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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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贄誘拐編 14話 焔3

 確かに彼が味方なら、まだ大丈夫だけど、それにしたってあんな安定性の無い能力、戦力の内に入れていいのか心配になってくる。


「どんな特異能力エゴか分かればいいのだけど……」

「なるほど、彼の特異能力エゴが気になるのかい?」


 急に背後に男の人の声がし、気配が現れた為振り返る。そこには、護衛軍の制服を着たショートカットで黒髪の落ち着いたイメージの男性がいた。


 すると、葉書はがきお姉ちゃんが彼に驚き声をかけた。


止水しすいさん! どこかへ行っていたんですか?」

「えぇ、たった今野暮用は済ませてきたところだよ」

「んじゃあ、この人が……」

「最強と呼び声高い特異能力者エゴイストよ」


 その言葉を聞くと彼は少々口を歪めて笑った。


「いやいや、さっきも負けたばっかりなんですよ。三回も負けたんじゃ、もう最強じゃ無いですって。あっ止水(だい)です。お願いします、封藤ふうとう先生のお孫さん」

「はい、筒美つつみ紅葉もみじです、よろしくお願いします。……ですけど、私が背後取られるなんてよっぽど無い事だと思うからそんな悲観する必要ないと思いますよ?」

「そういってもらえるとありがたいんですね……そう言えば紅葉さん、背後を取られたのってこれが初めてですか?」


 そう言えば、関所で会ったあの変な仮面男にも背後を取られて驚いた気がする。何気にあれがちゃんと筒美流奥義の訓練を終えてから初めて背後を取られた経験だと思う。


「……うーん、偶然か分からないんですけど、さっき別の場所で初めて背後を取られたんですよね」

「そいつ、仮面とかコートとかつけてませんでした?」


 記憶が正しければ、彼の言う通りそんな見た目をしていた気がする。


「そーですね。なんか変なこと言ってすぐ目の前から消えました。知り合いか何かですか?」

「えぇ……そんな感じですね。奴とはこれから腐れ縁になりそうです。あぁ、ご協力ありがとうございます。それだけ聞ければ十分です」


 するとお姉ちゃんはこっちを見て驚いた。


「紅葉ちゃんそんな変なコスプレした人に会ったの?」

「うん、まあ……」

「はは……彼のことは気にするだけ無駄ですよ。そんな事より今は、紅蓮ぐれんくんの特異能力エゴについて、お教えしないと」


 そうだ、と思い出し彼の出した炎がまだ燃え盛っているのが見える。


「あれ……そもそも火なんですか? それにしては、焼けても燃えカスは出ないし凄いおかしなことをしているように見えるのですが」

「そうですね、正確に言うとあれは火ではなく、ERG(エルグ)の塊ですね。ですから、本来ならあれに水をかけようとも、温度を下げようと、強い風で飛ばされようと燃え続けるのです」


 関所のおばさまもそんなことを言っていた気がする。時間が経たない限り何をしても消えない火。近付いても熱くなく見た目が火なだけでそれを火と形容するのは些か良くないと思うかもしれないが、物に移って燃えさかる姿を見れば、それをどうしても火に見えてしまうのは致しかない。


 すると、止水さんがとんちのような質問を繰り出してきた。


「ですが、もし彼の目の前であの火に水をかけて見たらどういうことが起きるかわかりますか?」

「……ほむ、あえてそういう聞き方をするということなら、あの火は水をかければ消えるということですか?」

「そうだね、少しややこしい話だけど、彼があの火を見ている間は炎として認識されている。その間は水をかければ消えるし、風が吹けば消える。そんなところかな」


 それじゃあ、感情生命体エスターが燃えた理由は……


「そうなると、感情生命体エスターが燃えた理由がわからなくなる……そうだよね?」

「はい」

「まぁ……それは彼が感情生命体エスターを燃える物だと勘違いしているから」


 ……ほう?


「言葉を悪くしていうと、彼の頭が残念だから……」

「……そっか」

「つまり、馬鹿」


 お姉ちゃん、それは辛辣だよ。


 心の中で、紅蓮に同情していると、こちらに紅蓮が歩いてきた。


「おいおい、見せ物じゃねえんだよ」

「まぁまぁ、良いじゃないか紅蓮ぐれんくん」


 止水さんが間に入り止めに入る。


「……あぁ、止水か。丁度良い、こいつらを沙羅しゃらの元へ案内してやれ」

「了解です……」


 紅蓮くんは吐き捨てるようにこの場を立ち去ろうとした為、私が声をかける。


「まって、まって紅蓮くん! 私のこと覚えてない?」


 振り向くと、こちらに顔を近づけて、サングラス越しでも見えるくらい私を睨みつけてくる。


「知らねーよ、クソガキ。ん? 待て……お前誰かに似てるな……待てよ……」


 するとお姉ちゃんが、間に入って彼を引き離した。


「それ以上、紅葉もみじちゃんに近づかないでくれる?」

「んだよ……そっちから言い出したことだろ」

「それはまぁ……ごめんなさい」


 お姉ちゃんがなぜか素直に謝ったとともに、紅蓮くんがこの場から去っていった。


「紅葉ちゃんなんであんなことしたの?」

「いや、まぁ……」

「……なるほどそういうことですか」


 状況を考えれば彼に私の正体を明かすのは良くないのだろう。


「ごめん……なさい」

「お気持ちは察しますが、彼の居るところでは絶対にその名前は言わないで下さいね」

「……痛いほどわかってます」


 そう、私は筒美つつみ紅葉という名前の他にも、もう一つ違う名前がある。それは、この場にいる人や沙羅様、祖父ししょつ以外には絶対にバレてはいけない名前。


漆我しつがくれない様……」


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