揮していたということですね……世の中よく分からない事もあるんですね」

「全くよく分かりませんよ」


 しばらく彼は考えこみ口を開く。


「僕から一つ言える事があるとすれば、よっぽどの事がない限り人は特異能力者エゴイストにはなれないという事ですね」

「えぇ」

「今、僕達の陣営にいる特異能力者エゴイスト沙羅さら様、紅蓮ぐれんくん、紅葉さん、そして僕です。その中でおそらくそういう事が出来るのは紅葉さんの特異能力エゴ位ですよね」


 よっぽどの偶然がない限り確かにそうだ。


「やっぱり私が治療ミスしたからなんでしょうか?」

「……いいえ。紅葉さんは腫瘍に対しては特異能力エゴを使っていないんですよね?」

「えぇ……でも、それ自体が確実ともいえませんし」


 いくら自分の意志で使える特異能力エゴと言っても、『痛覚支配ペインハッカー』は元々衿華えりかちゃんのもの。私が完璧にコントロール出来ているとは限らない。


「確かに、紅葉さんがミスをしたという可能性は有ります。でも、僕がその話を聴いて思ったのは最初に敵の潜入の可能性です」

「敵……?」

「最悪樹教がいち早く沙羅様がここにいる事に気付いて此方に潜入しているのかもしれません……いや、むしろ逆で元々沙羅様が来る前から此方に待ち伏せしていた可能性すらありますね」

「そう思う理由は……?」


 すると彼は部屋の奥へと私を案内して、パソコンの画面を私に見せてきた。


「僕も今さっきこのデータを拝見したのですが、沙羅様の来る少し前……ある時期から急に『蒲公英病』の患者達の健康状態が芳しくなくなっています」


 それは体温、血圧等の様々なデータや看護師達が患者をみた所感等が書かれていた。大体ほとんどが先程私が見た少女と同じような症状になっている事が分かった。


「しかし、健康状態が苦しい状態となると共に末期と認定されていた患者達の腫瘍が小さくなっていっているんです。おそらく、これらの症状は紅葉さんの言った『蒲公英病』を治す上での副作用のものなのでしょう」


 彼は何かを確信しているかのような口ぶりで話す。


「つまり、それは樹教の人間が特異能力エゴによって患者達を治しているという事ですか?」

「えぇ、そうです。結構勘違いされがちですが、樹教も僕の調査では人の命を無闇矢鱈に殺す事は嫌がる傾向にあります。おそらく、教祖の教えか何かに背く結果になるからなのでしょう」


 しかし、彼女達の行動でどれだけ護衛軍の人間が死んだか……衿華ちゃんが死んだのか……


「それは思い違いじゃないですか? 私だって友達を殺されたんです」

「……そうですね。思い違いかもしれません。ですが、僕は実際彼女達に殺された訳では無かったのですし……」

「……?」


 彼の言っている事は理解できなかったが、確かに理論立てて考えれば樹教にだって『蒲公英病』を治す理由だってある。


 青磁せいじ先生も言っていた通り、樹教と『蒲公英病』は関係ない。だからこそ、自分達のイメージアップの為にそれを治して市民権を獲る等の行動くらいするのかもしれない。


「失礼……今は関係ない話でしたね。それで、僕が言えることは不安なら念には念を入れるそれくらいで良いです。張り詰めすぎてもあまり良くない結果は出てしまいますけどね」

「分かりました。とりあえず頭の片隅には入れておきます。アドバイスありがとうございました」

「また、何か気づいた事が有ったら遠慮なく来てください。紅葉さんが見たという少女も後で精密検査をしておきます。とりあえずは仕事に戻って苦しんでいる人達の所へ回っていってあげてください」

「了解しました」


 私は彼に軽く頭を下げた後部屋を出てお姉ちゃんと合流し苦しんでいる患者の所を回った。

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