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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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贄誘拐編 10話 積もる話2

「誘拐……? えっ……? どういうこと……? それって不味くない?」


 死喰い(タナトス)の樹の贄であるはずの沙羅しゃら様が、死喰い(タナトス)の樹に居ない状況……それは紛れもなく人類全員の危機を表していた。


 本来、一般人が立ち入っただけで自殺衝動に駆り立てられるあの場所は彼女の命を守るにも都合の良い場所であったから、ずっとそこに、言わば監禁されていたと言ってもおかしくない状況であった。


「うん、すごい緊急事態なんだけどね、これは沙羅様が望んだことなの」

「……ほむ?」

「だから順を追って今の状況を説明していくね」


 葉書はがきお姉ちゃんは場所を変えようかと言い、私を死喰い(タナトス)の樹が見える縁側に誘導した。そして、彼女は遥か空に見えるその樹の頂点にある葉の生い茂った所を指さした。


「二週間前、私はあそこで沙羅様の手によって死喰い(タナトス)の樹の呪縛……永遠に生死を彷徨う呪縛から一時だけ解放された……さっき私はそう言ったわよね?」

「うん」


 現在の科学では、死喰い(タナトス)の樹に囚われてしまった人を元どおりに戻すことも、ましてや死喰い(タナトス)の樹から引き剥がす事すらできない。だからこそ、それをすることができる樹の贄はこの世界中の人から崇められている。


 だが、贄は本来『自死欲タナトス』の感情生命体エスター死喰い(タナトス)の樹の形態に留めておくための役職。それ故に『贄』であるのだ。


 だから、彼女の一存で死喰い(タナトス)の樹から所謂『復活者』を決める事はできなく、たとえ決められたとしてもその権能は1日程しか機能されないはずであり、遺族達と会えるのはその限られた時間のみで場所も私が先程までいたあの関所と決まっていたのだった。


「私の一件で果たされたのはこの二週間以上という長時間……それに正規の『復活者』として護衛軍の監視下に置かれないこと……この二つのイレギュラー」

「つまり、沙羅様は規約を破ってまで重要なことを成し遂げるためにお姉ちゃんを復活させたってこと?」

「簡単に言えばそうね……そして、その目的はーー」

「私に会うため……? そもそもその理由がよくわからないのだけど、それになんでそこで誘拐事件が絡んでくるの? それも沙羅様の思惑なの?」


 彼女達の思惑にいまいち腑に落ちない点が多い。というか、何がしたいのかよく分からない。


「そうねぇ……この話はいろいろな人の思惑が働いて成り立っていることなのよ……じゃあそこから、話しましょうか」


 彼女は一息つくと、また別の角度から話を始める。


紅葉くれちゃんは『焔』っていう人権派が徒党を組んで作り出した非公式の武力組織のことは知っているかしら?」

「贄の役割を一人の少女に任せて良いのかっていうことを疑問視している組織だよね……?」


 一般的には『復活者』の権利を一個人に握らせてはいけないと主張している組織ではあるけど、贄の本来の役割を知っている側からすれば少女一人の命が全人類の命と直結していることを危惧してできた組織なのだろう。


 もし、彼ら一派が沙羅様を誘拐したということなら動機はわかるけど、自分たちの命を救いたいならそれは本末転倒なのではという疑問が湧いてしまう。


「うん、その『焔』であってる。じゃあ、『焔』を最初に立案したのは誰でしょうか……?」

「……日本政府の人権派の上層部じゃないの?」

「ぶっぶ〜それは建前上の話、もうわかってるだろうけど人権派の意思だけじゃ『焔』は沙羅様を誘拐なんてしない」


 わかっていた事だけど、改めて間違いですと言われると何かムカつくものがある。


「じゃあ、樹教? それならそれで、政府の上層部が彼女達と繋がっているなんてことになったら大問題だと思うけど」


 それに彼女達に誘拐される状況なんて、沙羅様が望むこととは違うだろう……


「違うけど、実はいい線いってるんだよ。頑張れ頑張れもっと可能性を絞り込むんだ!」

「ちょっと黙って、今考えてるから」

「ごみん……」


 沙羅様が望む状況で、樹教がいい線か……


 かなり昔、何回かだけ贄になる前の彼女とは面識があったけど何かあったのだろうか……そういえば、血縁上沙羅様は樹教の教祖で元贄でもある漆我しつがくれないの従姉妹に当たる。漆我家内での贄候補争いなんて、沙羅様と彼女の間でしか起こってなかったことだと思うのだけど……


 いや一人だけ、変な性格のやつが居たような。確か、沙羅様のお兄ちゃんの……


「まさか、紅蓮ぐれんく……いや、漆我紅蓮が『焔』を作ったの……?」

「今、紅蓮くんって言いかけなかった? ……もしかして知り合い?」


 まだ私が祖父ししょうの家に来る前に父親関連で何度か関わったことがあるのを思い出す。確か沙羅様に貼り付いて回っていた、私よりも2歳くらい年上でサングラスをかけたあの男の子……


「いや、何回か話した程度だけど……まぁその昔いろいろあったというか」

「ああ……なるほどね、了解了解。それで話を本筋に戻すとその漆我紅蓮が『焔』を作った理由って言えばすぐにわかるかな?」


 どうやら、思った以上に状況は複雑なのだが、動機はかなり単純なものらしい。


「つまり、妹を取り返すために彼が沙羅様を誘拐したということ?」


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