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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act three 第三幕 死にたい少女の死ねない理由
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贄誘拐編 4話 世間話1

「もし私が中で人とか見つけたら注意しておきますよ。これでも腕には自信があるので、超能力なんてドンと来いですよ」

「助かるわぁ、ありがとね」


 ふと、お土産を持ってきたのを思い出し、鞄の中を漁る。


「ちょっと待っててくださいね、お土産持ってきたんです」

「えっ気を遣わなくてもいいのにー」

「いえいえ、いつもお世話になっているので」

「んじゃありがたく頂いておくわ」


 そして、私は紙に包まれたお菓子箱を渡した。


「これは……?」


 彼女はその場で箱を開けて、中身を確かめる。


「『ちょっとだけ手前みそ』っていうチョコレートケーキです」

「ちょこれーとけーき?」


 そうか、この年代位になるとケーキを知らない人もいるのか。


「あぁ……えっーと、昔外国から来たお菓子なんですよ。輸入されたのは1500年代で……」

「へぇー良くそんなの知ってるわねぇ」

「友達に詳しい子がいて」


 そうこれは全部、黄依きいちゃんや衿華えりかちゃんの入れ知恵なのであった。二人とも普段はダイエットとか言いながら炭水化物は抜くのに、こういうお菓子とかは食べてたからなぁ……


「それじゃあ、頂くわね」


 一個ずつ個包装されていたお菓子を一つとり、袋を破り、彼女はそれを一口分口に入れた。


「んっ! これ美味しいわね! 他の人達にもとっておかなくちゃ」


 満足そうに彼女は笑顔で、チョコレートケーキを頬張った。


「喜んでいただけて良かったです」

「ちゃんと美味しいのね。和菓子と違って甘さが突き抜けてるわね」

「私も初めて食べた時はびっくりしました」


 私はお茶を飲みながらほっこりしていた。


「あっそうそう最近、凄い強い感情生命体エスターが静岡あたりの海辺で出現したって聞いたけど?」


 おそらく、『恐怖スキャーリィ』の話だろう。報道とかもされていたし、感情生命体エスターに関してはもはや死喰い(タナトス)の樹がある分、情報規制がかからないのは頷ける話だった。


「そうですねぇ……相当強かったみたいですよ」

「……もしかして、紅葉ちゃん戦ったの?」


 私はそのまま、お茶を飲み続ける。


 流石に、あの闘いに関わってたことは機密にしたいから、ここは無表情で嘘をつく。


「いいえ……でも上層部の人達によって倒されたみたいですよ」


 こういう時だけ、表情を無くした事にメリットが有ると感じると、皮肉めいた笑い声が出そうになったが、そこは抑えた。


「なら良かったのだけど……あの胡散臭い宗教が裏で関わってるだとか」

「あぁ……樹教のことですか」

「そうそう、あそこが感情生命体エスターを作ってるだとか、全人類を感情生命体エスターにするだとか……」

「……」


 樹教ーー前贄であった漆我しつがくれないを教祖……いや現人神とでも言うべきか。彼女を祀り、死喰い(タナトス)の樹を祀る宗教。先の『恐怖スキャーリィ』との闘いでも裏で糸を引いていたとされるのが彼女達であった。


 そして……私の父を殺したのも、間接的には言えど衿華えりかちゃんを殺したのも樹教だった。


 何よりも許せないのはそれを正義だと信じて行っている事。


「あいつらには関わらない方が良いですよ。ロクな事にならない」

「そうね……」


 嫌な事を思い出し少しだけ、苛々してしまった。


「……少し一服してきます」


 私は席を立ち、外へと向かおうとする。


「もしかして、煙草?」

「最近吸うようになったんです」

「……時間も経つものね……あんな寂しそうな顔した子供だった紅葉ちゃんが遂に煙草を……」

「駄目でした?」

「いやいや……なんならそうと早く言ってくれれば良いのに、私も付き合うわよ、あっこれ他の人たちには秘密ね」


 彼女はニヤリと笑いポケットから葉巻を出す。


「似合ってます、山賊のボスみたいな感じ」

「結構よく言われんのよそれ。紅葉ちゃんも結構様になってる」


 談笑しながら外へ向かう。


「友達、煙草吸うと怒るんですよ」

「まぁ、気持ちは分からなくもないわね。だって臭いもの」

「私は煙草の匂い落ち着いて好きなんですけどね」


 ベランダに着き、そこにあったベンチに二人で座る。


「そういえば紅葉ちゃんって吸って良い歳だっけ?」

「最近は18歳でも吸っていいんですよ。ほとんど税金もかけられなくなったみたいだし」

「へぇ……そっか、精神病と自殺対策の為に年齢下げたんだ」

「法律改正様々ですよ。他に大した娯楽なんて麻雀かお酒位だし、これがなきゃこんな仕事やってられない」

「相当ストレス溜まってるみたいね……おっさんみたいになってるわよ……」


 煙草を口に加えた後、火をつけて息を吸う。そのまま、口に入れた空気を肺には入れず、口の中で味わってから鼻と口から煙を出す。


「ふぁぁあ〜生き返る」

「ふかしてるの? 紙煙草なのに変わった吸い方ね」

「私、昔内臓の病気罹っちゃったじゃないですか。流石に気が引けて。それに、意外と長持ちするんですよ? この吸い方」

「ふーん、なら葉巻とかにすれば良いのに」


 彼女は口から煙を吐き、自分の持っている葉巻を指差す。


「あー……葉巻ってふかすんでしたっけ?」

「そうそう、大抵の男威嚇できて良いわよこれ」

「私には似合わないから良いですよ」

「ふふっ確かに、紅葉ちゃんには紙煙草の方が似合ってる」

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