漆我紅編 3話 贄になるという事
半年後、私は父方の祖母ーー先代の贄の役割を引き継ぐ為、家族やある程度の護衛軍と共に死喰いの樹の最上部にいた。
そこは、私達漆我家以外は『衝動』の影響が強い場所なので立ち入れ無いが、護衛軍幹部にそれを打ち消す特異能力者がいた。だから、護衛軍の人達も問題なくここに入れたのだろう。今にして思えば彼女が衿華ちゃんの祖母……蕗羽衣だったのだろう。
この面子の中で特に変わっていたのが、新人らしき人達が四人の人々、それに私よりも一回り年上の男の子が1人いた。そして、漆我紅蓮と漆我沙羅の姿だった。
その新人達はそれぞれ、止水題、浅葱氷華、色絵紫苑、天照輝の18歳頃の姿だった。
男の子の方は色絵青磁の14歳頃の姿だった。彼はこの時点で作ったDRAGの成果の発表の為わざわざ来たのだろう。
「……お父様、あそこに年上のお兄さんがいますよ!」
「紅、あの子は色絵家の長男の青磁くんだ。14歳にして、護衛軍長年の悲願であった『特異能力』の強化を行う事ができ、更に医学薬学の知識も大人顔負けのレベルで持っているんだよ」
「私と4歳しか変わらないのに凄い……! あちらにも、紅蓮くんや沙羅ちゃんがいます! 皆さんに話しかけに行ってもいいですか?」
「いいよ、行って来なさい」
父は私を笑顔で送り出した。
そして、私は彼の方に真っ直ぐ向かって行く。
「あの……はじめまして……色絵青磁さん……?」
「……お初にお目にかかります、紅様。紅様に名前を憶えて頂けて光栄です」
この頃の彼は現在と違い私に対して非常に礼儀の正しい言葉遣いをしていた。
「そんな……堅苦しい挨拶じゃなくても大丈夫ですよ」
「いえいえ、社交辞令というものはやはり大事ですよ。紅様。もうすぐで全ての人の命が貴女に託されるのです。畏ってしまうのも無理もない話でしょう?」
それでも、言葉の選び方が少しばかり捻くれているのは生来の性格だったのだろうか。少し笑いながら私と話そうとしてくれた。
「そうかしら? 私は貴方とただ仲良くしたいだけなのですけど」
「なら、うちの双子の妹や弟と仲良くしてあげて下さい。彼女達は私の姉や貴女の様な明るい女性の友達を欲しがっています。是非、今回の引継式が無事成功し、死喰いの樹がなくなったら、是非はウチへいらっしゃって下さい」
双子の姉弟と聴き私は興味を持つ。
「双子ですか……! それは楽しみです! 妹さんと弟さんのお名前はなんというのですか?」
「翠と瑠璃です。翠は鉱石の翡翠の翠から取って『すい』と書き、瑠璃はラピスラズリの和名で瑠璃です。2人とも鉱石の名前から名付けられたんですよ。僕もあの2人は鉱石の様に美しいと思っていますよ」
「素敵ですね」
彼は誇らしげに私に説明をしてくれる。すると母が私の方へ歩いてきた。
「あら? 紅ちゃん。青磁くんと何をしているの?」
「お母様! 青磁さんの兄妹のお話をお聞きしていました」
「僕の弟と妹の名前が鉱石の名前由来という話をしていました」
すると母は意外そうな顔をする
「ふぅーん……奇遇ね。紅ちゃんも鉱石の名前が由来なのよ?」
「えっ⁉︎ そうなんですか? お母様!」
「紅玉……ルビーですね。ルビーには『愛情』や『熱情』など様々な暗示が有ります」
青磁さんはすぐに答えを呟く。
「流石、青磁くん。やっぱり色々知ってるんだね」
「昔、図鑑とかよく読んでたので……」
「ルビーってお母様の指輪の石使われているものですよね?」
「そうだよ。あの人から貰った石なのよ。もし貴女が好きな人ができたらこの指輪あげるね」
「やった……! ありがとうございます!」
「ふふっ楽しみにしてるわよ!」
母はチラリとこちらを見ながらニヤニヤする。おそらく、青磁さんと私が喋っていたのが微笑ましかったのだろう。
「……何か勘違いされたような」
「うん……まだそんな、好きな人とか居ませんし」
「それもそれで傷つくような気もしますけどね」
フッと彼は笑う。
「気にしないで下さい。青磁さんにはきっといい方がパートナーになってくれますよ」
「だと、いいですけどね」
「そうだ……あったに同い年のいとこがいるんです! 一緒に行きませんか?」
「分かりました」
私は彼の手を取り、走り出したのであった。




