樹教襲撃編 4話 お手伝い2
一つ一つ仕切られた個人の部屋を葉書お姉ちゃんと共に回っていく。それぞれ症状の出ている患者さん達の間には特定の条件などは無く、老若男女問わず居るといえ感じだった。
中には家族も同伴している所もあった為、この病気の恐ろしさが認知されていないのだなと実感してしまった。
しかし、それでも衿華ちゃんの特異能力のお陰であの驚異的な感染力は無くなり、現場の方は先程までの慌てた様子は無くひとまずは落ち着いた様子だった。
「大体は『痛覚支配』で眠っちゃってるから仕事という仕事が無くなっちゃったね」
「急にみんな仕事が無くなっちゃって少し戸惑ってるけどね」
「一応、特異能力使っても寝れていない人とか直接回って『痛覚支配』していこ」
「おっけー」
そして、部屋に入ろうとしお姉ちゃんが隙間から顔を覗く。
「何か変わった事ありませんか……?」
するとその部屋には敷布団で魘されながら寝ている少女とそれを見守る母親がいた。
「あっ……看護師さん! たった今娘の様子が……」
「すいません、失礼しますよ」
私もその部屋に入り、布団の方へ近づいた。そして、少女の額に手を触れて体内の病状の進行状況を測る。
「……ほむ? なにこれ」
私がたった今感じ取ったのは免疫反応のようなもの。つまり、この子が身体の抵抗力かそれ以外の力で腫瘍に対して何かしらの攻撃を与えているという事であった。
しかし、基本この病気の場合通常の免疫作用が働くことはほとんどないのを私は知っていた為少し混乱しながらもう一度筒美流奥義によってこの子の身体を別の方法で感知した。
「どう? 紅葉ちゃん」
「……? 分かんない……とにかくでも身体には悪いものではないのかな……とりあえず苦しいのは取り除いてあげなきゃ」
私は少女に『痛覚支配』を使い、苦しさを取り除く。彼女の容態はすぐに落ち着きを取り戻しひとまずは安静になった。
「凄い……さっきまであんなに苦しがっていたのに」
「いえ、原因が分かっていないので安心はできません。貴女はこの子のお母様ですか?」
「はい、そうですが……?」
急に聞かれて戸惑ったように彼女は答えた。
「つかぬことをお聞きしますが、最近この子が奇妙な事を起こした事はございませんでしたか?」
私のこの発言の意図はこの少女が衿華ちゃんのような特異能力を持っている可能性があったからだ。
理由は先程も思った通り、この病気には自己免疫がほとんど効かないのにもかかわらずこの子の場合それが表までに出ていたからだった。
少女の母親は首を傾げ、いいえと首を横に振った。
「紅葉ちゃん、もしかしてこの子が特異能力になったかもしれないって思ったの?」
お姉ちゃんは小声で聴いてくる。
「そうだね、この子の体の中で今特異能力みたいなよく分からないことが起きてる。でも、この子は特異能力者じゃないみたい」
それに私も小声で答えた。
「とりあえず、この事は止水さんに報告して今は親御さんを安心させる為に今は大丈夫って事にしておこうか」
「うん……そうだね。免疫反応ってだけでそれ以外は私達で対処はできそうだし」
そして、私は少女の母親に口を開いた。
「お母様、今は症状は収まりましたがまたいつ再発するか分かりません。とりあえず、この事は私から責任を持って医師の方へ伝えておきますので、何かあったらまた私か医師の方々に遠慮なく声をかけて下さい」
「……ありがとうございます!」
「きっと、お子さんは治りますからね」
お姉ちゃんは彼女を励まして、私と共にこの部屋から出た。
「ほむ……特異能力じゃないとなると何が原因で起きたんだろう」
「さぁ……? 私達は専門家ではないからその辺は止水さんに任せましょう?」
すると、何かの羽音と気配を感じ私とお姉ちゃんは同時に振り返った。
目では追えなかったが、何か目の前に何かが漂っているのが感じられた。
「……虫?」
「ハエか蚊じゃない? 今結構沸く時期だし、衛生的にもよろしくないね。それも後で止水さんに報告しておこうか」
「看護師長の方がいいんじゃない? 殺虫剤か何か置いて貰った方が良さそうだね」
「了解。じゃあお姉ちゃんは看護師長の方へ話に行っておくよ。紅葉ちゃんは止水さんの方へ話しておいで」
お姉ちゃんはそういうと私と別れ、看護師長の方へ向かっていった。




