樹教襲撃編 1話 沙羅の狙い1
ーーそして、時は現在に戻る。
私ーー筒美紅葉は、死んだ筈の葉書お姉ちゃんと共に現在の贄の漆我沙羅様を守るべく、『焔』の本拠地に身を置いていた。
そして、私が元贄である漆我紅だった頃の概要を葉書お姉ちゃんやに教えた所だった。
「私の過去に起こった出来事をまとめると、まず『贄になり樹の大本である人間に接触し、この世から樹を消し去ろうとしたがそれが失敗し、逆に感情生命体に乗っ取られた』」
「それが私と会う前に会ったことよね」
お姉ちゃんがうんうんと頷きながら答える。
「この時、私はお父様ーー『漆我今様』だけでなく様々な人間を殺してしまった。そして、周りから疎まれる存在になるであろう私を祖父は名前を捨てさせ、母方であった筒美の家を本籍にしてそれから『筒美紅葉』の名前を名乗るようになった」
今度は沙羅様や止水さんに向けて話す。すると、止水さんが付け加えるように説明をする。
「だから、紅葉さんは護衛軍に入るまでは筒美先生の監視下にいた。よって一年前僕を殺したと宣言した『樹教の教祖である漆我紅』は貴女では無いという事ですね」
私の意図を読み取って彼は説明を付け加えてくれたのだった。正直、この誤解を解く為に一からこの長い話をしたのである。
「そう、樹教の教祖は私の名前を騙った偽物……そんな事ができるのはあの時命を逃れた自死欲感情生命体だけだと思うのだけど……」
「つまり、紅ちゃん……いや紅葉さんの今までの行動は樹教と直接戦う力をつける為に行ったものなのですね?」
沙羅様はおそらく私がDRAGにより特異能力者に戻った事を言っているのだろう。
「はい、そうなります。幸い祖父も青磁先生も協力してくれました。ですが……様々な思惑が飛び交っている為、衿華ちゃん……私の友達を巻き込んでしまいその果てに表情まで失ってしまった次第です」
先日の『恐怖』との闘い、アレも樹教が仕組んだものであると青磁先生は言っていた。
「詳しく教えて頂きありがとうございました。紅葉さん、お辛かったでしょう……この十年間」
止水さんは先程私を『紅』の方の名前で読んだのを気にしているのか頭を下げた。
「頭をあげてください……それは姉や瑠璃くん、黄依ちゃん衿華ちゃん達が必死に私を支えてくれたお陰です」
「……そういえば紅葉さんと瑠璃はすでに知り合いでしたね」
彼はふと瑠璃くんについて尋ねてくる。
「紅葉さん……瑠璃の今の様子はどうですか?」
「貴方が何故瑠璃くんを……?」
そういえば、そうだった。『止水題』の名前をあちこちで聞き過ぎて誰と誰が知り合いなのか分からない状態だった。
「あぁ……瑠璃は僕の妻の弟ですよ」
「妻というと……瑠璃くんの双子の姉の翠ちゃんですか?」
「いえいえ、色絵家には青磁の上にもう一人紫苑という姉がいるのですよ。彼女が私の妻です」
思い出した。旦那が死んでヒステリックを起こした結果瑠璃くんを家の中に閉じ込めているという例の姉か。
「なるほど、そういう繋がりがあったのですね。瑠璃くんなら今は護衛軍に入る為の試験を受けているんじゃないですかね?」
「そうですか……良かった……きっと彼も紅葉さんに会って変わったのでしょう。もし瑠璃が貴女の部下になったら可愛がってあげて下さい」
「はい、勿論です」
私は頷いて答える。
「それで、紅葉ちゃんの過去に何があったのかは詳しくは分かったのだけど何で沙羅様は私や止水さんを生き返らせて、紅葉ちゃんをここに呼んだんですか?」
葉書お姉ちゃんが沙羅様に首を傾げながら伝えた。最初は彼女の代わりに贄をもう一度やって欲しいと頼まれると思ったのだけどどうやらそうではないらしい。
「……皆さまはもう紅蓮兄様にはお会いしたんですよね?」
唐突に出てきた彼の名前。
「はい、確かよく分からない特異能力を持って……」
「そうです、今は兄様も特異能力者として覚醒をしたのです。ですから、彼は漆我家の権力とその力を使ってこの『焔』という組織を立ち上げました」
建前上『焔』が社会的弱者への平等を掲げながら、護衛軍に反対し贄の制度に反論しているのは確実に紅蓮の思惑なのだろう。
「そう、彼は私が贄を辞めれるようにするためだけにこの組織を作ったのです。とても厄介です。でも、彼の特異能力は私が見たところ漆我家の『物質の消滅』の特異能力の最上位系だと思われます」
なるほど、だからあの炎は感情生命体を燃やすように消滅させ灰すら残さなかったのか。
「ですから、私は来るべき樹教との決戦の日迄に紅蓮兄様を護衛軍の味方にし、まともに闘えるように訓練させて欲しいのです」




