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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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漆我紅編 6話 タナトス2

 私はその滾らせた ERG(エルグ)を周囲に向けて放出しようとする。


「『衝動パトス』か……!」


 祖父が呟いた瞬間、彼とは別の方向から感知の出来なかった攻撃を喰らう。


「……⁉︎」

「普通に攻撃はできますね……『衝動パトス』は止めましたよ、筒美つつみ先生」


 後ろを振り返ると、止水しすいだいさんがそこに立っていた。


「なんで急所を狙わなかった……題っ!」

「むしろよく自分の孫娘を殴れますよね、先生⁉︎」

「会話する余裕なんてあるのかしら⁉︎」


 体外に ERG(エルグ)を放出し、彼等二人を二人を押し潰そうとする。見えない空気の塊が彼等を押し潰そうとする。


 しかし、彼等はそれを易々と感知し避ける。


「へぇ……子孫達は戦闘能力だけは高いのかしら……少しトラウマになりそうよ」

「オイッ! くれない⁉︎ 聞こえているか⁉︎」

感情生命体エスターに乗っ取られてらんだから聞こえてるわけ無いじゃないですか」

「舐めないでくれないかしら? この子の身体は既に私のものよ」


 すると、あからさまに止水題は『タナトス』の言葉に反応した。


「なるほど……やはり意思疎通はできるわけですね。という事は瑠璃るり感情生命体エスターの一人……」


 急に『タナトス』は私の身体のより深くまで潜り込もうとしてきた。


 不味い……それを触られたら、私の特異能力エゴが……!


「逃……げて!」


 ギリギリ、身体の支配権を取り戻し彼等に注意する。


「遅いッ! 『生者必滅パンタレイ』!」


 しかし、また身体全体の支配権を乗っ取られ、勝手に手を勝手に前に出してしまう。


生者必滅パンタレイ』ーー 自身のERG(エルグ)が触れた物質をこの世から電子ごと消し去る私の特異能力エゴ……


 本来なら生物を永遠に閉じ込める自死欲タナトスとは全く逆の特性の能力。何故私に乗り移りった『タナトス』が私の特異能力エゴを使いこなせているのか分からない。


 だけど、これに触れれば何人も死んでしまう……!


 いくら二人が目に見えないくらい早く動けてもいつかは私の ERG(エルグ)を吸い込んでしまう……!


 瞬間、目の前の二人から膨大なエネルギーが発せられる。


「筒美流対人術急ノ項『狂花きょうか

「『光風霽月アタラクシア』ーー」


 言葉が聞こえた時には腹を貫く痛みと共に既に私の体が宙に浮いていた。


くれない特異能力エゴERG(エルグ)に触れると危険だ」

「つまり触れなければいいだけの話……! 喩え『衝動パトス』に切り替えても僕の速さにはかないませんよ」


 すると、もう一度『タナトス』が私の口を開いて喋りだす。


「はぁ……はぁ……亜光速に時間停止……! お喋りしても余裕な位、実力はあるってわけね……!」


 同時に、複数人がこちらに向かって来ている気配がする。


「……題、何か来るぞ……!今から来る奴らのカバーをしろ」

「了解です、先生」


 止水題さんは特異能力エゴを使おうとした瞬間私の背中から突如禍禍しい片翼の翼のようなものが飛び出すように生える。


「残念……もう空気中の『感情由来物質エルグ』は全部私の中なの!」

「『贄の翼』を乗っ取ったのか⁉︎」

特異能力エゴが発動しない……⁉︎」

「『自死欲タナトス』ッ! 空間を支配しろッ!」


 そして、その翼からまた自死欲タナトスに汚染された ERG(エルグ)が放出される。


「ッ……⁉︎」


 止水さんは即座に気付き私との距離を置くが、それを少量吸い込んだため、膝を付く。


「そうか……贄の能力で空気中に ERG(エルグ)を散布する気か⁉︎ 」

「すいません……油断しました」

「いい、気にするな。おい! 下にいるやつ呼吸をするんじゃねぇぞ!」


 祖父は咄嗟に大声を出して、下からこちらへ来ようとしている人々に伝える。


「流石に対応が早いわね」

「……ッ! 防御術破ノ項『花形はながた』ッ!」


 タナトスの攻撃に祖父は咄嗟に守りを入れるが、 ERG(エルグ)を吸収できない状況下なのか、薄く固めた ERG(エルグ)が砕け身体が飛んでいく。


「クッ!」

「これで『時間停止』と『肉体強化』は出来なくなったわね……! 援軍が来たみたいだけど、ある程度の人達は吸い込んでしまったみたいよ?」


 下の方から、叫び声とそれを止めるような声が響く。


「さぁ……これで私は『桜』に逢いに行ける……! その前にこの樹の封印を解放するのが先かしらね……! さて……」


 タナトスが私の身体を動かそうとした瞬間、違和感に気付く。


 私とタナトスの反応速度がかなり遅くなっている。タナトスが足を動かそうとしても、1分ほど反応がしない。ついでにかなりの寒気が肌を襲って来ていた。


特異能力エゴか……?」


 目の前にいた祖父や題さんの姿もいつのまにか体制を立て直していた。


 そして、高速でこちらに向かって来る反応を5つ確認する。


 おそらく、この体感速度を捻じ曲げている特異能力者エゴイストもこの中にいるのだろう。


 二つはほぼ感情生命体エスターと変わらないような気配。


 残り三つはその感情生命体エスターのような気配から出た ERG(エルグ)を体内に取り込みながら此方へ来ている特異能力者エゴイストの気配。その中には父の気配も混じっていた。


 気付くとその五人は私の目の前にいた。


くれ……助けにきたよ!」

「題! ライバルであるこの俺が助けに来てやったぜ!」

「あぁ……!助かったよ氷華ひょうか

「今度いい飯奢れよ!」

「……そうだね……了解、ラーメン食いに行こうか」


 父親ともう一人は、止水さんと同じ位の年齢の青年。彼の特異能力エゴによって私の体感速度が遅くなっているのであろう。


「まさかDRAG(ドラッグ)を使うと感情生命体エスターになりかかるなんてね……青磁せいじ……気にしてないといいのだけど」

「大丈夫よ、貴方……青磁は強い子だから」


 そして、ほとんど感情生命体エスターになっている特異能力者エゴイスト……おそらく青磁さんの両親と思われる二人。


「ですが、色絵しきえさん。今は私が『痛覚支配ペインハッカー』で色々食い止めています……大事に至らないうちに早く終わらせましょう」


 最後の一人はお婆様と同じくらいの歳の女性だった。


「そうね、ふき羽衣はごろもさん」

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