樹教襲撃編 3話 お手伝い1
体育館内には仕切りが立てられ敷布団が敷かれそれぞれの区画に一人ずつ、合計でおよそ数十人の『蒲公英病』の患者らしき人がいた。
鈍い音の咳や苦しみに嘆く声が多数漏れる中、『焔』所属である看護師や医師達がひっきりなしに働いていた。
「……話しかける余裕すら無さそうだね、紅葉ちゃん」
「分かっているとは思いますけど、一般人には特異能力存在は隠して下さいね」
「まぁバレないと思いますよ」
私は目を閉じて、深呼吸をする。
蒲公英病はいわば『衝動』の一種。汚染された ERGを浄化さえすれば症状は完治しないものの、元となった感情生命体が近づくだけで爆発的に増えるなんて事はなくなる筈。
「ようするに患者触れなければ大丈夫なんですね……? 『痛覚支配』ーー精神浄化」
すると、一帯に特異能力の効力が広がる。勿論、体育館全体を覆える程のものでは無いが、それを補うためにもう一つ特異能力を使う。
「『僻遠斬撃』」
本来なら物理的な攻撃を周囲の ERGに乗せて遠距離攻撃をする特異能力だ。しかし、周りの ERGに干渉できるコツさえ覚えれば特異能力の効果だって遠くまで届かせられる事ができるのであった。
「痛みを取り除いて病気の進行を促す ERGは浄化しました。欲を言えば細胞と ERGが混ざってできた悪性腫瘍を取り除く事ができれば良かったのですが、そこまで精度は上がらないみたいです。あとは徐々に睡眠状態になるようにしておきました。これで『唐突に治った』みたいにはならないと思います」
「ご苦労様、腫瘍の切除はここのお医者さんと僕に任せてくれれば良いよ、二人は看護師さん達の手伝いをしてあげて下さい」
「分かりました」
「了解です」
私達はそれぞれ別れたあと看護師さんに紅蓮の名前を出し手伝わさせてもらう事にした。基本的には患者さんの生活周りのお手伝いをする事となった私と葉書お姉ちゃんは共にロッカールームで着替えていた。
「ナース服……初めて着るなぁ……」
「私服じゃ患者さんが抵抗感感じちゃうでしょ? 貸してもらえて良かったじゃない紅葉ちゃん」
「流石、普段から巫女服着てる人は言うことが違うよ」
「あれ一応、筒美流奥義の礼服だからね?」
そんな事を言いながら私達はナース服に着替える。
「似合ってるじゃん! 写真でも撮っておく?」
「ありがとう、お姉ちゃんも似合ってる。まぁ……記念に一枚くらいなら大丈夫だよね」
携帯を取り出して、カメラをこちらへ向ける。いわゆる自撮りというやつだ。割と衿華ちゃんがそういうのにハマっていて私と一緒に撮っていた頃の知識はある。
「お姉ちゃん、笑って」
「紅葉ちゃんは?」
「もうイジワル言わないで」
するとお姉ちゃんは指で私の口の口角を上げた。
「ふふっかわいい」
「……まぁいいや。撮るよ……3,2,1……はい、チーズ」
シャッター音が鳴るとすぐに携帯の画面に撮れた写真が映される。
「私変な顔してる……」
「かわいいじゃん」
顔の筋肉がほとんど麻痺している分口だけが笑って目はほぼ半目であるから、趣味の悪い腹話術の人形みたいな顔になっていた。
「そういえば紅葉ちゃん胸大きくなった?」
「唐突にどうした⁉︎ 流石に三年経てば大きくはなるでしょ」
「いやぁこの服さ、割と胸が強調されてるような気がしてさ、気になったのよ」
確かに胸が締め付けられるような服ではある。
「紅葉ちゃんこの前まではあんなにペッタンコだったのにね」
「おいやめろ」
「Cカップくらいにはなったんじゃないかしら?」
「私のプライバシーを口に出すんじゃない」
「そんなこと言わず揉ませてよ」
一瞬にして背後を取られる胸を鷲掴みにされた。
「ひゃん!」
「デカくなってるねーこれ。感度も上がってない?」
「ばかばかばかばか! 変な声出ちゃったじゃん!」
「今更気にする必要なくない? まぁ、私より幾分か小さいけど」
分からせてくるかのように背中に胸を当ててくる。D……いやそれ以上あるぞ。
「⁉︎」
「男の人がいるとこういうことできないからさ、今だけね」
「よくよく考えてみればお姉ちゃん小学生の私に手出したんだよ? 犯罪だからね?」
「あの頃は私も小学生。同意の上だしセーフセーフ」
「いや問題だから! 人生と普通の性癖返して!」
「あははー同意の上だからセーフセーフ」
相変わらずお姉ちゃんは私の過去を聞こうが何しようが私に対してこういう風に接してくれるのは心の支えになっているのだけど。
「もう……いつまで揉んでるの?」
「いやぁ……紅葉ちゃんがそろそろ勝手に心の中で私に感謝するんだろうなぁって思ったから、それに漬け込もうとしただけです。すいません……」
前言撤回、お姉ちゃんはただの変態です。人生返して。
「仕事行くぞバカ姉貴」
「口調が切手兄さんみたいになってるぅ!」




