贄誘拐編 2話 懲戒処分2
「私とつるんでも何も得しないと思うけど?」
私は彼等に自分が何者かが見えるように目の前に差し出す。
先の合同任務のお陰で私の護衛軍での地位が二尉官から三佐官に変わり、新しい身分証が発行されたのであった。二階級昇進の一番の理由は、私が特異能力者になったから。そして、私が数々の問題行動を起こし、権力を与え過ぎるのは良くないと判断されたから二階級止まりだったのだろう。
まぁ、階級なんて建前上なもの普段からあんな感じの護衛軍にはあまり関係ないものだけど。
でも、民間人に対してはそうじゃない。権力とか記号というものは分かりやすく、誰だって理解しやすいものだ。だから此方が立場を開示して、こういうトラブルがいち早く終わるのならそれでも良いと思った。
しかし、彼等の反応を見ると私は対処を間違えてしまったのかもしれない。
「なんだよ照れてんのかよ」
「照れんなよ〜悪かったって!」
「あっ見てみてよーこの子エリートの護衛軍だってさ笑笑」
別に自分の権力を掲げて、何も知らない一般人を跪かせたい訳でもなかった。
というか、むしろ彼等が過去に嫌な事があったから、こういうやられて胸糞が悪い事を仮に自殺者の心に寄り添う善意だと思っているなら、私はそれを正したいという思いはあった訳だが……
……それも私の傲慢というわけか。
「なになに? 護衛軍三佐官……? うーわっ……ンなわけないじゃん。俺達の事馬鹿にしてる? 嘘つくならもっとマシな嘘つきなよ。護衛軍っていうのは君みたいな子供の女の子には務まらない組織なんだよ」
「この身分証、良くできてるなぁ〜そこまでして人に構って貰いたかったの? あっ実は俺達、毎年護衛軍に受験してるんだよねぇ……あそこの厳しさは一番良く理解してるの。だから、こういう嘘ついてもすぐバレるよ〜相手が悪かったねぇ!」
「ちょっと言い方キツすぎでしょ、図星だからこの子表情も出せてないよ笑笑」
……前言撤回、コイツら相手になら少しくらい傲慢な態度の方がいいや。
というか万が一にもこういう輩が護衛軍に入ってきたら、上司になるであろう私は非常に困る。
だって、こんなのが戦場に居たら、邪魔でしょうがない。所要みたいな例外はあるかもしれないが、あれはもうやっている事が狂人の類だ。仕方ない、そういう特異能力なんだから。
「もういいでしょー?」
「早くホテル行こ〜よ〜」
「お前発情しすぎ笑笑 嫌なら別に嫌って言っていいんだよ? 俺達は他当たるし、でも自殺だけは絶対駄目だからね笑笑」
「お前何一人で格好つけようとしてんだよ」
なんなんだろうな。基本的にこういうのって、善意みたいなものが垣間見えて、私自身が嫌な思いをする。
なら、最初から振り返ったりせずに無視を続ければ良かったのだろうか。いや、それならそれで私がただ実家に帰ろうとするだけなのにそれを止められたのだろう。
めんどくさいな……人間って。
こうやって理解されないまま、勝手に接してくるならもっと別の勘違いをしてもらえれば良い。
そう思った瞬間、鞄に入っていた葉書お姉ちゃんのリボンを髪に結び口を開いた。
「分かった分かった」
私が呆れたような声を出すとようやく一人が異変に気付いた。
「おっ?」
「やっぱりそういう事じゃん、この子只の相手欲しなんだよ。早くいこーぜ」
「……おいっ! 二人とも待てって……!君っ!なんだよその周りの黒い腕……!」
私の周囲に禍禍しい気を放つ、黒い腕が漂い始め触れようとした所でリボンを解く。
「ふーん、見た事無いんだ。これさ死喰い樹の腕って言うんだよ?」
彼等はそれを見た瞬間、気を失った。
少々悪い気もするけど、どうせ寄ってくるのは私だし、彼等には微塵も手を出してないから大丈夫でしょ。
「たった、これだけの『衝動』で失神するなら、護衛軍でも武装組織の方の受験は諦めて、医療組織の方に行くのがおすすめだよ……って聴こえてないか」
まぁ、医療に関わるのにもこれに耐えれるだけの精神力と勉強する努力やら、人と関わる上でのコミュニケーション能力が必要なのは代わりないのだけど。それに、それは彼等自身の事。
私は人に対する善意や努力は絶対に否定はしたくない。
「流石に、貴方達でも死にたくなる事がどれだけ恐ろしい事か理解できたでしょ? だからもし、今後私を見かけても、『メンヘラ』だとか『自殺しそう』だとか『無表情』だとか言わないでね。……結構傷付くから」
私は『痛覚支配』を発動させ、彼等が受けた精神汚染を取り払う。
「やっぱり……こういう事不味かったかな……不用意にこういう場所に近づいた軽い代償だと思って反省して欲しい限だけど」
私は彼等を駅構内にあったベンチまで運び、寝かせた。
そして、少し考えた後、私は思った事をそのまま呟いてしまった。
「私も少し自意識過剰だったかも……」
見上げるとそこには死体が包まれた大量の樹の葉が空を覆い尽くすほど大量に存在していた。




