贄誘拐編 4話 世間話1
「もし私が中で人とか見つけたら注意しておきますよ。これでも腕には自信があるので、超能力なんてドンと来いですよ」
「助かるわぁ、ありがとね」
ふと、お土産を持ってきたのを思い出し、鞄の中を漁る。
「ちょっと待っててくださいね、お土産持ってきたんです」
「えっ気を遣わなくてもいいのにー」
「いえいえ、いつもお世話になっているので」
「んじゃありがたく頂いておくわ」
そして、私は紙に包まれたお菓子箱を渡した。
「これは……?」
彼女はその場で箱を開けて、中身を確かめる。
「『ちょっとだけ手前みそ』っていうチョコレートケーキです」
「ちょこれーとけーき?」
そうか、この年代位になるとケーキを知らない人もいるのか。
「あぁ……えっーと、昔外国から来たお菓子なんですよ。輸入されたのは1500年代で……」
「へぇー良くそんなの知ってるわねぇ」
「友達に詳しい子がいて」
そうこれは全部、黄依ちゃんや衿華ちゃんの入れ知恵なのであった。二人とも普段はダイエットとか言いながら炭水化物は抜くのに、こういうお菓子とかは食べてたからなぁ……
「それじゃあ、頂くわね」
一個ずつ個包装されていたお菓子を一つとり、袋を破り、彼女はそれを一口分口に入れた。
「んっ! これ美味しいわね! 他の人達にもとっておかなくちゃ」
満足そうに彼女は笑顔で、チョコレートケーキを頬張った。
「喜んでいただけて良かったです」
「ちゃんと美味しいのね。和菓子と違って甘さが突き抜けてるわね」
「私も初めて食べた時はびっくりしました」
私はお茶を飲みながらほっこりしていた。
「あっそうそう最近、凄い強い感情生命体が静岡あたりの海辺で出現したって聞いたけど?」
おそらく、『恐怖』の話だろう。報道とかもされていたし、感情生命体に関してはもはや死喰いの樹がある分、情報規制がかからないのは頷ける話だった。
「そうですねぇ……相当強かったみたいですよ」
「……もしかして、紅葉ちゃん戦ったの?」
私はそのまま、お茶を飲み続ける。
流石に、あの闘いに関わってたことは機密にしたいから、ここは無表情で嘘をつく。
「いいえ……でも上層部の人達によって倒されたみたいですよ」
こういう時だけ、表情を無くした事にメリットが有ると感じると、皮肉めいた笑い声が出そうになったが、そこは抑えた。
「なら良かったのだけど……あの胡散臭い宗教が裏で関わってるだとか」
「あぁ……樹教のことですか」
「そうそう、あそこが感情生命体を作ってるだとか、全人類を感情生命体にするだとか……」
「……」
樹教ーー前贄であった漆我紅を教祖……いや現人神とでも言うべきか。彼女を祀り、死喰いの樹を祀る宗教。先の『恐怖』との闘いでも裏で糸を引いていたとされるのが彼女達であった。
そして……私の父を殺したのも、間接的には言えど衿華ちゃんを殺したのも樹教だった。
何よりも許せないのはそれを正義だと信じて行っている事。
「あいつらには関わらない方が良いですよ。ロクな事にならない」
「そうね……」
嫌な事を思い出し少しだけ、苛々してしまった。
「……少し一服してきます」
私は席を立ち、外へと向かおうとする。
「もしかして、煙草?」
「最近吸うようになったんです」
「……時間も経つものね……あんな寂しそうな顔した子供だった紅葉ちゃんが遂に煙草を……」
「駄目でした?」
「いやいや……なんならそうと早く言ってくれれば良いのに、私も付き合うわよ、あっこれ他の人たちには秘密ね」
彼女はニヤリと笑いポケットから葉巻を出す。
「似合ってます、山賊のボスみたいな感じ」
「結構よく言われんのよそれ。紅葉ちゃんも結構様になってる」
談笑しながら外へ向かう。
「友達、煙草吸うと怒るんですよ」
「まぁ、気持ちは分からなくもないわね。だって臭いもの」
「私は煙草の匂い落ち着いて好きなんですけどね」
ベランダに着き、そこにあったベンチに二人で座る。
「そういえば紅葉ちゃんって吸って良い歳だっけ?」
「最近は18歳でも吸っていいんですよ。ほとんど税金もかけられなくなったみたいだし」
「へぇ……そっか、精神病と自殺対策の為に年齢下げたんだ」
「法律改正様々ですよ。他に大した娯楽なんて麻雀かお酒位だし、これがなきゃこんな仕事やってられない」
「相当ストレス溜まってるみたいね……おっさんみたいになってるわよ……」
煙草を口に加えた後、火をつけて息を吸う。そのまま、口に入れた空気を肺には入れず、口の中で味わってから鼻と口から煙を出す。
「ふぁぁあ〜生き返る」
「ふかしてるの? 紙煙草なのに変わった吸い方ね」
「私、昔内臓の病気罹っちゃったじゃないですか。流石に気が引けて。それに、意外と長持ちするんですよ? この吸い方」
「ふーん、なら葉巻とかにすれば良いのに」
彼女は口から煙を吐き、自分の持っている葉巻を指差す。
「あー……葉巻ってふかすんでしたっけ?」
「そうそう、大抵の男威嚇できて良いわよこれ」
「私には似合わないから良いですよ」
「ふふっ確かに、紅葉ちゃんには紙煙草の方が似合ってる」




