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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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贄誘拐編 9話 積もる話1

 私は今半年ぶりに実家に帰ってきたのであった。そこは現代の洋和が混ざった家ではなく、縁側や蔵を始めとした現代の建物には見かけることのない日本家屋だった。


 私と葉書はがきお姉ちゃんはその家の一角である床の間のある畳の部屋で手を繋ぎ、雑魚寝をしていた。その部屋は外からは締め切られているせいか湿っぽく、そして私とお姉ちゃんの甘ったるい女の子特有の匂いが充満していた。


「暑いね……紅葉くれちゃん」

「はぁ……はぁ……お姉ちゃん窓開けよ?」


 吐息交じりに私は彼女の顔を見つめる。


「いいの?外に聞こえちゃうけど」

「え……まだする気でいたの? それにこんなところに人がいるわけないじゃん」

紅葉くれちゃん、大胆になったね〜もしかして露出趣味とかある?」


 彼女は微笑み髪をかき分けながらその優しい瞳で私を見つめた。


「なっないから! そんな趣味!」

「外でした方がいいなら付き合うけど?」

「……もうっ! 私疲れたのっ!」

「あら、残念」


 口の中を空気いっぱいにして膨らませて、精一杯怒っているアピールをする。


「何それぇ? フグの真似? けっこう可愛いかも」


 彼女に両頬を摘まれて引っ張られたり、摘まれたりする。そんな風に顔をこねこねされているうちに口の中からプシュ〜と空気が抜けてしまった。


「もうっ! 人の顔で遊ばないでよ!」

「もう一回やってよ!」

「やだ! 絶対小一時間くらいずっとやってってねだられるもん!」

「いいじゃん! ねぇ!」


 バタバタと畳の上で寝転びながら取っ組み合いをする。こっちもお姉ちゃんの頬を摘んだり引っ張ったりする。


「もうっ! 私たち大人なんだよ、お姉ちゃん!」

「私、享年17歳だから大人じゃないもーん!」

「実年齢じゃなくて、精神年齢の話!」


 ていうかそうなるとお姉ちゃん、年下の姉になるわけか……矛盾の塊みたいな言葉だな……


「……いっそのこと妹扱いするよ?」

「いーやだー!私は永遠に紅葉くれちゃんのお姉ちゃんなの!」

「わがままか!」


 思えば、お姉ちゃんと久しぶりにこんな軽い口喧嘩したのであった。それに気づいた私と彼女は二人で笑い合う。


「あはは……久しぶりだね。相変わらず、お姉ちゃんのいじわるさは変わってない」


 私が横向きお姉ちゃんの瞳を見つめると、彼女はこちらに笑いかけた。


「それはお互い様でしょ? 私が構おうとするといっつも照れて逃げちゃうところとか」


 そういえば、この家に来た最初の頃とかはずっとそうやって人を避けていたことを思い出す。


 そんな、昔を思い返すような話をしているとお姉ちゃんは急に真剣な顔をした。


「臓器移植のこと……私の勝手で貴女に『自死欲タナトス』の呪いをかけたこと……怒ってないの?」


 彼女は私の胸に手を翳す。


「いっぱい怒ったよ。でも、それは昔のこと……今になってはどうだろうな……わかんないっていうのが本音だと思うんだ」

「そっか……」

「今生きていられるからそれで良いって言い切りたかったけど……」

「とっても辛い事があったんだよね」

「でもそんなこと本当は言えないよ……だって、一番怖い思いしたのは衿華えりかちゃんだから」

「……」


 あの時、私がすぐにDRAG(ドラッグ)を使っていれば……あるいは『痛覚支配ペインハッカー』の真価に気づいて、衿華ちゃんをサポートできるような戦い方ができていれば……そう思うと後悔と責任が重くのしかかってくる。


「守りたかった女の子から守られちゃったんだね」

「うん……」


 その後、私は敵の感情生命体エスターに対して『殺意』しか持つ事をできなかった。


「どれだけ自分を慰めても、どれだけ煙草を吸っても……この心の『痛み』を癒すことはできなかった……」

紅葉くれちゃん……それは貴女がその『痛み』を手放そうとしないから」

「わかってるよ……でも……」

「『痛み』を手放すことは衿華ちゃんを忘れることだと思ってるの?」

「……うん」


 そうするとお姉ちゃんはそっかと息を吐く。


「だから、今は前に進むしかないって思ってるのね」

「そう決めたから」


 彼女に抱かれ頭を撫でられる。


「ありがと……話してくれて」

「今度はさ、お姉ちゃんのことを聞かせてよ。お姉ちゃんのことだから、何か理由があるんでしょ?」

「そうね」


 彼女は私から視線を逸らしながら私に言った。


「私が今ここにいられるのは、沙羅しゃら様に選ばれたから……」

「うん、そうだろうね」

「問題はここからなのよ」


 彼女は逸らした視線をもう一度私に向けた。


「私は今、紅葉くれちゃんと沙羅様を会わせないといけないの」


 沙羅様が私と……?


「説明しなきゃいけないことがたくさんあるのだけど、お師様がこの国にいない現状を考えるとそれが最善手だってもう一人の協力者の人も言っていたの」

「……ほむ?」


 お姉ちゃんの言い回し的に今、沙羅様には危機が迫っているのだろうか……?


 それに、お姉ちゃんともう一人沙羅様によって生き返らせてもらった人がいるのだろうか……?


「要点だけ言うとね今沙羅様が誘拐されているの」


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