スキャーリィ編 エピローグ 3話 ケジメ
「衿華ちゃんの両親ですか……」
私は俯きながら続けて言う。
「私が会っても大丈夫なんでしょうか……?」
「……それを決めるのは紅葉ちゃんじゃないのかしら?」
「……そうですね」
私は眉間に手でつねり、どうするべきで有るのか考える。
きっと、会って話した所で、傷付くのはお互い。
だとしても、私は衿華ちゃんを傷つけた……だからこそ、彼等に会わなきゃいけない。それは責任感から来るモノや許して欲しいからするモノなのかもしれない。
未だに逃れたいと思う気持ちも何処かにあるのかもしれない。
でも、これは私がしたい事だからするんだ……
私にはそう思うことしかできないんだ。
「覚悟は出来たみたいね」
「はい……ありがとうございます」
私は天照さんが指を刺した別室の方に向かう。
扉の前につき、もう一度深呼吸をしてから、ノックをした。
「失礼します」
扉を開けるとそこには椅子に座りながら泣いている女性とその女性を宥めるように抱きしめている眼鏡の男性がいた。二人とも普段なら衿華ちゃんに似て穏やかそうな雰囲気を出していそうな人だった。
「君が……筒美紅葉さんかな?」
男性は優しい声を出し私の方を見る。
「はい、衿華さんと同じチームだった筒美紅葉です。彼女にはいつもお世話になっていました」
「僕は衿華の父親、蕗菖蒲。彼女は衿華の母親、蕗彩芽。今はまだ気持ちの整理が付かなくて、泣いているから彼女にはそうっとしてもらえると良いかな」
菖蒲さんがそういうと、彩芽さんは泣きながら声を出した。
「ごめんなさいっ……折角衿華のお友達に来て貰ったのにこんな姿見せちゃって……」
「大丈夫ですよ……彩芽さん。気持ちはわかります」
私は表情で気持ちを伝えられない分、なるべく優しい声で言った。
「衿華から話は聴いているよ。護衛軍では仲良くしてくれたらしいね。電話口で衿華が君の話をする時はいつも楽しそうだった……」
「……えぇ、そうなんです。衿華はずっと『紅葉ちゃんがね……紅葉ちゃんがね』って嬉しそうに話てくれたんです。最近なんて、貴女の隣で戦える事ばっかり自慢するようになったんですよ」
彼等は私に感謝しながら言う。
「衿華は紅葉さんの話をする様になってから、随分と明るくなったんです。だから、一言でもいいから感謝を伝えたくて、大将補佐の方に頼んだんです」
「そうですか」
私が衿華ちゃんにしていた事と彼等が言う台詞にズレが生じて、段々と気持ちがモヤモヤとしてくる。
「ありがとうございました……あんなに楽しそうに生きている衿華は初めて見たんです。あの子は幼い頃に病気を患ってから、特殊な力に目覚めてしまい、人とのコミュニケーションが苦手になってしまい、学校施設に預けられていたときは霧咲さん以外余り喋れなかったみたいなんです」
「はい」
すると、彩芽さんが私に伝えなきゃいけない事があると言った。
「衿華が最近電話口で言っていたんです。『衿華達の仕事は命を張って、一般の人達を守る仕事なんだよ。だから、弱い衿華は直ぐに死んじゃうかもしれない……でも、それは衿華の責任なんだから、衿華のチームの人たちや護衛軍の人達を責めないで欲しい』って」
「……」
「『それに衿華は紅葉ちゃんに何回も何回と任務中に助けられた事だってある。だからもし、衿華が死んじゃった時は紅葉ちゃんに今までありがとうって伝えて欲しいの』って」
私は彼女の言葉を聞いて顔を覆い崩れ落ちてしまった。崩れ落ちたのは余りにも悲しい筈なのにまた彼女の言葉によって救われたと勘違いしてしまったから。顔を覆ったのはそれでも変わらない表情を見られたく無かったから。
今程、表情を失いたく無かったと思う事はなかった。
今程、衿華ちゃんにしてきた行いが償えない罪だと感じた時は無かった。
「私達も今日この日に紅葉さんに会えて良かったです……なんだか、衿華が救われたそんな気がするんです。だから……ありがとうございます……責任や辛い思いをなさったのに……意を決して私達を衿華の告別式に呼んで頂いて」
彩芽さんは私の片手を取り、手を握って私に伝えてくれた。
「僕からもお礼を言わさせて下さい。紅葉さんのお陰で家内と決めたんです。衿華の事をちゃんと育てられなかった親として、ケジメをつけて泣くのは今日までにしようって。明日からは前を向いて生きていこうって」
私は、目を擦り無理やりにでも涙を流し、彼等を見る。
「だから紅葉さんも前を向いて下さい」
私に流れた涙は偽物かもしれない。
だけど、想いだけは本物だから……どうか今日だけは、今日だけはケジメをとして許して下さい。
「ずっと、泣きたかったんです」




