贄誘拐編 13話 焔2
私達は導かれたまま、入って奥の方にあった体育館らしき建物に入ろうとする。外のあった門とは違い元々ここにあった建物を使ったのだろうか。少しだけ古い建物になっている。
入る直前、ふと凄惨さと物々しさが合わさったような雰囲気が感じられたので足を止める。
同時にお姉ちゃんも足を止めた。
「……ここ、もしかして病室に使ってる?」
そう思った理由は、護衛軍本部の雰囲気に似ている所があったからであった。あそこの雰囲気はもっと物々しさが勝っている気もするが。
「そうみたいね。確か『焔』は社会から見捨てられた人、不治の病にかかってしまった人、そういう人達を差別なく助ける思想の元で組織されている。だからさっき私は『人権派』って言っていたの。その結果、建前上は違うけど本音では沙羅様だって可哀想じゃ無いかって言っている人達だからね」
なるほど……その批判の対象には護衛軍の方針と相容れない部分があるのか。確かに護衛軍は特異能力者に対しては何度も確認を取った上で入軍を認めているが、沙羅様に対しては強制的に贄にさせたという過去がある。
「実際正しいし、敵に回すとなると一番厄介な人達だね……」
だが、私は仮にも護衛軍。その立場の人間として動かなければ、私がここに来た意味が無い。
「紅葉ちゃんも苦しい立場になったからねぇ」
確かに私は護衛軍の佐官になった。いわば、幹部の一人と言っても過言では無いだろう。
「発言には気をつけなきゃね」
そんな事を話しながら体育館内を進んでいると、突然門の方から何かしらの感情生命体の気配を察知した。
「……ッ!」
「感情生命体」
次の瞬間、この敷地内全体に警報がなる。
「お姉ちゃん、とりあえずすぐに向かおう!」
「分かった」
駆け出した瞬間、後ろから男の怒鳴る声が聞こえた。
「部外者は引っ込んでろッ!」
その声を聴き、足を止める。振り返るとそこにはサングラスをかけた見た目20代後半の男性が居た。
「……漆我紅蓮」
お姉ちゃんがそう呟くと、彼はサングラスを外した。正しく、10年以上前に会った同い年の子供がそのまま成長したような顔だった。どちらかというと老け顔だから、それでも20歳後半に見えてしまうのは致し方ないが、彼は今おそらく丁度20歳だろう。
「おい、筒美誰だそのガキ。まさか連れてくるって言ってたお前の妹はそいつか?」
「えぇ、そうよ。ところで、こんな所で無駄話してて良いの? 感情生命体が来たっぽいけど?」
お姉ちゃんの嫌味口に彼は舌打ちをする。頭を掻きながら、私達を押し除けて道を通る。
「沙羅……俺だけで守れるって言っただろうがよ……」
私はお姉ちゃんの方を見ると飽きれたになっているのが分かった。
実際今の発言で、彼が重度に妹を過保護にしている事が分かった。
「ねぇ、お姉ちゃん。彼がどれだけやれるかどうか見てみたい」
「まぁ、良いんじゃない? 一応、死喰いの樹のテッペンまで沙羅様を迎えに来れるだけの能力は持ってるわけだし」
「それって、ただ単に漆我家だから死喰いの樹の影響を受けづらいだけだからね? 彼の能力じゃないよ」
「ふーん、じゃあ確かめてみようか」
私達二人は彼の後をこっそりついて行く。
体育館から外に出ると10メートル位の大きさの感情生命体が二体いた。
「二体か……足りねえなぁ! 俺を殺したいなら、あと千体は用意しろッ! それができねえならてめぇ自身が乗り込んでこいやッ! 紅ッ!」
漆我紅蓮は両手を広げてそこから二つ燃え盛る炎を生み出した。
「あんな事、筒美流奥義じゃ出来ないわよね」
「特異能力でしょ……多分」
私達二人はそこにあった階段に座りながら彼を見ていた。
「ウラァアッ!」
彼は生み出した炎をそれぞれの感情生命体に向かって投擲する。
「なんだアレ」
「火って投げれるもんなの?」
「いやぁ……絶対デタラメな能力使ってるよ」
下手したら薔薇ちゃんよりデタラメな能力かもしれない。
いわゆる雑に強いって感じの特異能力?
炎に当たった感情生命体はすぐ様叫び声を上げながら、死喰い樹の手を待つ事なく、崩壊していった。
「当たったら即死かぁ……流石、漆我家。エグい能力持ってるねぇ……」
「待って、待って、待って! なんで感情生命体が燃えてるの⁉︎ あいつら一切身体に可燃物含んでないからね⁉︎ ねぇお姉ちゃん⁉︎」
「……うーん、わかんない」
目の前で起こっている滅茶苦茶な現象に対してつい、頭が真っ白になってしまう。
まさか、この前関所に侵入した放火魔って漆我紅蓮の事……?
「ハァ……他愛無い奴らだ。まぁ大抵のもんは焼けば燃えるからな」
いや、燃えねえよ!
百歩譲って絶対、感情生命体は燃えねえよ!
危うく声を出してツッコミを入れたくなったが、ここは我慢して落ち着く。
「また、とんでもない奴が出てきたね、お姉ちゃん」
「まぁ味方なら良いんじゃない?」




