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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 6話 蕗衿華について2

「はぁ……はぁ……それが紅葉(もみじ)ちゃんの熱……」


 聴いた、私は聴いた。彼女の過去を。そして私は彼女に熱を与えられた。


「好き、好き。ねぇ……止まらない、止まらないよぉ……紅葉ちゃん。何……この気持ち? 熱い。とろけそうで……切なくて……」

「それが私を動かしてるモノだよ」


 彼女は気付いたらいつも通り冷め切った不器用な笑顔で微笑んでいた。まるで遊びたくない玩具で遊んでいる子供みたいな表情だった。


 あぁそれでも笑顔を向けてくれることが嬉しくて。衿華(えりか)に接してくれるのが嬉しくて、さっきまで頭を汚していた考えが杞憂だった事がわからされていく。


 それが紅葉ちゃんの魅力。どんな人でも不器用でとても冷たい物だけど笑顔だけは絶対作る。そして、裏腹にそんな彼女が人生に対してあんな熱を持っている事自体もう狂気的で、素敵で、美しくて、表現出来ないくらいに最高だ。言葉で理解する領域を超えたこの熱。熱について私に語った時の表情。忘れられない。忘れたくない彼女の本物の笑顔。


 より紅葉ちゃんを好きになってしまった。もう嫌われているのではないかとか、女の子同士だからとか、そういうのはどうでもいい。ただ貴女の隣にいるだけでいいし、貴女がもしも本物の笑顔を見せてくれたら、そんなに幸せなことはない。


「よかった、衿華ちゃんが元気になって」

「あはは、ありがとぉ」

「今日はこのまま寝よっか」


 紅葉ちゃんは私の髪を掻き分けながら目を合わせてくる。


「あっ黄依ちゃんにバレたら規律違反って怒られちゃんかな?」

「大丈夫だよー案外あんな生真面目でも黄依ちゃんえっちな事に興味あるから」


 一瞬変な予感が私の頭をよぎった。


「えっもしかして黄依ちゃんともシた事あるの?」


 まさかとは思って口に出してみたら物の見事に目を逸らしてきた。


「あぁ……えっーとその、一応……」


 女たらしなのか、女の子にモテてしまうのか、そもそも私が同性愛者で異常なのか。さっきとは違う軽い溜息が出た。


「えぇ……? ねぇ、紅葉ちゃんって貞操観念がないの? 流石に衿華怒るよ?」

「えぇーあぁ……うーんごめんね、お姉ちゃんの影響もあって割と女の子に対してならすぐに手を出しちゃう癖があって。でも、別に恋愛感情で手を出してる訳じゃないし」


 気まずそうに紅葉ちゃんは呟く。


「そーいう問題じゃないよぉ!」

「でも、ちゃんと意思は尊重してるし、黄依ちゃんだけだし、そもそも黄依ちゃんは白夜君のことが好きでしょ?」


 んんっ!? どういう理論なの!? ていうかなんでそれ知ってて手を出せるの? 今度はヤキモキしてきた!!!


「違うの! 紅葉ちゃんはどうか知らないけど、女の子は独占欲が強いの! そんなんでギスギスするの嫌だからこれ以上違う女の子に手を出さないで!」

「善処します……」

「ちゃんと直して! まためんどくさくなるよ!」


 アハハと口を歪めさせながら不器用に彼女が笑う。本当に分かってるの?


「もしかして、さっきのめんどくさかったのって私の態度が原因?」

「そうだよ!! 紅葉ちゃんのばぁーか!!!!」

「ごめん、ごめんって」

「絶ぇぇ対、薔薇ちゃんとか、ふみふみ先輩ちゃんに手ぇ出したらダメだからね!」

「はいはい、わかってますって」


 何かどっと疲れた気がする。もう、全部全部紅葉ちゃんのせいだ。


「眠いの衿華ちゃん?」

「うん」

「なら帰るよ? 私」

「今日は衿華と寝て!」


 紅葉ちゃんは一瞬目を丸くすると、演技くさくなく嬉しそうに笑い、私の隣にふわりと倒れこんだ。


「うん、分かった。今日はここにいるよ」

「ありがと」


 ゆらりと落ちる瞼。長くピンと張った睫毛。緩やかな曲線を描く二重瞼。細く、繊細で上品な眉毛が瞼の動きと同期して下に降りる。


「おやすみ」


 電気が消えると視覚の情報が無くなり、他の感覚器官がより際立つ。


 桜のような甘い薫り。肌に触れる熱い息。


 全て全て、私の物では無いもの。


「だけど、今だけは」


 触れてもいい。

 手を少し動かすだけで貴女に届く。


 温かい。


 この気持ちは、貴女を思うこの衝動は、


 きっと、憧れなのだろうか?


 疑問符が付くこの私の気持ちは貴女にきっと届かない。


「あぁ……切ないな」


 これからも、この気持ちが解決する事もなく反芻するのだろう。


「だから、衿華は貴女が好きなんです」

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