漆我紅編 4話 贄になるということ2
「紅蓮くん! 沙羅ちゃん! 久しぶり!」
私は二人に声を掛けながら、青磁さんの手を引っ張る。
「ん?」
「あっ……! くれないちゃんだ!」
二人は私に笑顔で話しかけようとすると、ボディーガードのようにサングラスをかけた紅蓮くんが沙羅ちゃんの前に立ち塞がる。
「どうしたの……紅蓮くん? 沙羅ちゃんと喋れないんだけど!」
「おいこら、何勝手に贄様が俺の妹に話しかけようとしてんだ」
「なんでダメなの?」
「は? 俺が決めたからだよ!」
沙羅ちゃんと青磁さんはやれやれと言った感じで、紅蓮くんに注意する。
「君……紅蓮くんだっけ? 紅様はこれから世界の命運を握る方なんだよ……使う言葉くらい少し考えた方がいいんじゃないか?」
「そうだよ! おにいちゃん、私くれないちゃんとお喋りがしたい!」
すると、紅蓮くんは少し怒った顔で私達を睨んでくる。
「沙羅は俺が守る! だから、近づくんじゃねぇ!」
「……ねぇねぇ、紅蓮くん。それって沙羅ちゃんが大事ってこと?」
彼の言葉に疑問を抱いた私は素直に彼に質問してしまう。すると彼は困ったのか汗をかきながら少し黙った後叫び出す。
「……そうだよ! なんか文句でもあるのか⁉︎」
顔を真っ赤にしながら彼が言うものだから、私や沙羅ちゃん、青磁さんまで吹き出して笑い出す。
「あっはっはっ! 君面白いな!」
「んだとてめぇ! 歳上だからって調子乗ってんじゃねえぞ⁉︎」
「紅蓮くん照れてるんだ〜!」
「黙れよ! 紅! はっ倒すぞ⁉︎」
すると、紅蓮くんの後ろから沙羅ちゃんが出てくる。
「もぅ……おにいちゃん! くれないちゃんにそんな口の聞き方しちゃ駄目だよ!」
「……お前が言うなら……まぁ少しは考えるけどさ」
舌足らずな沙羅ちゃんの声を聴くと彼は顔をポリポリと書きながら照れ隠しをする。
「久しぶり〜沙羅ちゃん」
「ひさしぶり〜くれないちゃん」
沙羅ちゃんが私に抱きついてきたので、青磁さんの手を離し、彼女の身体を抱き抱える。
「大きくなったねぇ」
「いやいや、これからだよ。そういえば……くれないちゃん、私たちに対してはソンケイ語……? 使わなくてもいいの?」
「二人は昔からの知り合いだからね、子供同士の話し合いに礼儀なんて要らないと思うのよ!」
私は胸を張りながらそう言う。
「良かったぁ〜私ソンケイ語苦手だから、くれないちゃんとお話出来なくなると思ったよ」
「いつでも話かけていいからね、沙羅ちゃん」
「ありがとう、くれないちゃん」
沙羅ちゃんが私の身体から離れて、紅蓮くんの方に振り返り彼に笑顔で言う。
「おにいちゃん! くれないちゃんは優しいよ! だからあんまり嫌ってあげないでね?」
「……んな事位分かってるつっーの」
溜息を吐きながら彼はそう言うと沙羅ちゃんは思い出したようにまた喋り出した。
「そうだ、おにいちゃん約束してくれる? 私の事ずっとずーっと守ってくれるって」
「当たり前だろ。たった一人の妹なんだから」
すると沙羅ちゃんは満面の笑みでこちらを見てくる。
「今の聴いた? くれないちゃん! 私をずっーと守ってくれるって。とっても嬉しいな!」
「良かったね!」
「そろそろ、おかあさん達の所に行かなきゃ! バイバイ、くれないちゃん!」
「バイバイ!」
彼女は紅蓮くんに手を繋がれながら彼等の両親の所へ向かった。
タイミングを見計ったのか、今までずっと静かにしていた青磁さんは喋り始めた。
「彼……馬鹿ですけどいい奴ですね。あんな小さな妹を想う所とか、中々見どころ有ると思いますね」
「ふふっ……馬鹿かぁ……それ聴いたら紅蓮くん怒るだろうなぁ」
「そうに違いないですね」
彼は頭の良さそうな見た目に反して、クスクスと笑い続ける。
「そういえば、そろそろ引き継ぎ式の時間じゃないですか?」
「本当だ……ありがとうございます。付き合っていただいて!」
「いえいえ、これくらい普通ですよ」
私は両親の場所へ行こうとすると、彼が手を振っているのがわかった。
「また今度逢いましょうね」
「ええ、また今度」
そして、私は両親の元へ向かった。
「ただいま戻りました! お父様! お母様!」
「おかえりなさい、紅」
「おかえり、紅ちゃん」
私は二人の間に挟まって手を繋ぐ。
「そろそろ、時間だよ。じゃあこの上にいらっしゃる、お婆様の元へ行こうか」
「大丈夫よ。紅ちゃんになら贄は務まるわ」
三人で樹の中にある坂を登っていく。それを見守る護衛軍の人々や青磁さん、沙羅ちゃんや紅蓮くん。皆が此方を注目し、拍手が送られる。
「緊張してきました……!」
「ふふっ大丈夫よ。お義母様は優しいから」
そして、坂を登り終えると二人が手を離す。
「ここからは一人で行きなさい、紅」
「私たちはここで貴女の成功を待っているわ」
その言葉の意味をしっかりと噛み締めた後、私は坂の上に続く道の先にある玉座に向かった。
そこには一人、美しく儚げでまるで機械のように冷たくどこまでも赤く黒い瞳を持っている老婆がいた。




