スキャーリィ編 エピローグ 2話 弔い2
「ごめんなさい」
静かに私は口を開いた。
「……もういい……話しかけないで」
黄依ちゃんは声を震わせながら顔を手に覆った。
彼女を泣かせてしまった。
私は最低な女だ。
「……」
「……」
静寂と気まずさ、そして周りが衿華ちゃんの死を哀しむ空気が包みこんでいった。
そして、そんな空気の中流れていく時間が私にとってどれだけ痛い時間だったのだろうか。特に、衿華ちゃんの両親が泣き叫び崩れ落ちた時は心臓が握り潰されているような感覚がした。
そうした時間を過ごして、この告別式は終わりの時間に差し掛かり、私の元に瑠璃くんや翠ちゃん、青磁先生達が来たので有った。
「……久しぶり紅葉」
気不味そうにまず声をかけてくれたのは瑠璃くんだった。
今日の彼の服装は黒い着物に、髪型は横髪を三つ編みに束ねて前に流しているような感じだった。
「うん、久しぶり」
「衿華さんの事……残念だったね……」
「うん」
「……ほんとだったんだね……顔の筋肉が動かせなくなったっていうのは」
「うん」
私は俯きながら答える。
「僕……何か出来ること無い?」
彼は必死に私の事を心配してくれているのか、私に話しかけてくれた。
「ありがとう……だけどね……これは瑠璃くんには治して欲しくないの」
それを言うと彼はとても落ち込んでいた。
それも……そうだろうな……
「違うよ……それは僕が治せないから紅葉は気を遣って僕に……」
「おい……やめとけ、瑠璃。今は言葉を重ねたって逆効果なだけだ。この馬鹿に嫌われたくなかったら今はそおっとしといてやれ」
珍しく髭や髪の毛を整えて礼服を着ている青磁先生が瑠璃くんを止めたのだった。
「……すまんな……紅葉……それは俺様が絶対に治してやるからな」
「……ありがとう、先生」
私はようやく彼等の方に顔を上げて、顔を見つめた。
私の顔をハッキリ見てしまったのか、彼は申し訳なさそうな顔をしながらもう一度口を開いた。
「……そうか……心だけは壊すなよ」
「うん……心得ておくよ」
すると後ろからちょこんと全体が黒く包まれたドレスで翠ちゃんが現れたのだった。
「紅葉ねーさん。またいつでも良いから、模擬戦しようね? 今は私も瑠璃くんと護衛軍に入る為に頑張ってるから……いつかチームを組めたらいいね」
「そうだね……翠ちゃん」
すると落ち込んでいた瑠璃くんに翠ちゃんが声をかけた。
「ほら瑠璃くんも、紅葉ねーさんの事、大事なんでしょ?」
「ちょっ……それは僕から自分で伝えたいって言ったじゃん! もう……翠ちゃん! なっなんでもないから紅葉っ! 今の忘れて!」
彼は顔を真っ赤にして言った。
そっか……まさか瑠璃くんが私のそんな風に思ってくれていたなんて。
「……ありがとうね、瑠璃くん。私、君にいっぱい救われ過ぎだよ……」
「……そんな……僕は……ただ……人がいたから今日も生きていけるだけなんだよ」
私は彼の頭を撫でた。
「待っててね、すぐに立ち直るから」
「よかった……うん、それでこそ紅葉だよ」
彼は私の手を握り締めてそう言ったのであった。
「じゃあまた、あと少しで護衛軍に入ることが出来るから……その時はよろしくね」
私は縦に頷いた。
「そうだな、俺様もいくつか調べなきゃいけない事がある。この辺でお暇させてもらうぜ?」
そして、彼は私に耳打ちをした。
「『蒲公英病』を作り出した感情生命体と樹教は無関係の線が高い。それにそのうち、樹教に動きが有る……もう戻らないところまで来たんだ……お前の自分の目的を忘れるなよ」
『蒲公英病』ーーそれは私がお姉ちゃんの臓器を移植する原因になった病の名前。『衝動』による汚染でERGの形状が赤く染まった蒲公英の種子と綿毛に似ていた為、そのような名前を付けられたのだった。
どうやら、あの病気は昔から少しでは有ったが感染者は居たらしいのだった。その感染者の中に衿華ちゃんが居たと知った時はなんともいえない運命のような物を感じ、動揺が止まらなかった事を思い出した。
「了解、頼むよ先生」
私がそう返すと青磁先生はニヤリと笑いそのまま瑠璃くんと翠ちゃんの二人を引っ張っていき帰っていった。
彼等を見送りに外に出ようとすると今度は天照さんから声をかけられた。
「また、人には言えないような裏話をしていたのかしら?」
「……そうですね」
「まぁ、それが社会の人達の為になるのならいいよの……」
「極論言っちゃえばそうですよね」
「私からも出来るだけ裏から手は尽くしてみるわ。誰が敵か分からないこの状況下じゃあ信頼出来る人も出来なくなるのかもしれない……」
「ほんと、怖いですよね……人間って」
「えぇ……そうね」
彼女は遠くを見ながら、自分のお腹をさすっていた。
「そういえば……衿華ちゃんのご両親が紅葉ちゃんに会いたがってたわよ?」




