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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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贄誘拐編 11話 積もる話3

 おそらく、現状況で沙羅さら様の身柄は漆我しつが紅蓮ぐれんの保護下に有る。それでも、そこが確実に安全とは言い切れないだろう。


 そして、沙羅様が紅蓮の保護下に入って喜ぶ理由は……


「彼女自身も贄の役割から逃げたかったから……」

「それも家族愛ってやつかしらね……」


 葉書はがきお姉ちゃんが呟くと、私は深く溜息をついた。


「そこまでの行動力があったなら、尚のことなんで沙羅さら様を攫ったのよ、漆我紅蓮……⁉︎ そんなのただ彼女を危険に晒すだけの事だって分からないの……?」


 彼の傲慢さが起こした行動に怒りが沸いてくる。


 でも、その怒りは私に対しても言えた。


 つい最近、私が衿華えりかちゃんしてしまった事と似ているからだ。私の勝手な事情で、勝手に巻き込んで、守れずに死なせた……


 私はただ未だに前に進めていないのだ。


 それに気付いた時、自分の浅はかさと虚無感が身体を突き抜ける。思わず、口内の肉を噛みちぎりそうな程に歯を立てる。


 それに気付いたのかお姉ちゃんは私の肩に手を置き、口を開いた。


「それでも、沙羅様を一人ぼっちにさせたくなかったからじゃないかな」


 それは漆我紅蓮を擁護するような言葉では無く、まるで私に優しく語りかけるかのような言葉だった。


「……そんな事しても、起こるのは間違いだけ……結局誰も真に幸せになんてなれやしないんだから……」


 責任から逃げた人間が辿る末路なんて……それ以上に過酷な世界……


 こんな形になってしまったこの世界がいい証明じゃないか……『死にたくない』なんて誰が責任を蔑ろにしたから……世界の方が狂ったんじゃないか……


紅葉くれちゃん、落ち着いて。そんな事にならない為に今私は貴女に会って話をしているのよ? お願いだから自分を責めないで」


 彼女は両方の手で私の片手を包み込んだ。


「それに私はもう紅葉くれちゃんの一部なんだよ?」


 自分の胸に有る物の存在を確かめると彼女には謝っても謝りきれない罪悪感と同じくらいの怒りが沸いてくる。


 彼女は私に怒りを向けて欲しかったのだろう。


「ごめんなさい……」


 でも、私には謝る事しか出来なかった。


 私にはこの感情を持つ資格が無いからだ。


 心にもやもやを残したまま、話題を元に戻す。


「……ねぇ多分だけど、沙羅様が私を懲戒処分にしてまで呼んだのは衿華えりかちゃんの特異能力エゴが理由?」

「そう、よく分かったね。沙羅様の命令で紅葉くれちゃんが懲戒処分になった事も……」

「そりゃ……状況を考えれば」


 沙羅様は贄の権能で葉書お姉ちゃんを介して、私の感情と記憶を読み取ったのだろう。葉書お姉ちゃんが衿華ちゃんを知っているのもそれで納得が出来る。


 しかし、友人一人を守れなかった私が、人間にとって何よりも大切であるはずの沙羅様を守れる事ができるのだろうか……


「……そっか。今度は全人類の命」

紅葉くれちゃん……」


 心配そうに見つめる彼女。


 そして、私の背には背負えば背負うほど、重くなっていく業の数々。それをいくつ抱えれば、私は赦されるのだろうか。


「違う……」


 私は赦されてはいけない。誰かに赦しを乞うことすら赦されてはいけない。


 いつまでも、こんな風にへこんでいちゃいけない。


 責任を……果たさなきゃいけない。


 私はその為に……


「『どうか、この世界を私の手で守らせてください』」


 誰かを守れるくらい強く、そして正しい存在にならなくちゃいけない。


 私がそう心に決めると、お姉ちゃんは少し口元を緩めながら笑う。


「それ、私の真似?」


 そういえば、昔お姉ちゃんにそんな事言われた記憶が有る。あの時、私が生きる意味を持った言葉。だけど、今度は意味を履き違えない。


「そうかもしれない。でも、今度は自分で決めた……もう道は間違えないから」

「ううん、一つ間違いがあるよ」


 彼女は笑いながら、私と自分自身に向けて指を指した。


「『どうか、この世界を"私たち"の手で守らせてください』でしょ?」


 お姉ちゃんが言った言葉の意味を少し考えて、理解してから私も笑った。


 正確には表情には出せていないのだろうけど、きっと笑ったいてくれた筈だ。


 お姉ちゃんのその言葉のお陰でもう少し前に進めた気がする。


「ただいま、お姉ちゃん」

「おかえりなさい、『紅葉もみじ』ちゃん」


 その日、止まっていた私達の時計の針がようやく動き出したのだった。


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