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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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贄誘拐編 12話 焔1

 後日、私ーー筒美つつみ紅葉もみじ葉書はがきお姉ちゃんと共に現在、沙羅しゃら様のいる『焔』の本拠地の近くまで来ていた。


 ここは、死喰い(タナトス)の樹の太い根で遮断された北陸にある。だからここへ来る為には、その根を掘って作ったトンネルを通るか、私達のように『自殺志願者の楽園(ユートピア)』側から回って直接入る方法でしか入る事が出来なかった。


 故に、現在護衛軍の本部があり最も発展している東海地方とは流通の薄さから都市として独立しており『焔』のような、犯罪や宗教に関与した組織ではない非公式的な政治的組織の本部を作るのには都合が良かった。


「お姉ちゃんって富山に来たことあるの?私は無いんだけど」

「私は生まれてこの方、『自殺志願者の楽園(ユートピア)』育ちだから外には殆ど出たこと無いわよ」

「へーそうなんだ。あっそういえば衿華えりかちゃんもこの辺出身だって聞いてたよ」


 そんな、当たり障りのない話をしながら工場の並ぶ街並みを歩く。


 どうやら、ここいらではERG(エルグ)を炭水化物に変化させる機械のある工場が多い。その機械は、死喰い(タナトス)の樹出現で分断され、必然と外部と交易出来なくなった結果起きてしまった食料不足を補う形で導入された技術らしいだ。


 勿論のこと、一般人から見れば空気から直にパンや米、うどんやラーメンを作っているようなイメージらしいのでとても画期的な発明として持ち上げられているらしい。


 だがしかし、元となっているのが死喰い(タナトス)の樹から放出されるERG(エルグ)だと考えると少々鳥肌が立つ。


 何故なら死喰い(タナトス)の樹から放出されるERG(エルグ)は全てあの中、永久に生死の間を彷徨っている人間の感情が元になっているのだから。


「知っている側から見るとこの光景は恐怖映像でしか無いよね。人の死体からとれたまだ完全に解析されていない物質を食べ物の材料として使っているって」

「でも、ERG(エルグ)なんてその辺の空気にうようよ漂っているからみんな口に入れて呼吸してるのよ。今更どうって事ないんじゃないの?」


 葉書お姉ちゃんの意見は確かに正論ではある。


「まぁそれもそうだけどさ、ERG(エルグ)とか花粉みたくああいう細かくてぷつぷつした集合体を身体の中に入れてるって考えると気持ち悪くならない?」

「あーそれは分かるかも。ERG(エルグ)を感知する為の『第六感』は私にも紅葉もみじちゃんにもある分、筒美つつみ流奥義を使う度、色々見えちゃうものもあるよね」


 例えば、吸い込む時は特に決まり切った形状は無い只の集合体が見えるのだけど、体内で濃縮し体外に放出した際『花びら』の形になる事など、ERG(エルグ)は様々な形状を見せる事がある。


 また、感情生命体エスター達が放出するERG(エルグ)にも特有の形状を表す事があり、『衝動パトス』を使った時は特にそれが顕著に現れる。だが、それに気付くのは大体ERG(エルグ)を吸い込んだ後。だから、感情生命体エスターとの闘いで死者が多数出ているのも、そう言う事が要因する訳なのだろう。


「流石に戦闘中にそんな事を気にする余裕は無いけどね」

「そりゃそうだね。気にする事のできるのはお師さまか止水しすいさんくらいでしょうね」


 お姉ちゃんから意外な人物の名前が出た。


「止水さん……? それって元旅団長の?」

「そうそう、紅葉ちゃんを仲間に引き入れようって提案してくれた協力者の人よ。私と同じで沙羅さら様に蘇らせて貰ったの」

「ふーん」


 最強の特異能力者エゴイストと呼ばれ、祖父ししょうーー筒美つつみ封藤ふうとうとも並ぶとされた存在。


 そこまで対策を練ってまで沙羅様は、贄の役割から引き下がりたかったのかな……


「そろそろ、『焔』の本部ね」


 地図を見ながらお姉ちゃんは呟いた。


 工場の並んだ街並の先に、体育館やプール、会館等の複合施設が壁と門に囲まれた場所が有った。その見た目はやや新しいがどこか急造感の否めない造りになっており、もしここに誰かが攻め入ったのならすぐにでも崩れさってしまうような建物だった。


 門の前には二人の銃を抱えた男性が見張りをしていた。私達は彼等に駆け寄る。


「おにーさん、おにーさん。『焔』の本拠地ってここであってますか?」


 彼等が私の顔を不思議そうな目で見ているのが分かる。


「あぁそうだけど……お嬢ちゃん達は?」

「えっーと、ここにいる止水さんに呼ばれたんですけど」


 すると、彼等はなるほどと声を上げて門を開いた。


「あっお勤めご苦労様です。わざわざすいませんね」


 私は社交辞令の如くペコリと頭を下げた。


「いえいえ、其方こそわざわざ出向いて頂きありがとうございます。事情はお聞きになっていると存じ上げておりますので、体育館側を通って奥の会館でお待ち下さい」

「ありがとうございます」


 私達は『焔』の本拠地に足を踏み入れたのであった。

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