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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 4話 霧咲黄依について3

 私達(エゴイスト)の身体の調律の一つである按摩が終わり、私、紅葉(もみじ)衿華(えりか)の三人は病院の屋上で夜空を眺めていた。

 空はあの樹に殆ど覆われているため、あまり見えないがそれでもチラリと姿を見せる星々と月明かりが私達を照らしていた。


「お疲れ様ぁ、黄依(きい)ちゃん」

「久しぶりにあれだけやり込んだからねぇ」

「気持ち良すぎて死ぬかと思ったわよ」


 ふぅっと息を吐くと紅葉は私の顔を覗く。


「悩み事でもあるの? 黄依ちゃん。本当に疲れてる顔してるけど」

「別にそんな事無いわよ」


 紅葉の顔を見ないように、夜空に顔を向ける。すると、逃さないようにする為に衿華が優しく頰を両手で塞ぎ、微笑みながら私に語りかける。


「黄依ちゃん、まだご家族のこと紅葉ちゃんに話してないよね?」

「黄依ちゃんの家族?」


 ズバリと話したかった事を当てられ、内心ドキリとしたが冷静になり人に話す事では無いようなことを思い出す。


「無理して話すような内容じゃないし、別に話さなくても良いわよ。変な気使わせちゃうし」

「でも……」

「大丈夫だから」


 なるべく笑ったように見せるが、流石にそこまで上手く笑えなかったようで、紅葉の表情が曇った。


「そっか、後天的に特異能力(エゴ)を発現したってことはそれ相応に辛い事があったんだよね」

「困ったな……紅葉にそんな顔されると、どうしたらいいか分からなくなる」


 私は紅葉にちゃんと知ってもらいたい。だけど、受け入れてもらえるかずっとずっと不安だった。


「どんな話でも黄依ちゃんの事だから私は知りたいよ。勿論、黄依ちゃんが辛くなければだけど」

「そうか、うん……」

「話して楽になるなら聞くよ?」

「分かった」


 私に手を差し伸べてくれたなら、紅葉には話そう。


「どこから話そうか。そうだ、私には外国人の血が入ってるんだった」


 そして、私が特異能力者(エゴイスト)になった時の話をした。紅葉はずっと私の目を見て聴いてくれた。


 手に入れた力で人に対して暴力を振るってしまった事を人に受け入れて貰えるか、私の本性には抗えない暴力性がある事を知られてしまうのがずっと怖かった。


 それでも紅葉は私を認めてくれた。


「うん……うん……大丈夫だから。私は何があっても黄依ちゃんの味方だから」


 優しかった時の母親のような温もりだった。


「だからね、いつも言ってるじゃん。私に依存していいよって」

「そっか、最初から全部分かってたんだね紅葉は」

「そんな事ないよ、偶々私も似たような事があっただけだし」

「紅葉も……?」


 私は紅葉の顔を見た。

 そこにあった顔は普段の取り繕ったような明るさは全く無くて、余りにも表情がなく、美しくて、人ではない機械の様な顔だった。


「紅葉ちゃん……?」


 衿華も同様に表情の変化に気づいていた様だった。しかし、瞬きをした瞬間いつもの紅葉に戻っていて誤魔化す様に笑いながら話した。


「またいつか話すよ。機会がくればね」

「まっそれで良いわよ。話すのに結構勇気いるし」

「そっか……」


 ここでちゃんと追求しなければ、後に私達と紅葉が後悔する日がやってくる。そう思わずにはいられなかったが、あんな顔を見せられたら、紅葉の過去に踏みこむ事が私にも衿華にも出来なかった。


 そして話は私の事について戻る。


「黄依ちゃんが十字架を背負うって言ってたのはそういう事だったんだね」

「まぁ……そんなところ」

「そうだ、黄依ちゃんを止めてくれた先輩って誰か覚えてる?」

「あぁ……確か一年前に殉職されたわよ」


 機関生の時、何回か会ったきりで結局お礼を言えずにいた。


「って黄依ちゃんその人って……⁉︎」

「あぁ、衿華にも名前まだ言ってないっけ」


 あの人は全ての特異能力者(エゴイスト)中でも最も強いと言われており、さらに誰もその能力が分からないと言われていた。しかし、その能力も明かされることなく彼はとある宗教団体の暗殺によって、樹に吊るされてしまった。


止水(しすい)(だい)元旅団長よ」

「黄依ちゃん題先生と戦ったことあったんだ……すごいね」

「いやいやいや、憶えてないし、普通に捕まったし」


 衿華が目を輝かせて見てきたが、あの人の強さを学生時代改めて見た私は思いっきり首を振る。


「うーん聴いたことあると思ったら、祖父(ししょう)が今まで教えた中で一番強いって言ってた人ね」

「あー……? そういえば、時々忘れちゃいそうになるけど紅葉のお祖父様、護衛軍の元大将だったわね」


 紅葉の祖父、筒美(つつみ)封藤(ふうとう)氏は護衛軍と機関の創立者。そして、筒美流奥義の創始者。今は引退して、死喰い(タナトス)の樹の麓の樹海で大量に発生する感情生命体(エスター)の数を減らしながら余生を過ごしていると紅葉が言っていた。


「そうだね」

「紅葉ちゃんのお祖父様って特異能力者(エゴイスト)じゃないんでしょ? それなのにこの組織の元頂点なんて一体何をしたんだろうね」

「さぁ……? でもそれに見合う位の身体能力は持ってるよ、私も全く歯が立たないし」

「全く周りが化け物だらけだと気が滅入るわね」

「私からしたら二人とも化け物だよ」


 化け物という言葉に反応して紅葉がふてくされた。


「ちょっとぉ! 化け物は酷くない?」

「私は違うけど紅葉は化け物というか、メスゴリラみたいなもんだし」


 一瞬、会話が止まる。


「めっ……めすごりらって?」

「なにそれ動物?」

「えっゴリラ知らないの? 二人とも、ちょっと待って見せるから」


 携帯で検索をすると、日本で唯一ゴリラ達が観れる動物園やらその中でも人気のイケメンゴリラ『シュバーニ君』やら色々と出てくる。


「ほら、これ」

「えっ? この黒くてフサフサしてるのが私?」

「あー確かに戦い方はこんな感じじゃない?」

「えーちょっと酷くなーい?」

「紅葉ちゃんみたいになんか頼もしいって感じもする」


 紅葉は笑いながら否定して、衿華は紅葉を見つめながらふふっと可愛らしく笑っている。そういえば、この動物園近くにあった気がする。確か昔家族に連れてって貰ったことが……


「今度の休み近くにこの動物園があるからに見に行く?」

「あっいいねぇー衿華も賛成」

「まだ似てるなんて納得してないけど一回見比べてみるのもアリかもね」


 あんな話をした後なのに、ノリが良かった。私はそれで良かった。まだ恥ずかしくて言葉にはできないけど。


「それじゃ、今度の非番の日に行こっか」

「ほーい」

「はーい」


 自分の事、紅葉に受け入れてもらえて聴いてもらえてよかった。ありがとう紅葉、衿華。

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