贄誘拐編 3話 関所
駅から歩くと直ぐの所に、一般人が樹海に入らないようにする為の関所と夥しい程の不気味な木が並んだ樹海を見つける。
やはりそこにも、先程駅で見かけた気の衒ったような人達がカメラを持ち写真を撮るなどしていた。いつもの事ではあるのだが、ここはそういう人も集めやすいのだろう。
樹海に入るには、ここの関所に勤めている顔見知りの取締りの人に一言声をかけたいのだが、彼等が邪魔でどこに居るかさえ分からなかった。
「筒美紅葉ーーお前はそのままでいい」
後ろから、そんな様子を眺めていると、こんな夏近い季節なのに何処かの外国の文字らしきものが模様された黒いコートと仮面をつけた男性らしき人が後ろから私に声をかけられたのだった。
「……?」
振り返って確認しても、突然話しかけられた為返答に戸惑ってしまったが、続けて私に向けて彼はこう言ったのだった。
「……だが鎌柄鶏に気をつけろ」
「……ほむ?」
私は彼の気配を探ろうとした瞬間、その場から彼の情報の全てが消え去ったのだった。
目を離したつもりは無かったんだけど、その場にまるで居なかったみたいに消えたのだった。
「疲れてんのかな。私」
目を閉じ、ストレッチをした後、目を開き、振り返り関所の方をもう一度見た。すると顔見知りの取締りの人がこっちに手を振ってくれていたのだった。
「紅葉ちゃーん!」
「あっおば様! お久しぶりです」
私は彼女に手を振りながら駆け寄った。
「あらあら、半年振り位じゃない? 少し背伸びたんじゃないかしら?」
「最近背は測って無いんですよ。でも、1センチ位なら伸びたんじゃないですかね」
すると不思議そうな顔で彼女はこちらを見てきた。
「……? どうしたのさっきから無表情で、なんか嫌な事でもあったの?」
表情の事を聞かれて内心ビクリとする。護衛軍の末端組織の関所に勤めている人では、特異能力者の存在は知らないし、守秘義務がある……
「あー……諸事情で少し厄介な病気に罹っちゃって……」
「あらあら、またかい。あなた、三年前位にも変な病気やってたんでしょ? 護衛軍になったならもう少し健康に気をつかったら?」
「あはは……すいません……以後気を付けます」
どうやら上手く誤魔化せたようだが、これから人に会う度にこういう事説明しないといけなくなったと自覚するとなんだか気持ちが沈む。
「ところで紅葉ちゃん、何しに来たの?」
「休みを貰ったんです。帰ってきました」
「……まさか、懲戒処分とか食らったんじゃ無いでしょうねー?」
「まさかぁ〜ある訳ないじゃないですかぁ!」
……まぁ、嘘なんだけど。
「そういえば、一週間くらい前かな? 封藤さんが海外に出張してくるって言ってたわよ。もう引退して10年よぉ〜流石に働きすぎじゃないかしら?」
「……え? ってことは祖父家に居ないんですか?」
「そうなるわねぇ〜」
「そっかぁ……じゃあ今あの家誰も居ない訳なんですね」
それじゃあ本当に、家に帰ってもお姉ちゃんのお墓を手入れする事位しかやる事無いじゃん。
「ねぇねぇ……じゃあ暇だったりする?」
「そうですねぇ割と暇ですね」
「じゃあおばさんのお喋り相手になってくれるかしら? ここに来る人は大抵ああいう人ばっかだから気が滅入っちゃうのよぉー」
彼女は樹海に繋がる門がちゃんと閉まっているのを確認した後、ここに来た見物客を無視して、私を関所内部に招き入れた。
「お付き合いしますよ」
「ありがとう」
部屋に入り、お茶とお菓子を出される、それをつまみながら私は彼女の話を聞く。
「そうねぇ……二週間くらい前だったかしらねぇ……この関所が危うく火事になりかけたのよぉー」
「火事……ですか?」
「幸い大事には至らなかったんだけどね、その火が水をかけても消えなくて……その一瞬だけ、門から目を離しちゃったのよ」
水をかけても消えない火……?
「それでね、その火に近づいてみても全然熱く無いのよ」
「感情生命体の仕業か何かかなぁ……?」
「最初はそう思ってずっと警戒してたんだけど、何も起こらなくてね、すぐ封藤さんに相談してみたけど『大丈夫もうその件は解決したから』って返されたのよ」
……んじゃ、祖父がもうやっつけた……? それか祖父の知り合いの特異能力者の可能性もあったのかな……?
「それでね、私思うのよ。最近噂されてる、超能力者の存在、それがここに来て侵入したんじゃ無いかって」
やはり、情報規制は完全にされていないのか。噂程度には末端の構成員や一般人にも特異能力者の存在は知れ渡っている可能性も高いのか。
「ねぇねぇ、紅葉ちゃん。元トップの孫だし、本部勤めなんでしょ? 何か知ってる事無いの?」
「いやぁ……私も一末端の構成員だしなぁ……そういう話は良く耳にするけど、お爺ちゃんは絶対に教えてくれないんで」
「そっかぁ……残念だわぁ……」
こんな事知った所で何かが変わる訳じゃ無い……それにこういう人を巻き込まないのも護衛軍幹部の仕事の一つだった。




